第23話

✧ hsrb .夏祭りの代わりに
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2025/08/24 10:00 更新


八月の終わり、夜風が少しだけ涼しくなってきた頃。
浴衣姿の人々で賑わうはずだった夏祭りは、前日の大雨で中止になった。
私も彼も、浴衣を着ることを楽しみにしていたから、その知らせを聞いたときは肩を落とした。


あなた
   残念だね……   


そうつぶやくと、電話の向こうで彼が少し黙り、すぐに言った。


hsrb
    じゃあ , 海行きません?   
あなた
   海?   
hsrb
  うん。人もいないだろうし ,    
静かにできるかなって。
hsrb
   線香花火も持っていくから  


彼の声は、雨上がりの空みたいに澄んでいて、どこかワクワクが混じっていた。
胸がきゅっと鳴る。
夏祭りの代わりなんて考えてもいなかったけれど……彼と二人で過ごせるなら、それだけで特別に思えた。


あなた
   いきたい……!   


そう答えると、電話の向こうの彼が嬉しそうに笑った。

夜九時、海辺。
昼間の熱気を吸い込んだ砂浜は、まだほんのりと温かい。
波音だけが静かに寄せては返し、街灯の届かない場所は月明かりに支配されていた。


あなた
   本当に , 誰もいないね   
hsrb
   俺たちだけの夏祭りって感じ   


彼はそう言って、小さな袋を取り出した。
中には色とりどりの花火。

胸の奥が、じんわりと熱くなる。
彼の隣で火を点けると、夜空にぱっと光が散って、私たちの顔を照らした。


あなた
   わあ……きれい   


私が見とれていると、彼は花火ではなく私の方を見ていた。
視線が合うと、慌てて逸らされる。
その仕草が可笑しくて、でも心臓が跳ねた。
 
派手な花火を一通り楽しんだあと、彼は袋の底から細い線香花火を取り出した。


hsrb
   最後はこれかな〜   
あなた
   うん   


彼と並んで座り、火を分け合う。
じんわりと小さな火玉が生まれ、ふるふると震えながら光を放つ。


あなた
   落ちちゃいそう   
hsrb
    頑張ってください〜笑笑笑   


彼が笑って呟く声が、波音に混じって柔らかく響いた。
私の線香花火はかすかに火花を散らしながら、まだ懸命に揺れていた。


hsrb
   ……ねえ   
hsrb
   俺 , 願い事考えたんだけど   
あなた
    願い事……?   
hsrb
 線香花火に込めると  願いが叶うらしいですよ   


どこで聞いたのか、彼は少し照れたように笑った。
私の心臓が急に速くなる。
さっきまで花火を見つめていた瞳が、まっすぐに私を射抜いていたから。


hsrb
   俺の願いは…来年も , その次の夏も。    

hsrb
    あなたさん の隣にいられますように    


瞬間、彼の線香花火の火玉がふっと落ちた。
小さな命が消えるように、砂の上で淡い光を残す。


私は何も言えず、ただ彼を見つめていた。
頬が熱い。喉が震える。
胸の奥で、同じ言葉をずっと願っていたから。


あなた
   私も , 同じ気持ちだよ   


かすれた声でそう言うと、彼は驚いたように目を見開き、すぐに優しく笑った。

そして、そっと私の手を取った。
指先から広がる温もり。
手を重ねるだけで、こんなにドキドキするなんて、
彼と出会う前の私は知らなかった。


波音と夜風に包まれて、時間がゆっくりと過ぎる。
彼の横顔を見つめていると、ふいに髪が揺れ、彼が近づいてきた。
月明かりに照らされるその瞳は、真剣で、逃げ場なんてなかった。


次の瞬間、唇が重なる。
驚きと、胸の奥からあふれる甘い痛み。
線香花火よりも短く、けれど永遠に刻まれるような熱。
唇が離れたあと、彼は少し息を整えながら照れ笑いをした。


hsrb
   ごめん , 我慢できなかった     
あなた
   ううん……私も , ちょっと期待してた ,      
hsrb
    ッ……かわいすぎ ,       


彼は一瞬驚いたように固まり、それから静かに私を抱き寄せた。
夜の海は静かで、私たちだけの世界みたいだった。


あなた
   夏祭りなんて , 要らなかったね     
hsrb
   いや , それは来年一緒に行きましょうよ   
あなた
   そうだね。線香花火にお願いしたもんね     


砂の上には、燃え尽きた線香花火の残骸が転がっていた。
でも、私たちの胸には、これからを照らす光が確かに残っていた。

来年も , 再来年も , この先ずっと。

隣にいられますように。

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