マーク先輩を好きになった理由を聞かれたら、たぶん明確な答えは出せない。
最初から特別だったわけじゃない。
ただ、気づいたら目で追ってて、声を聞くと胸が熱くなって、それが“好き”だって知っただけ。
──きっかけは、あの日の体育館だった。
練習中、汗だくで笑いながら私を呼んだマーク先輩。
バスケ部のマネージャーになって、まだ数日しか経ってなかった頃。
差し出したタオルを受け取って、先輩は照れたように「ありがと」と笑った。
ただそれだけで、心臓が跳ねた。
その日の帰り、体育館の裏で先輩がひとりでシュート練習してた。
ボールの弧が夕日に溶けて、静まり返った体育館に響くドリブルの音。
汗で濡れた前髪をかき上げながら、ひたむきに動き続ける姿が、私にはすごく綺麗に見えた。
その人を、好きにならない理由なんてなかった。
同級生のジェミンに声をかけられたのは、そんな毎日が続いたある放課後。
ヘッドホンを首にかけたまま、笑って私を見る。
ジェミンは意地悪でもなく、ただ事実を言うみたいに笑うだけだった。
その笑顔が、なぜか少しだけ胸に引っかかった。
でもあの日。私はその恋の終わりを自分で選んだ。
先輩に告白して、断られて。
今はもう、体育館を見るだけで胸が痛くなる。
そうつぶやくけれど、目に焼きついた先輩の横顔は簡単には消えない。
優しい声、真っ直ぐな瞳、私の名前を呼ぶ温度。
全部、好きだった。
けれどその横で「大丈夫?」って言ってくれた人の声も、確かに私の胸に残っていた。
あの日、階段の踊り場で涙を見たジェミンの声が、頭から離れない。
──もしかしたら、ここから始まる恋もあるのかな。
そう思えたことが、少しだけ、怖くて嬉しかった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。