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第1話

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2024/02/05 12:51

ジョングク

高校3年生で陸上部。最後の大会には、登校中に遭ってしまった交通事故で出場断念。全てから逃げ出したくなった時、ジミンに出会う。



ジミン

幼い頃、とある理由で失明した青年。定期検診で病院に訪れた時、ジョングクと出会う。






jk-mam
じゃあ、ジョングガ。リハビリ頑張りなよ。

オンマは一旦帰るからね。
jk
jk
…ん。
jk-mam
そんなに拗ねることないわよ。

大会には出れなかったけど、

一生走れないわけじゃないんだから。
jk
jk
そうだけど…
jk-mam
じゃあそんな拗ねてないで、

リハビリ頑張るのよ。

終わったら迎えに来るからね。
jk
jk
ん……


そう言って母親は病院の出口に向かって行った。






自然とため息が零れる。




"なんで俺が"なんて、ありきたりな嫌味も一緒に零れ落ちそうで、静かに口を閉じる。




まだ慣れない車椅子に乗って、リハビリ室へ向かおうと手を動かす。




そこで、少しの邪念が頭を掠めた。











…このまま逃げ出してしまおうか。




なんて。











…できるには、できる。




このまま誰にも見つからないように速く車椅子をこいで出口に向かえばいいんだ。




リハビリなんてやっても、結局最後の大会には出れない。




そのあとだって、あいだが空いていて慣れるのに時間がかかるから、これからも走れるかは分からない。










━━━━━━じゃあ、もういいんじゃないか










少しの邪念が大きくなって、それは衝動的に車椅子の車輪に触れる手を動かし出した。













速く、速く、誰にも見つからないように逃げ出すんだ。












速く、もっと速く、、














jk
jk










もう少しで出口、という所で我に返って止まった。




俯いて走っていたが、誰かが俺の正面にいたのだ。




避けもせず。




驚いて顔を上げると、華奢な男性が手を「ストップ」というふうに俺に向けていた。

jk
jk


反射的に首を傾げた。




その男性は俺に手を向けたまま、目を瞑っていたのだ。




よく見ると、その手は何故か、未だ生活に慣れていないみたいに傷だらけだった。

jk
jk
…あの?


まじまじと手を見てても全く動く気配のない男性を不思議に思い、声をかけた。




すると、男性は少しだけ体を跳ねさせて驚いた。




髪がふわふわしてるからなのか、唇がぷっくりしてるからなのか、その姿がとても可愛らしく見えた。

?
あ……その、お、弟を、見ませんでしたか…?

僕より少し背が高い人なんですけど……



男性は前に出していた手を引っ込め、オドオドしながらそう話した。




やはり、話している間も目を瞑っていた。

jk
jk
弟さん…ですか?


辺りを見回したが近くに弟さんらしき人はいない。

jk
jk
一緒に探しましょうか?


どうせ逃げるくらいなら人助けをした方がいいだろうと思いそう言うと、




男性は分かりやすく表情が明るくなった。




それでも目は瞑ったままだ。




未だ不思議に思いながらも、不慣れな車椅子を方向転換させようと動かすと、




タイヤと床が擦れる音が微かに鳴った。




すると、男性はその音に反応して口を開いた。

?
あ……もしかして車椅子に乗ってるんですか…?
jk
jk
?……はい


どういうことなのだろう。




車椅子に乗っていることなんて見れば分かることなのに…







………あ、もしかして、


jk
jk
あの、もしかして目が…


そう言いかけて止まった。




もしこの人がその事を心から気にしてたらどうしよう、




傷つけてしまったらどうしよう、と。




だが、男性はそれを察したように




心配が混じった微笑みを俺に向けた。

?
ごめんなさい、

先に言っとくべきでしたね……!

そうなんです、僕、目が見えなくて…


男性は「へへ…」と困ったように手を首に添えた。

jk
jk
すみません、気付けなくて…
?
いえいえ!お気になさらないでください…!


なんだか気まずい雰囲気になってしまった。




僕に気を使ってか、男性は「うーん、うーん、」と




会話を考えている様子だった。




その姿が、やはり可愛らしいなと思ってしまった。




すると、慌てたような足音とハスキーな声と共に、




モデルのような顔立ちの男性がこちらに近づいてきた。

?
ジミナぁ…!!

そこの壁で待っててって言ったのにぃ〜!


弟なのに「ヒョン」と呼ばないんだなと疑問を持ったが、




きっと彼が、男性の探していた弟さんなのだろう。

?
あ、テヒョンア…!


男性は嬉しそうに顔を上げた。




弟さんは男性に近づくと、俺に気付いた。

?
ジミナ、この人に助けて貰ってたの?


男性は、弟さんの問いに頷いて答えると、弟さんは俺に頭を下げた。

?
ありがとうございます、

ジミナを助けていただいて…!


正しくは"助けようとした"だが、




なんだかその礼儀正しさに申し訳なくなって




「いえ、すみません…」と頭を下げた。


















その後、さっきまであったはずの邪念も何故か消え、




素直にリハビリへ向かった。




その前に出会った彼らは、




何度も頭を下げて俺の元を去って行った。




その日は、「また会えるかな」なんて、




一目惚れした少女のようにうきうきしながら母親の車に揺られて帰った。







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