第10話

過去
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2025/02/04 10:30 更新
−3月15日


今日は全員休みが取れたので、石川にある病院に行きます。
松下奏
松下奏
〇〇先生の紹介なんでしょ?
本当に闇医者なの?
藤澤涼架
藤澤涼架
そうなんだって、〇〇先生が言ってた。
とりあえず行ってみよう。
松下奏
松下奏
本当にここ?

もらった住所にあったのは、雑居ビル。
それも、絶対入りたくないような建物だった。
藤澤涼架
藤澤涼架
見るからに怪しいね。
若井滉斗
若井滉斗
行くしかないっしょ…
大森元貴
大森元貴
だね。

3階にあるその病院は、事務所のような作りで、決して病院とは言えなかった。
医師
医師
いらっしゃい。

ドスの効いた低い声で出迎えてくれた人は、白衣を着ていた。多分ここのお医者さんだ。
大森元貴
大森元貴
あの、〇〇先生の紹介で…
看護師
看護師
先生!そんな出迎え方はしちゃダメだと何回も言ってるじゃないですか…

背景に不釣り合いなくらい可愛らしい看護師さんが出てきた。

よかった…ちゃんと病院なんだ…
看護師
看護師
お話伺うので、こちらへどうぞ…
医師
医師
症状は?
松下奏
松下奏
彼の歌を聞くと過呼吸になります。〇〇先生にはPTSDだと診断されました。
医師
医師
聞かないっていう選択はないの?
松下奏
松下奏
ないです。一緒にバンドやってるんです。彼はボーカルで、私ドラムなんですけど、演奏することを考えると聞くことは避けられないんです。
医師
医師
あのね、精神的な病気ってのは基本的に長期間で治すもんだ。それを今俺たちは今日、明日でどうにかしようってんだ。
医師
医師
…荒療治だぞ。耐えられんのか…
松下奏
松下奏
っ…はい!そのつもりで来ました。
医師
医師
じゃあやろうか。
看護師
看護師
皆さんには別室でお待ちいただきます。ご案内しますね。
医師
医師
さてと、お前にはこれから色々と話してもらうが…内容は誰にも言わん。安心して話してくれ。
松下奏
松下奏
本当に話さないですか?
医師
医師
あぁ。本当だ。
…なんだ?そんなに信用できんか?
松下奏
松下奏
いや、ちょっと前に、同じこと言われて、会話が全部筒抜けだったことがあって…
医師
医師
…心配か?
松下奏
松下奏
いえ、そんなには。
医師
医師
じゃあ、始めよう…

一方その頃3人は、看護師に連れられて、別室に来ていた。
藤澤涼架
藤澤涼架
ここは…あの診察室の隣の部屋?
大森元貴
大森元貴
硝子で見えるようになってる。
若井滉斗
若井滉斗
会話も聞こえる。
看護師
看護師
これはマジックミラーです。あちらからは見えていません。
大森元貴
大森元貴
取調室みたいだ…
看護師
看護師
そうですね…ですが、彼女のことを知ることは、皆さんにとっても同様に重要なことです。この病気は周りのサポートなしでは生活すら危うくなってしまうので…
看護師
看護師
ですが、ここで見聞きしていたことは、本人に知られないようにしてください。
藤澤涼架
藤澤涼架
えっ…どうして…
看護師
看護師
今から彼女から引き出していくものは、心の中の、いわばパンドラの箱の中身、そのものです。
看護師
看護師
自分が必死に隠してきたもの、自分でも目を逸らしていたものが、知らぬ間に他人に知られていたと分かった時に受ける衝撃は想像以上でしょう。
藤澤涼架
藤澤涼架
分かりました。
医師
医師
んじゃ…遠慮はしないからな。聞かれたことに、正直に話してくれ。
松下奏
松下奏
…分かりました。
医師
医師
自己紹介してくれ。
松下奏
松下奏
…えっ?自己紹介…私のですか?
医師
医師
あぁ。ほら、言った言った。
松下奏
松下奏
えーっと、名前は、松下奏まつしたかなた
松竹梅の松に上下の下、かなたは奏でるの一文字です。
2005/06/25生まれ。今年20歳になります。
通信制の高校に通っていて、今年卒業しました。
Mrs.GreenAppleっていうバンドのドラムをしてます。
…これくらいですかね。
医師
医師
兄弟は?
松下奏
松下奏
いません。一人っ子です。

同じ目線の相手は友達だけか…

気を病む人は、多くが一人っ子だったり、兄弟がいても仲が悪い場合が多い。

自分と同じ時代を、同じ環境下で、同じスピードで育った相手が、友達という、いつ無くなるかも分からない者しかいないからだ。
医師
医師
…自分の性格は?どう思ってる?
松下奏
松下奏
どうって…綺麗好き…とかですかね…

几帳面タイプ…
少しのミスでも気にして病むことが多い…
医師
医師
じゃあ、嫌いなタイプは?
松下奏
松下奏
…約束を守れない人。
医師
医師
今まで、そういう人に出会ったことある?
松下奏
松下奏
特別酷い人には出会ったことないです。
別に理由があるなら、ドタキャンとかされても嫌いにはならないし…
医師
医師
ふーん…
松下奏
松下奏
あの…何が分かるんですか?
医師
医師
まぁ色々とね…今はピースを集めてるんだよ…
君という人間を作り上げるためのね…
本当は、自分のことを強制的に振り返させることが目的。

精神的な病気の場合、原因は自分の中にしかない。

自分が何を恐れ、何を求めているのか、それを正確に把握して受け入れることでしか、治せないんだ。

そのために俺ができるのは、君のパンドラの箱がどこにあるのかを突き止めることまで…

その箱を開けられるのは自分だけだ。
医師
医師
じゃあ次、死にたいと思ったことある?
松下奏
松下奏
…そ…それは…どの程度の…ですか?
医師
医師
ってことは、思ったことあるんだね?
松下奏
松下奏
ギクッ…は…はい…
医師
医師
いつ?
松下奏
松下奏
…両親を亡くした時に、少しだけ…
頭をよぎったくらいで…
医師
医師
うんうん、一回だけ?
松下奏
松下奏
…最近も少し…
医師
医師
何でそう思ったの?
松下奏
松下奏
…仕事ができなくなるかもしれないと分かって…なぜかは分からないです。

分からない…か。考えるのを放棄しているな…

これは近いかもしれないぞ…

少し掘ってみるか…
医師
医師
…今まで経験した1番怖かったことは?
松下奏
松下奏
…こわかったこと
…祖母が目の前で倒れたこと。
医師
医師
たしかご両親も亡くされてるよね…
その時は?怖くなかったの?
松下奏
松下奏
その時は幼すぎて怖いも何もなかったというか、理解できなかったので…
医師
医師
えっあっごめん、ご両親の方が先に亡くなってるの?
松下奏
松下奏
はい。
医師
医師
なんで?
松下奏
松下奏
事故で…それで、祖父母にお世話になることになったんですけど…
医師
医師
じゃあ、転校とかしたの?
松下奏
松下奏
はい。小3で両親が亡くなって、東京から静岡の祖父母の家に…でも、小6の時に祖母が倒れて、そのまま亡くなって…
松下奏
松下奏
祖父は介護が必要だったけど、私1人では仕切れないってことで、施設に入ることになって、その家にも居られなくなったので、神奈川の叔母の家に居候をさせてもらうことになって、中学から神奈川です。

家を何度も変わっている…実の両親は他界…

長い付き合いの友達もいない…

心許せる人が近くにいないのか…
医師
医師
へぇ…転校して大変だったことは?
松下奏
松下奏
特には…強いて言うなら、友達関係ですかね…
静岡へ行った時は、学年の途中で急に転校したので、タイミングとか悪くて…その、軽いイジメというか…でも、まだ小3だし、悪気はなかったと思うんですけど…
松下奏
松下奏
神奈川に行った時は、もう大分大人だったので、その時は家での方が気を使っていたと思います…
医師
医師
…叔母さんの家?
松下奏
松下奏
叔母さんも、その家族も、本当の家族みたいに接してくれて、優しかったんですけど…私がどうしても壁を作ってしまって…
松下奏
松下奏
叔母家族のリズムを乱している自覚はあったし、部屋とかも、従兄弟たちは相部屋なのに、私は丸々1つ貰えたりして、申し訳なかったというか、罪悪感みたいなのがずっとありました…

いじめを受けていたにもかかわらず、"特にはない"か…

他人からの悪意を年齢のせいに…認めたくないんだな…そうやって自分を守ってきた。

そして、他人の好意を正面から受け取れない。
医師
医師
…誰か、本音をぶつけられる人はいる?
松下奏
松下奏
…言ったら、多分聞いてくれるだろうなって人なら、います。

言ったことはない、と…
医師
医師
今、1番の願いは?
松下奏
松下奏
…病気を治したい。
病気を治すのはあくまで通過点に過ぎない。

聞きたいのは、何のために治したいか、だ…
医師
医師
本当に?
松下奏
松下奏
本当です。だからここまで…
医師
医師
本当にそれが1番なの?
松下奏
松下奏
…どういう意味ですか?
医師
医師
…病気が治るなら、他は全て失える?
家族…仲間…仕事…財産…
君は何を守りたい?

自分の気持ちに早く気づくんだ…

手遅れになる前に…

今まで誰にも言えなかった、自分でも認めたくなかった感情と向き合え…

もう、分かっているはずだ。
松下奏
松下奏
…居場所。居場所が欲しい。
何もしなくても…いていいよって…場所が欲しい…何もしなくても…離れないでいてくれる…人が欲しい…もうだれも…失いたくない…

よし、これで少し進歩だな…
医師
医師
それが、今のお前の1番の望みだ。それを忘れるな…
お前は自分を無視しすぎた。その結果、この病が発症した。悪い言い方をすれば…自業自得だ。
医師
医師
いいか、本当に治したいなら、自分から目を逸らすな…適当な言葉で取り繕うな…嘘で塗り固めるな…
松下奏
松下奏
…グスッ
医師
医師
今なら分かるんじゃないか?何で彼の歌が聞けなくなったのか…

心のどこかでは分かっているはずだ…

ずっと前から…
松下奏
松下奏
あの時ッ…刺された時ッ…死ぬかもって思ってッ…この後ッ…犯人がこのまま暴れ続けてッ…3人がッ…刺されてッ…しッ…死んじゃったらどうしようッ…って咄嗟に考えちゃってッ…
松下奏
松下奏
あの声を歌を聞くとッ…そのイメージがッ…その時の恐怖がッ頭の中にッ…すごくッ…怖くなるんだと思いますッ…

失うことへの恐怖が、この症状に現れた。

それだけ、すでに彼らを大切に思っている、ということなんだが…

それは後々気づけばいい…
医師
医師
…ん。そうだな…ちと無理させすぎたか…
ほら、これ飲め。で、ここで休んどけ、な?
俺は彼らに話聞いてくるから…
くむくぬぎです!

今回は、奏の過去編!ということでした。

奏の過去はなんとなく固まってはいたのですが、いざ書いていくと、どんどん壮絶になっていく…

最初はもっとライトな話にしようと思っていたのに…

でも、こっちの方が後々の話的にも良かったのかな…と。

結構、暗い過去を持った主人公に惹かれる節があるので、小説とか考えてると、割とそういう子になっちゃうのです。過去に色々詰め込みたくなる、というか…

自分の想いに気づいた奏…

一方その様子を見ていた3人は…

また次回、お会いしましょう!バイバイ

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