前の話
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俺には、友達が非常に少ない。いないとは言わない。だが、非常に少ない。これほどに友達が少ないのだから、俺の方に問題があるのではないのかというのは、以前より考えていたが、だからといって特段困る事は無かった。
仕事の人間関係はどうにかこなせているし、コミュ障というわけでもなく、必要な会話に困る事も無い。
ただ、想う事がある。
――いいなぁ、あの人は、友達がいっぱいいて。
と。
輪の中心にいるかのような華やかな人を見ると、大抵の場合、俺もその人に好感を持っているので、あんな風になってみたいと感じる。
その言葉に、俺は目の前にいる、隆杉直衛を見た。
その発想はなかったため、俺はちょっと冷や汗をかいた。ツ●ッターの話題が、どこかへいってしまった。
恐らくこれは、恋愛が成就した一風景なのだろう。けれども全然現実感が無かった。
佐々木雪永という名前で生きてきて、もう三十二年。
俺は同性愛者だ。だからというわけではないが、元々結婚願望なども特に無かった。それ以前に、自分が好きならそれでいいと思う方であるから、恋人が欲しいとも思っていなかった。それでも隆杉直衛に告白じみた事を言ってしまった理由は、「好きな人いないの?」「ん? お前だけど?」という俺からすれば普通のやり取りの中においてである。好きな人に嘘を吐くのは誠実ではないだろうと思った結果だ。世の中には必要な嘘や、あえて言わないというスキルもあるのだろうが、俺にはそれらは備わっていない。
既に俺と隆杉は、体の関係にはある。俺は好きになったらヤりたいと思うので、普通に俺から誘った。寧ろ、ヤりたいと思ったから、好きだと気づいたという部分がある。そして世の中に、セフレから恋人に昇格する例は少ないという知識が、これまでの人生経験の中で耳にした猥談よりあったので、まさか告白に答えが返ってくるとは思っていなかった。
こうしてここに、同性愛者という以外は、ごくごく平凡な一組のカップル(即ち俺と隆杉)が爆誕したのである。
この時俺は、自分の恋愛観に疑問を持つ事は無かった。
だが、それもそのはずなのであると、後に気づかされる。
――そもそもの話、俺には友達の定義が分からなかったのだと、思い知らされるのである。
ただそれは別のお話だ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。