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第10話

春、再び
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2025/10/14 11:35 更新
💘第10話「春、再び」

冬が終わりを告げて、
街に春の匂いが戻ってきた。
駅前の桜並木が、まだ半分だけ咲きかけている。

僕はポケットの中の星のキーホルダーをそっと握った。
――あの日の約束が、胸の奥で光を放つ。

「春になったら、会いに行くね。」

その言葉を信じて、今日まで来た。
手紙のやりとりは続いていたけど、
“会う”のはあの日のホーム以来だ。

時計の針が午後三時をさす。
風がやわらかく頬を撫でたとき――
改札の向こうに、見覚えのある姿が立っていた。

少し伸びた髪。
春色のコート。
そして、あのときと同じ笑顔。

「……ひさしぶり。」
彼女がそう言って笑った瞬間、
胸の奥で張りつめていた何かがほどけた。

「手紙、全部読んでたよ。」
「そっちこそ。雪の写真、まだスマホに残ってる。」

二人して笑い合った。
ほんの少しの沈黙が、
もう“気まずさ”じゃなく“安心”に変わっていた。

桜の花びらが、風に乗って舞い散る。
彼女は空を見上げながら、小さくつぶやいた。

「ねえ、あのときさ。
 “また会おう”って言ってくれたでしょ?」
「うん。」
「……ほんとに、会えたね。」

涙が、にじんだ。
でも、それは悲しみじゃなかった。

彼女はバッグから小さな箱を取り出した。
中には、新しい星のキーホルダーがふたつ。

「もう古くなっちゃったから、おそろい、作り直したの。」
「……ありがとう。」

僕たちはそのキーホルダーをつけかえて、
笑いながら手を伸ばし、指先がふれた。

桜の花びらがふたりの間を通り抜けて、
光の中に溶けていった。

――季節が変わっても、
想いはちゃんと続いていた。

「これからも、となりにいてくれる?」
「うん。今度は離れない。」

その言葉に、彼女は静かに微笑んだ。
春の光が二人を包みこみ、
世界が優しく滲んでいった。

遠くで聞こえる電車の音が、
まるで新しい旅の始まりを告げているようだった。



🌸 恋愛小説『枯れない花』——完。 🌸

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