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第1話

恋人ができるまで
47
2022/10/11 20:02
 俺には、友達が非常に少ない。いないとは言わない。だが、非常に少ない。これほどに友達が少ないのだから、俺の方に問題があるのではないのかというのは、以前より考えていたが、だからといって特段困る事は無かった。

 仕事の人間関係はどうにかこなせているし、コミュ障というわけでもなく、必要な会話に困る事も無い。

 ただ、想う事がある。

 ――いいなぁ、あの人は、友達がいっぱいいて。

 と。
 輪の中心にいるかのような華やかな人を見ると、大抵の場合、俺もその人に好感を持っているので、あんな風になってみたいと感じる。
隆杉直衛
隆杉直衛
「へぇ。それは嫉妬とかじゃなく?」
佐々木雪永
佐々木雪永
「なんで嫉妬するんだよ? 俺も大好きなんだから、みんなに好かれる理由が分かるのに、嫉妬する必要がどこに?」
隆杉直衛
隆杉直衛
「俺、お前のそう言う子供みたいなとこ、好きだよ」
佐々木雪永
佐々木雪永
「有難う」
隆杉直衛
隆杉直衛
「いや、好きだよ」
佐々木雪永
佐々木雪永
「うん? 有難う」
隆杉直衛
隆杉直衛
「あの、な? 聞け? 三分前まで俺は……そして、今、俺は……――自分的には微塵も興味が無い夜景が綺麗なレストランにわざわざ予約を入れて、着たくもないドレスコードに身を包み、お前が寝坊しない時間帯をチョイスして迎えに行き、その上で『付き合ってほしい』って告白していて、その返事待ちなのに、お前さ、聞けよ。なんで俺の告白をサラッと流して、ツイッ●ーの話を始めた? 間接的なお断りか?」
 その言葉に、俺は目の前にいる、隆杉直衛を見た。
佐々木雪永
佐々木雪永
「? いや、前にも言ったけど、俺が先月さ、『俺、隆杉の事恋愛的に好きだわ。でも別に付き合いたいとかじゃないから気にしなくていいよ』って話した通りで、俺は好きだよ。で、お前気遣いの人だからそういう風に言ってくれてるんだとは思うけど、別にいいんだよ? 今まで通りで。俺は勝手にお前の事好きだから」
隆杉直衛
隆杉直衛
「だから聞け。俺もお前が好きだ」
佐々木雪永
佐々木雪永
「うん。有難う」
隆杉直衛
隆杉直衛
「つまり?」
佐々木雪永
佐々木雪永
「ん?」
隆杉直衛
隆杉直衛
「両想いという事だろうが! そして付き合いたいんだよ、俺は!」
佐々木雪永
佐々木雪永
「あ、そうなの? それって、恋人になるとかそう言う?」
隆杉直衛
隆杉直衛
「そう言う!」
 その発想はなかったため、俺はちょっと冷や汗をかいた。ツ●ッターの話題が、どこかへいってしまった。
隆杉直衛
隆杉直衛
「俺は、雪永の事がきちんと好きだし、大切にしたい」
佐々木雪永
佐々木雪永
「……」
隆杉直衛
隆杉直衛
「だからお前が前に『告白されるなら、やっぱ、夜景が綺麗なレストランにドレスコードで入って二人きりのタイミングでバブリーな感じがいいなぁ』と言っていた通りにしたんだけどな?」
佐々木雪永
佐々木雪永
「……そうだったんだ。てっきり、ネタとノリで来てみただけかと思ってたよ俺」
隆杉直衛
隆杉直衛
「本当お前、そう言うとこだからな」
 恐らくこれは、恋愛が成就した一風景なのだろう。けれども全然現実感が無かった。
 佐々木雪永という名前で生きてきて、もう三十二年。
 俺は同性愛者だ。だからというわけではないが、元々結婚願望なども特に無かった。それ以前に、自分が好きならそれでいいと思う方であるから、恋人が欲しいとも思っていなかった。それでも隆杉直衛に告白じみた事を言ってしまった理由は、「好きな人いないの?」「ん? お前だけど?」という俺からすれば普通のやり取りの中においてである。好きな人に嘘を吐くのは誠実ではないだろうと思った結果だ。世の中には必要な嘘や、あえて言わないというスキルもあるのだろうが、俺にはそれらは備わっていない。
佐々木雪永
佐々木雪永
「恋人って何するんだ?」
 既に俺と隆杉は、体の関係にはある。俺は好きになったらヤりたいと思うので、普通に俺から誘った。寧ろ、ヤりたいと思ったから、好きだと気づいたという部分がある。そして世の中に、セフレから恋人に昇格する例は少ないという知識が、これまでの人生経験の中で耳にした猥談よりあったので、まさか告白に答えが返ってくるとは思っていなかった。
隆杉直衛
隆杉直衛
「とりあえず返事。俺の恋人になるよな?」
佐々木雪永
佐々木雪永
「はい」
隆杉直衛
隆杉直衛
「よし。それでいい。何をする、かぁ。まぁ、それこそ今まで通りでいいんじゃないのか? というかな、俺としてはだいぶ前からお前を恋人だと思ってたんだよ」
佐々木雪永
佐々木雪永
「え!?」
隆杉直衛
隆杉直衛
「……一緒にこれだけ遊んでいて、連絡も頻繁で、ヤる事ヤってんのに、そう思われてなかった方に衝撃を受けてるからな……」
佐々木雪永
佐々木雪永
「完全にただのセフレだと思ってたよ、俺!」
隆杉直衛
隆杉直衛
「みたいだな。うん。お前を舐めてた。分かりにくいよ、お前」
佐々木雪永
佐々木雪永
「……だ、だって、恋人っていうのは、『やっぱ、夜景が綺麗なレストランにドレスコードで入って二人きりのタイミングでバブリーな感じ』なんじゃないのか?」
隆杉直衛
隆杉直衛
「だから今実行してるだろうが」
佐々木雪永
佐々木雪永
「……」
隆杉直衛
隆杉直衛
「それで? ツイッ●ーがどうしたって?」
佐々木雪永
佐々木雪永
「……あ、あの、今ネットの話は置いておいて……え、え? 俺達……恋人……? え? 嬉しい……」
隆杉直衛
隆杉直衛
「急に赤面するのやめろ? 可愛いから」
 こうしてここに、同性愛者という以外は、ごくごく平凡な一組のカップル(即ち俺と隆杉)が爆誕したのである。

 この時俺は、自分の恋愛観に疑問を持つ事は無かった。
 だが、それもそのはずなのであると、後に気づかされる。

 ――そもそもの話、俺には友達の定義が分からなかったのだと、思い知らされるのである。

 ただそれは別のお話だ。

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