💘第10話「春、再び」
冬が終わりを告げて、
街に春の匂いが戻ってきた。
駅前の桜並木が、まだ半分だけ咲きかけている。
僕はポケットの中の星のキーホルダーをそっと握った。
――あの日の約束が、胸の奥で光を放つ。
「春になったら、会いに行くね。」
その言葉を信じて、今日まで来た。
手紙のやりとりは続いていたけど、
“会う”のはあの日のホーム以来だ。
時計の針が午後三時をさす。
風がやわらかく頬を撫でたとき――
改札の向こうに、見覚えのある姿が立っていた。
少し伸びた髪。
春色のコート。
そして、あのときと同じ笑顔。
「……ひさしぶり。」
彼女がそう言って笑った瞬間、
胸の奥で張りつめていた何かがほどけた。
「手紙、全部読んでたよ。」
「そっちこそ。雪の写真、まだスマホに残ってる。」
二人して笑い合った。
ほんの少しの沈黙が、
もう“気まずさ”じゃなく“安心”に変わっていた。
桜の花びらが、風に乗って舞い散る。
彼女は空を見上げながら、小さくつぶやいた。
「ねえ、あのときさ。
“また会おう”って言ってくれたでしょ?」
「うん。」
「……ほんとに、会えたね。」
涙が、にじんだ。
でも、それは悲しみじゃなかった。
彼女はバッグから小さな箱を取り出した。
中には、新しい星のキーホルダーがふたつ。
「もう古くなっちゃったから、おそろい、作り直したの。」
「……ありがとう。」
僕たちはそのキーホルダーをつけかえて、
笑いながら手を伸ばし、指先がふれた。
桜の花びらがふたりの間を通り抜けて、
光の中に溶けていった。
――季節が変わっても、
想いはちゃんと続いていた。
「これからも、となりにいてくれる?」
「うん。今度は離れない。」
その言葉に、彼女は静かに微笑んだ。
春の光が二人を包みこみ、
世界が優しく滲んでいった。
遠くで聞こえる電車の音が、
まるで新しい旅の始まりを告げているようだった。
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🌸 恋愛小説『枯れない花』——完。 🌸












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。