第23話

蓮花塢の焼き付かれた終わりの始まり
16
2025/10/25 13:42 更新
虞紫鳶
虞紫鳶
お前、何て事を!?
虞紫鳶が金夫人の傍に屈み金光瑤に叫ぶ。
金光瑤
金光瑤
はあ?人の事は散々愚弄しておいて、自分がやられると文句を言うのですか?何様ですか、本当に?
金光瑤は侮蔑を込めて言い返す。
虞紫鳶
虞紫鳶
何ですって?
虞紫鳶は眉を吊り上げる。
金光瑤
金光瑤
大体あんた、何でそこまで魏公子を忌み嫌うんです?
虞紫鳶
虞紫鳶
…こいつは疫病神よ。こいつが蓮花塢に来てから碌な事が無かったわ。その挙げ句にこいつのせいで蓮花塢は燃えてしまった。
金光瑤
金光瑤
あ、そう。しかし、それだけですか?
金光瑤は侮蔑しきった顔で嗤う。
虞紫鳶
虞紫鳶
何が言いたいの?
金光瑤
金光瑤
あんたは魏公子本人ではなく魏公子に息づく彼の母君、蔵色散人殿に反応していたのでは?
虞紫鳶
虞紫鳶
金光瑤
金光瑤
もっとも、それはあんただけじゃなく藍じじいも金夫人もクソ下衆親父も、何なら江楓眠殿も同じでしょうが。
金光瑤はそう言ってニヤリと嗤う。
金光瑤
金光瑤
魏公子は何かにつけて母君そのものだと言われていました。そんな彼を間近で見続けて嘗ての劣等感を刺激されたのでしょう?
虞紫鳶
虞紫鳶
金光瑤
金光瑤
それに加えてあんたの子どもは何もかもが魏公子に及ばない。嘗ての自分と蔵色散人殿を見ているようで苛立たしかったんじゃないんですか?
虞紫鳶
虞紫鳶
…お黙り!
虞紫鳶は肩を震わせ憤る。
金光瑤
金光瑤
都合が悪くなったらそれですか?あんたと金夫人は間違いなく親友同士ですね。そういう所がそっくりだ。
虞紫鳶
虞紫鳶
お前に何が分かるというの!?
金光瑤
金光瑤
分かりませんよ。そう言うあんたらこそ、私や私の母の何が分かるというのですか?
金光瑤は虞紫鳶を睨み付ける。
虞紫鳶
虞紫鳶
お前やそこの莫玄羽と言ったかしら?その小猿の母親たちのせいで私の親友がどれ程苦しんだと思っているの?
金光瑤
金光瑤
そんな事、私や玄羽の母上の知った事ではありません。そもそも自分の旦那をしっかり捕まえておけなかった奥方にも責任はあると思いますが?
金光瑤は澄ました顔で返す。
虞紫鳶
虞紫鳶
何ですって?
金光瑤
金光瑤
だってそうでしょう?奥方がきちんと自分の魅力を日々磨いて、旦那が他所に目移りしないようにしていれば母のような妓女は不要なんですから。
虞紫鳶
虞紫鳶
金光瑤
金光瑤
あんたの親友の旦那の理想ってご存知ですか?
金光瑤はニヤニヤと問う。
金光瑤
金光瑤
あの下衆親父はね、草花を弄って白粉を塗って着飾るだけの無知無能な女が好みなんです。書を嗜んだり芸達者な才女はお嫌いなんですよ。あんたの親友が離縁されてないって事は、その理想に辛うじて引っ掛かっていたって事なのでは?
金光瑤の言葉に虞紫鳶は熱り立つ。
虞紫鳶
虞紫鳶
お前!言うに事欠いて…!彼女が無能だと言いたいの?
金光瑤
金光瑤
そうですよ。自分の旦那の関心も引けない無能女だと言っているんです。
嘲笑う金光瑤に虞紫鳶は激怒する。
金光瑤
金光瑤
あんたの親友が自分の旦那を満足させる為、自分に振り向かせる為に何か努力してましたか?自分を省みない旦那にただ不満を持ち、愚痴や鬱憤を周囲に当たり散らすだけ。そんなんで日々自らの美貌や才を磨き続ける妓女に太刀打ち出来る訳無いでしょう?
虞紫鳶はそれ以上何も言えなかった。
虞紫鳶
虞紫鳶
楓眠!妻がこんな仕打ちに遭っているのに何を黙って見ているの?
金光瑤に完全論破された虞紫鳶はその鬱憤を江楓眠にぶつける。
江楓眠
江楓眠
私にどうしろと?
江楓眠は首を傾げる。
虞紫鳶
虞紫鳶
どうしろ、ですって?一体何を言っているの?
虞紫鳶は眉を吊り上げる。
江楓眠
江楓眠
これまでのやり取りを黙って聞いていたが、君を擁護出来る余地は無い。
江楓眠は首を振る。
虞紫鳶
虞紫鳶
な!?
虞紫鳶は愕然とした表情になる。
江楓眠
江楓眠
君は何処までも自分と金夫人の事ばかりだ。阿嬰の事も金光瑤殿とその母君の事もそこまで愚弄しておいて、被害者面は感心しない。
江楓眠は渋面で答える。
虞紫鳶
虞紫鳶
な…、この私にそんな口を利いてただで済むと思っているの?
虞紫鳶は怒りで顔が真っ赤に染まる。
江楓眠
江楓眠
はあ…
江楓眠は盛大に溜め息を吐く。
虞紫鳶
虞紫鳶
な、何よ…
江楓眠の思わぬ反応に虞紫鳶はたじろぐ。
江楓眠
江楓眠
君は本当に分かっていないのだね。
虞紫鳶
虞紫鳶
だから何がよ!
虞紫鳶は苛立ち紛れに声を荒らげる。
江楓眠
江楓眠
虞紫鳶、君は眉山から我が雲夢江氏に嫁いで来た。
虞紫鳶
虞紫鳶
それがどうしたの?
江楓眠
江楓眠
本来、他家から嫁いで来た嫁が婚家の有り様に口出しする事は許されない。まして眉山虞氏は五大世家に連なる雲夢江氏よりも格下の世家。君の態度は通常有り得ないんだよ。眉山で“嫁しては婚家に従え”と教わらなかったのか?
江楓眠は再び溜め息を吐く。
江楓眠
江楓眠
確かに君は当代一の仙子と謳われ紫蜘蛛という号を戴いていた。しかし嫁すればそれはそれ、なんだよ。
虞紫鳶
虞紫鳶
江楓眠
江楓眠
そもそも私は君との婚姻には乗り気では無かった。私は何かと高飛車な態度を取る君が苦手だったからね。実際、私は虞家からの申し入れを何度も断った筈だよ。
虞紫鳶
虞紫鳶
江楓眠
江楓眠
最終的に承諾したのは、余りにしつこい君たちに根負けしたからだ。まあ、長沢が蔵色とくっついた事も無関係では無いがね。
虞紫鳶
虞紫鳶
な!やっぱりあの噂は…
江楓眠
江楓眠
阿嬰は私の子では無いよ。
江楓眠はきっぱりと否定する。
江楓眠
江楓眠
何故いきなりそこに飛ぶのか不思議だが、それは間違いなく断言しよう。
虞紫鳶
虞紫鳶
なら、なら何故あの時否定しなかったの!?
虞紫鳶が金切り声を上げる。
江楓眠
江楓眠
しただろう?君が聞く耳を持たなかっただけだ。
江楓眠は呆れ顔で答える。
虞紫鳶
虞紫鳶
そんな事!
虞紫鳶は反論しようとするが
蔵色散人
蔵色散人
厭離ちゃんから聞いた時はまさかと思ったけど。あんた、本当にそんな馬鹿げた噂を信じていたの?
蔵色散人が呆れ顔で入ってくる。
虞紫鳶
虞紫鳶
蔵色…
虞紫鳶の表情は怒りで歪む。
蔵色散人
蔵色散人
よく考えてみなさいよ。確か、阿嬰とあんたの息子は同じくらいの時期に生まれたのよね?
虞紫鳶
虞紫鳶
それがどうしたのよ?
蔵色散人
蔵色散人
という事は授かった時期も同じくらいよね?私が阿嬰を授かった時、私たちは辺境を巡っていたのよ?そんな何処にいるか定かでない私の所に楓眠がすっ飛んで来て、私とヤッたって言いたい訳?
虞紫鳶
虞紫鳶
…そんな
蔵色散人
蔵色散人
そんな馬鹿な、って私が言いたいわよ。挙げ句にあんた、それをネチネチネチネチ楓眠や阿嬰に当たり散らして家庭不和を引き起こしてりゃ世話無いわ。
虞紫鳶に返す言葉が無い。
蔵色散人
蔵色散人
それから何だっけ?阿嬰のせいで蓮花塢が燃えたって?馬鹿も休み休み言いなさいよ。
虞紫鳶
虞紫鳶
何ですって?
蔵色散人
蔵色散人
当時の蓮花塢責任者は一体誰?楓眠とあんたでしょう?攻め込まれた経緯が何であれ、最終的な責任はあんたと楓眠にある筈でしょう?なのに阿嬰のせいって、一体どういう了見よ?
虞紫鳶
虞紫鳶
魏嬰が余計な事をして、温氏に目を付けられたからあんな事になったのよ!
蔵色散人
蔵色散人
具体的に言いなさいよ。あの時、温晁が綿綿ちゃんを屠戮玄武の餌にしようとしたのを庇った阿軒と阿湛を阿嬰が助けたんでしょう。
虞紫鳶
虞紫鳶
そうよ。そのせいで蓮花塢は…
蔵色散人
蔵色散人
よく言うわね。それはあくまできっかけの一つでしかないわ。たとえその事か無くても蓮花塢は攻め込まれたわよ。
蔵色散人は溜め息を吐き
蔵色散人
蔵色散人
第一、その暮渓山で阿嬰が動かなければ動かなかったであんたは臆病者、江家の恥、くらい言っているでしょ。結局阿嬰がどう動こうが、あんたは気に入らず責め立ててると思うけど?
虞紫鳶
虞紫鳶
蔵色散人
蔵色散人
で、そこまで分かってて何故厳戒態勢を敷かなかったの?暮渓山の事があった時には雲深不知処は既に焼かれてたんでしょう?迂闊にも程があるって、長沢だって言っていたわよ。
蔵色散人の言葉に魏長沢は頷く。
虞紫鳶
虞紫鳶
面目無い。
江楓眠が苦笑を浮かべ答える。
江楓眠
江楓眠
私は警戒するよう指示を出していたんだが、どうも彼女が必要ないと言ったみたいでね。気がついたら警戒態勢が解かれていたんだよ。
蔵色散人
蔵色散人
え?何で?
蔵色散人始め皆が虞紫鳶に視線を向ける。
温若寒
温若寒
恐らく自分がいるから蓮花塢が攻め込まれないと判断したのだろうよ。
温若寒はクックッと嗤い声をたてながら見解を述べる。
蔵色散人
蔵色散人
?何で?
温若寒
温若寒
これも自分が“温家筋”だからだろうな。

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