「あなた」
幸せ、ってなんだと思う?
そう、たとえば、それはね──。
「俺と……、」
「付き合ってください」
その日も、雨だった。
高いビルが立ち並ぶ空は窮屈そうで、見上げても遠くまでは見渡せなくて。
絶えず行き交う人々の波は忙しなくて、立ち止まれば瞬く間に飲み込まれて自分を見失いそうで。
一秒も止まることのない時間に責め立てられて、気付けば息をするのも忘れてしまう。
そんな日々の中、時々無性に、思う。
風に吹かれて流されるわたげのようにどこか遠くへ飛んでいきたい。
陸を夢見る人魚に逆らって深いふかい海の底へと潜っていきたい。
夜空にパッと咲き誇っては一瞬で萎れてしまう花火のように儚く散ってしまいたい。
今、この都会にしとしとと降る雨のように、
花を濡らして、水たまりを作って、アスファルトに染み込んで消えてしまいたい。
そんなことを、時々無性に、ふと、思う。
そんなことを、無性に、思っていた。
今日も、満員の電車に揺られて、最寄りの駅まで辿り着いて、
そして、
「颯斗」──。
その声で名前を呼ばれて、
「おかえり。」
その笑顔が迎えに来てくれるまでは。
「あなた…、」
どうして、と紡ぐ前にあなたは手に持っていた傘を見せて笑った。
「颯斗、傘持ってってないだろうなぁと思って」
「だから、迎えに来たの」
当たり前のように、なんてことのないように、
立ち止まる俺の横を通り過ぎる無数の人々の波に逆らって、あなたはあっという間に俺の元まで辿り着いて俺の影を踏んだ。
「今日もお疲れさま。」
少しだけ人目を気にしつつ、あなたはそう言って頭を軽くぽんぽんと撫でてくれた。
「いっしょに帰ろ、颯斗」
"いっしょに"──その一言が何だか無性に嬉しくて、だけどなぜだかきまりが悪くて、まるで初めて繋ぐかのようなぎこちなさであなたが差し出してくれた手を握った。
──────────
「ごめんね、傘一本しかなくて」
「んーん。あなたと相合傘、嬉しい」
「そっか、良かった」
「ありがと、迎えに来てくれて」
「どういたしまして。
颯斗、私が来なかったら走って無理やり帰ってたでしょ」
「んーこんくらいの雨だったらそうしてたかも」
「もう、こんくらいの雨ならふつうに濡れちゃうでしょ、風邪ひいちゃったらどうするの」
ほんとうに俺のことならどこまでもお見通しでやっぱりどこまでもあなたには敵わない。
口を尖らせて怒るあなたにごめんと謝りながら雨の帰り道をふたり並んで歩く。
「どうする?なんか食べて帰る?」
「あ、ごはんもう出来てるよ。今日ちょっとだけ早く仕事終わったから」
「え、ごはんまで作ってくれたの?今日会う約束もしてなかったのに…」
粒の小さな雨たちが俺とあなたの上に咲いた傘を絶えず滑り落ちていく。
小さなあなたが少しでも濡れないように繋いだ手をきゅっと自分の方へと引っ張って、気付かれないようにあなたの方へと少し傘を傾ける。
「うん…なんか、ね…」
ほんの少しあなたの歩みがゆっくりになって、繋いだ手をもう一度ぎゅっと繋ぎ直すから、見下ろした先で瞬いたあなたの長いまつ毛から目が離せなくなった。
「颯斗が、元気なくしてる気がしたから」
一瞬、ほんの一瞬だけ、雨音も何も聞こえなくなって、あなたの声だけが鼓膜にさざめいた。
一瞬で世界は音を取り戻して、また雨粒が傘を滑って遊び落ちる。
「だから、」
あなたは繋いでいない方の手を頭上に伸ばして、
「迎えに来てよかった」
ほんの少しだけあなたの方に傾けていた傘をまっすぐに戻して、笑った。
「…、」
上手く言葉が紡げずにただあなたを見つめる俺を可笑しそうに笑いながら、あなたは繋いだ手をきゅっと自分の方へと引っ張って俺を傘の下へと誘った。
さっき、気付かれないように俺があなたにしたみたいに。
「颯斗がちゃんと守ってくれてるから私はだいじょうぶ。
だから颯斗も、ちゃんと濡れないようにして」
あなたが絶対に濡れないようにと俺がしてたことも全部分かって、だけどその為に自分は少しくらい濡れてもいいやと思っていたことはやさしく叱りつけて、あなたは今日もそんな俺を甘やかすようにやさしく頬を撫でてくれる。
"ありがとね、颯斗"──。
あなたが濡れないように、なんて、やさしさや思いやりというより俺にとっては至極当たり前のことで、
だけどあなたはそんな俺の"当たり前"ひとつひとつに気付いて「ありがとう」を返してくれる。
同じように、自分は濡れてもいいや、なんて自分を蔑ろにすることを当たり前にしているのにも気付いてあなたはちゃんと「ダメだよ」って怒るの。
『颯斗、自分のこともちゃんと大切にしなきゃダメだよ?』
『颯斗は誰にでもやさしいけど、自分にもちゃんとやさしくしてあげてね』
って、まるで心臓の一番やわらかくて弱い部分をそっと包み込んであたためて守るように、そう言うの。
「ねぇ、颯斗」
「ちょっとだけ、寄り道してもいい?」
そういえばあんなに重かった足取りが、迎えに来てくれたあなたの笑顔を見てからウソのように軽い。
もう少しだけあなたと並んで相合傘をして歩きたい。
俺はあなたのお願いに頷いた。
──────────
「はい、到着」
あなたに手を引かれるままに辿り着いたのは──。
「どう?キレイでしょ」
大通りから道を裏地へと入って、住宅街を抜けて、二人並んでギリギリ通れるくらいの幅の道を通って、野良猫とあなたしか知らない抜け道のような道程を経て、そうして辿り着いたその先に広がっていた光景に俺は思わず息を飲んだ。
「これ…、紫陽花?」
「そう、ぜーんぶ紫陽花」
道の突き当たりに突如現れた一角のそこは、青や紫、ピンク色の色とりどりの紫陽花たちが一面に渡って咲き誇る、まるで秘密の花園のような場所だった。
「この前ちょっとお散歩してた時に偶然見つけたの」
「公園、だったみたいだね」
薄闇に目を凝らしてよく見ると、確かに紫陽花たちに囲まれたその中央にはすべり台と二つのブランコがあった。
あなたが公園"だった"と言った理由は、その二つの遊具に取り付けられた鎖と錆び付いた銀色が物語っていた。
「その時はお昼で雨も降ってなかったんだけど、その時も今みたいに誰もいなかったの。だからもう誰も遊びには来ないのかなって…」
あなたが、俺の手をきゅっと握りしめる。
「もう、みんなから、忘れられちゃったのかなって」
俺はまた、見下ろしたあなたの長いまつ毛から目が離せなくなる。
どうしてだろう。
繋いだあなたの手と、隣りにあるあなたのぬくもりは確かにあったかいのに、どこか無性に寂しいのは。
「だからね、」
だけど──、
「颯斗にも、教えたかったの。」
どうしてだろう。
繋いだあなたの手と、隣りにあるあなたの確かなぬくもりが、
「颯斗だけに、教えたくなったの。」
いつもよりずっと、ずっと、あったかくて、心地好くて、幸せに思うのは。
「俺、だけに…?」
ふたりの爪先を、雨は絶えず濡らしていく。
「うん、颯斗に…、颯斗だけに、教えたくなったの。」
どうして?──見下ろしたあなたの長いまつ毛がゆっくりと雨に瞬く。
「ここを、知ってる人を、憶えてる人を、私だけにしたくなかったの。…私と、颯斗だけにしたかったの。」
「もしもほんとうに、誰からも世界中からも忘れられても、
私と颯斗だけはちゃんとここを知ってるよって、憶えてるよって、紫陽花たちに伝えたかったの。」
小さな雨粒たちが、小さな花びらが身を寄せ合う紫陽花の傘の上に降り積もって、やがて小さな水たまりを作り、葉っぱを伝い落ちては地面に染み込んでいく。
そんな光景が、そんな紫陽花たちが、まるで泣いているように見えるのは、果たして気のせいだろうか。
「ごめんね、突然変なこと言って」
ごめんね、とあなたは少し、やっぱりどこか寂しそうに笑った。
ざわざわとひだりむねが騒いで、ぎゅうっと痛くなって、ジンジンと熱くなる。
なんだろう、これ。どうしたんだろう、俺。
「でも、ちゃんと颯斗を連れて来られて良かった。」
「…ねぇ、颯斗」
あなたは、俺の方へと向き直って、真っ直ぐに俺を見上げた。
「颯斗はいつも、ほんとうに、ほんとうにがんばってるから、
もしもね、どうしようもなく疲れ切っちゃった時は、ここへおいで?」
「誰にも逢いたくない時、私にも逢いたくない時は、ここにおいで。」
──「どうしようもなく、泣きたくなる……、今日みたいな日にね。」
──あぁ、どうして、あなたには分かるんだろう。
どうして、あなたには分かってしまうんだろう。
自分自身でも気付かなかった、
そんな小さなちいさな泣き声が、あなただけには聞こえるんだろう。
「ここは、私と颯斗しか知らない、秘密の場所だから」
「…あなた…、」
あなたの名前を呼ぶ声は、震えていた。
頷くように、あなたはそっと、やさしく俺を抱きしめた。
「颯斗、今日もほんとうによくがんばりました。」
「颯斗ががんばった分だけ、今日もたくさんの人たちが世界中のどこかできっと笑顔になったよ。」
「颯斗が今日もいっぱいがんばって、たくさん戦って、今 私の隣りに居てくれるから、私は今日もすごくすごく幸せだよ。」
ありがとう、颯斗──。
抱きしめてくれる腕が、背を撫でてくれる手のひらが、
包み込んでくれるぬくもりが、やさしく名前を呼ぶ声が、
気付かない内に疲れ切って泣いていた心を解いていく。
ふたりは一本の傘の下にちゃんと収まって、互いに向き合った爪先はもう雨で濡れたりしない。
「…、」
もう一度あなたの名前を呼びたかったけれど、声にはならなかった。
代わりにもう一度、あなたと、それから自分が濡れないように傘を握りしめて、もう片方の手で小さなあなたを抱きしめ返す。
すると、あなたは片方の手で傘を握りしめる俺の手を上からそっと包み込んで同じように握りしめた。
俺を見上げて、見つめて、あなたが笑う。
一本の傘をふたりで握りしめて、
俺はあなたが、あなたは俺が濡れないようにと、
泣き止まないふたりの空に咲かせる。
もう少しだけ誰もいないふたりだけのこの場所でこうしていたくて、しばらく抱きしめ合っていた俺とあなたを、雨空の下でも咲き誇る紫陽花たちだけが静かに見守っていた。
「颯斗、寄り道に付き合ってくれてありがとね」
帰ろう、颯斗──。
『いっしょに帰ろ、颯斗』
さっきのあなたの、そのなんてことない言葉が無性に嬉しかった理由が、分かった。
「あなた」
今度はちゃんと声になったその名前の理由も、ちゃんと分かる。
「俺…、」
どうしてだか、時々無性に思う。
忙しない日々にふと自分を見失って、呼吸の仕方も忘れて、
ともすれば消えてしまいたい、なんて。
その理由が、今、分かった。
「あなたに、逢いたかった。」
逢いたかったんだ。
ただ、ただ、無性に、どうしようもなく
あなたに、逢いたかったんだ。
「だから、ありがとう、迎えに来てくれて。」
あなたに、逢いたかった。
ただ、それだけだったんだ。
「…うん、どういたしまして
私もね…、颯斗に逢いたかったの。」
「なんでだろう…、ほんとうはね…、」
「颯斗が、泣いてるような気がしたの。」
だからね──、爪先で精一杯の背伸びをして、あなたはそっと俺にやさしくキスをした。
「雨が降ってても降ってなくても、迎えに行ったよ」
そう言って笑うあなたの笑顔がじわりと滲むのはもう気のせいなんかじゃない。
ありがとう。
迷子になっていた俺を、ちゃんと見つけて迎えに来てくれて。
「あなた…、」
ありがとう──、何度言っても言い足りないありがとうを込めて、爪先立ちのあなたにやさしいキスを返す。
「やっぱり、迎えに来て良かった」
あなたは笑って、ほんの少し濡れた俺の眦を撫でる。
もう、だいじょうぶ。あなたが隣にいるから。いてくれるから。
さぁ、一緒に帰ろう。
紫陽花たちに手を振って、あなたの手を繋いで握りしめる。
気付けばいつの間にか雨は止んでいたけれど、俺とあなたの空に咲いた花は萎むことはなかった。
『颯斗くん』
いつからだろう、その姿をこの瞳が追うようになったのは。
『傘、持ってないの?』
ハッキリとは思い出せないほどに、
『これ、良かったら使って?』
気付いた時にはもう、吸い込まれるようにその笑顔から目が離せなくなっていた。
『え、でも…』
あの日も、今夜のような小さな粒たちが集まって降り注ぐ雨空だった。
『私の家すぐ近くだから走って帰ればだいじょうぶ。颯斗くんのお家ちょっと遠かったよね?だから遠慮しないでどうぞ』
『いや、俺も走れば…』
『だめ。濡れたら風邪引いちゃうから!ちょっと可愛い傘だから恥ずかしいかもだけどガマンしてね、じゃあねバイバイ!』
『あっ、ちょっと、』
引き止める間も、お礼を言う間もなく、胸に傘を託して雨の中を走り去って行く背中を、俺はしばらく見つめていた。
帰り支度をする人々の声やアスファルトを打つ雨音よりも、
ドキドキとうるさい自分の心臓の音が何よりも大きく耳の奥に響いていた──。
──段々と浮上していく意識の中、聞き慣れた小さな寝息が聞こえてゆっくりと瞼を開いた。
一番にこの瞳に映ったのは、何よりも愛おしいあなたの寝顔だった。
「…」
あぁ、そうだった。
あの日も、俺が濡れないようにって、一本しかない傘をあなたは俺に差し出してくれたんだ。
「…ありがとう、あなた…」
あの日言えなかったありがとうをそっと囁いて、眠るあなたをやさしく抱きしめた。
今日も朝目を覚まして、慌ただしく家を出て、忙しなく時間は過ぎ去って、気が付けば太陽がまたあしたねと手を振る頃。
朝から缶詰めの部屋の窓を外をふと見遣れば、小さな身体に大きなランドセルを背負った子どもたちが楽しげに笑いながら帰って行くのが見えた。
その小さな手に握られた色とりどりの傘が、今朝バタバタと支度をしている最中にテレビから聞こえてきた今日の天気予報をぼんやりと思い出させる。
【今日未明、都心では広く雨が降るでしょう】
窓から見上げた空の色は、夕陽のオレンジを霞ませる鈍色だった。
『颯斗くん、傘、持ってないの?』
『颯斗、傘持ってってないだろうなぁと思って』
ふたつの声が重なって静まり返った部屋に落ちた。
『明日』──。
365日の中で最も大切な日に、最も大好きな人に、逢えないなんて。
恋人たちが寄り添い合う聖なる夜に逢えない不運よりも、ずっとずっと自分の運命を恨んで呪った。
『お仕事なんだから気にしないで!元気出して、ね?颯斗』
そう言って、またいつものように何でもない顔で笑う笑顔が、閉じた瞼の裏でじんわりと滲んだ。
逢えない日がもう、一週間続いていた。
胸の奥の、ずっと奥の方で、誰かが何かを叫んでいる。
けれど、その声は鼓膜を震わせない。遠く、届かない。
「颯斗、次の現場行くぞー」
メンバーの声に呼ばれて目を開けば、窓の外の鈍色がまたひとつ濃くなっていた。
──────────
「お疲れ様でした」
全ての仕事が片付いたのは、22時半を回る頃だった。
何時間かぶりに外に出た。雨は、まだ降っていなかった。
「颯斗、またあしたなー」
「おう、お疲れ」
メンバーに手を振って、駅の方へ歩き出した。
今日も、
高いビルが立ち並ぶ空は窮屈そうで、見上げても遠くまでは見渡せなくて。
絶えず行き交う人々の波は忙しなくて、立ち止まれば瞬く間に飲み込まれて自分を見失いそうで。
一秒も止まることのない時間に責め立てられて、気付けば息をするのも忘れてしまう。
そんな日々の中、無性に思うのは。
──『颯斗』
23時過ぎ。電車は時刻通り、最寄りの駅に辿り着く。
人波に目を凝らす。喧騒に耳を澄ませる。
探した姿も、声も、見当たらなかったけれど、もう疲れ切ったため息は吐かない。
一歩を踏み出す、真っ暗な夜空の下へと。
雨は、まだ降っていない。
──────────
一度だけ連れて来られただけなのに、足は不思議と通い慣れてるかのようにその道をちゃんと覚えていた。
大通りから道を裏地へと入って、住宅街を抜けて、二人並んでギリギリ通れるくらいの幅の道を通って、前は遭わなかった初めましての野良猫に挨拶をして。
そして、秘密の抜け道に差し掛かる頃。
ぽつり。
一粒の雫が、頬に落ちた。
立ち止まって真っ暗な空を見上げる。
ぽつり。ぽつり。
ひとつ、またひとつ、
ひとつ、またひとつ、落ちてくる雫が頬を濡らす。
「──、」
思わず零れたその名前に、ついに空が泣き出した。
にゃあ。
さっき挨拶した野良猫が車の下で雨宿りをしながら俺を見つめて鳴いた。
まるで、早く行けと催促するように。
「うん、行ってきます」
ありがとうと手を振って、俺は走り出した。
──────
今夜もまた、粒の小さな雨だった。
街灯に照らされて降り注ぐ光の粒たちがまるで道を示すように輝いて導いてくれている。
聖なる夜のあの日も、こうして走ったっけ。
恋人たちや家族連れとはすれ違わない。
眠りに就いて間もない微睡みの街の外れの、誰も知らない秘密の道の途中。
繋いで、やさしく引いてくれたあたたかい手のひらのぬくもりが、"それ"を握りしめた手のひらにじんわりと蘇ってくる。
もうすぐ。もうすぐだから。
どうか、どうかお願い。
願いながら、祈りながら、息を切らして走る。
約束なんてしてない。
聞いてもいないし、伝えてもいない。
それでも、この足はあの場所へ向かうことを躊躇わない。
確信なんてない。自信があるのかと聞かれたらそれも分からない。
だけどそんなことはどうでもいい。
そうじゃない。この足を突き動かすのは、ただひとつ。
──『颯斗』
そう、やっぱり、ただひとつ。
ただ、ひとつだけ。
──『颯斗』
呼び声が近くなる。
時々イタズラに瞳の中に落ちては視界を滲ませる雨粒が、最も大切な貴女の、一番大好きな笑顔を虹彩に描き出す。
──『颯斗、迎えに来たよ 』
それは、気が付けば当たり前のように、嬉しい時も楽しい時も、どんなに辛くて苦しい時も、いつも俺のそばにあった、
俺の、たったひとつの宝物。
ひだりむねの欠け落ちた隙間を、足りないピースを、心許なく弱い真ん中を、いつもやさしく、あたたかく埋めてくれる、俺だけの宝物。
絶対に失くしたくない、たったひとつの存在。
そう、だからこそ。
雨粒が降りる度、色を濃く染めていく地面を踏み締めていた足を、止めた。
整わない呼吸を、早鐘のような心臓を、鎮めることもなく、
「あなた」──。
その名前を、呼んだ。
その姿は、確かにあの場所に、この紫苑の花園に、あった。
ひとりぼっちで、立ち尽くして、傘も差さずに、
泣き出した空を見上げていた。
「"あなた"」
世界はまた音を失って、俺の呼び声だけを、その背に響かせた。
ゆっくりと、振り返る。
夜の闇を羽織って、小さな雨粒たちを纏って、
そうして俺が見つけたのは、俺を見つけたのは、
今にも泣き出しそうな顔をした、あなただった。
「颯斗…、」
重なりゆくクリスマスの光景。
あぁ、俺はいつもこうやって、あなたを待たせてばっかりだ。
それでも、あなたはいつも俺を待っててくれるんだ。
約束なんてしてなくても、何も言わなくても、何も聞かなくても、
"おかえり"って、当たり前のように笑いながら。
だから、だからね、俺も。
「あなた」
「迎えに来たよ」
あなたと、俺の空に、一本の傘を咲かせた。
「どう、して…」
小さなあなたがもうこれ以上濡れないように、そっと抱きしめてこの腕の中に閉じ込める。
胸の中に広がっていくぬくもりが、やっぱりそうだと訴う。
「あなたが、泣いてる気がしたから」
どうして、分かるんだろう。
どうして、分かったんだろう。
何も言わなくても。何も聞かなくても。
どうして、あなたには分かるんだろう。
ずっと不思議だった。
「なんで…、そう思ったの…、?」
だけど、答えなんて簡単なものだった。
「だって、ずっと、」
「あなたのことばっか、考えてるもん」
逢えた日も、逢えない日も、
特別な日も、当たり前のなんてことのない一日も、
ずっと、ずーっと、ひだりむねはいつだってあなたのことを考えて、あなたのことを想ってる。
あなただって、そう。
どんな時も俺のことをちゃんと見ていてくれて、
何よりも一番に俺のことを考えてくれて、
誰よりも一番俺のことを想ってくれている。
時にはちゃんと叱って、だけど世界中の誰よりも俺の一番の味方でいてくれる。
苦しい時も、辛い時も、泣きたい時も、いつだって俺のそばにいてくれる。
だから、分かるんだ。分かってくれるんだ。
だから、俺も分かるよ。だから、俺も分かりたい。
どんな時もあなたのことをちゃんと見てるから。
このひだりむねは、いつも何よりも一番にあなたのことを考えて、
誰よりも一番あなたのことを想ってる。
「今日も、朝からずっとお仕事だったんでしょ…」
「うん」
「なのに、来てくれたの…?もうこんな時間なのに…」
「うん」
泣きたいのを堪えたあなたの声が小さく震えて俺の胸に響く。
「何してるの…、明日も早いんでしょ…早くおうち帰ってごはん食べてお風呂入って早く寝なきゃ…」
ほら、やっぱり。
いつだってあなたの一番は俺なの。
勘違いでも、自惚れでもなくてね。
「うん、ごめん」
あなたは怒るだろうな、って思いながら、
「でもね…、」
でもね、それでも、何があっても俺は今日、此処に来たよ。
だって──、
「あなたに、逢いたかった」
今日も、あなたに逢いたかったから。
昨日も、一昨日も、その前も、あなたに逢いたくて、逢いたくて、仕方がなかったから。
「どうしても、あなたに逢いに行きたかった」
たった一週間。
だけどそれは、
"あなたに逢えない"
それだけで果てしなく永い永い時間に変わるの。
立ち並ぶビルの隙間に空を求めて、
人波の中に自分を見失って、
気が付けば息をすることも忘れてしまう。
剰え、消えてしまいたい、なんて弱虫が泣き出すの。
「だから、今度は俺があなたを迎えに行こうと思ったの」
もしも、あなたも同じだったら。
自分のことよりもいつだって俺のことを一番に考えて、
いつだって俺を一番に甘えさせてくれるあなたが、もしも同じ弱虫を抱えていたら。
そう、あのクリスマスの夜のように──それなら、今度は俺があなたを迎えに行く番だ。
「あなたが、泣いてる気がしたから」
「あなたに、逢いたかったから」
あの日、あなたが迎えに来てくれたみたいに。
あの日、傘を持ってない俺にあなたが傘を差し出してくれたみたいに。
「だから俺も、雨が降ってても降ってなくても、あなたを迎えに行こうと思ったよ」
もしも、差し出せる傘を持っていなくても。
「…颯斗…、」
一本しか、傘を持っていなくても。
「……私も……、」
だって、
「颯斗に逢いたかった…っ、」
あなたが濡れないように守るのが、
あなたがひとりで泣かないでいいように抱きしめるのが、
他の誰にも出来ない、俺の、俺だけの役目だから。
「うん、逢いたかったね…、あなた」
あなたの瞳から降り出した雫をこの胸にそっと抱きしめる。
クリスマスだってそうだった。
いつだって自分のことは後回しで、何でもないような顔で"だいじょうぶ"って笑って、本音を飲み込んでしまうんだから。
だけど、それも全部俺のせい。全部、俺のせいにしていてよ。
全部俺のせいだから、あなたが泣きたい時にあなたの一番そばにいるのも、その涙を拭うのも、やっぱり全部ぜんぶ、他の誰にも譲らない俺の役目なの。
「ねぇあなた、今日はどんな一日だったの?」
熱い背中をやさしく撫でながら、胸の中に耳を澄ませる。
あなたは今日、どんな一日を過ごしたの?
「…私も、ずっと颯斗のこと、考えてたよ」
あなたの小さな手が俺の背をぎゅっと抱きしめる。
「朝、寝坊しないで起きれたかなって。
夜はちゃんと眠れてるかなって…、忘れ物してないかなって…、
ちゃんとごはん食べてるかなって」
「傘、持って行ったかなって…」
やっぱりあなたには敵わない。この先、一生。
そんなあなたにいつも守られて、俺は今日もちゃんと息をしてるんだから。
そんなあなたがいつも守ってくれるから、俺は今日もちゃんと息が出来るんだから。
「傘、ちゃんと持って来たよ、スゴい?」
「うん…、スゴい」
良く出来ました──そう言ってあなたはやっと少し笑って、俺の背をぽんぽんとやさしく撫でて褒めてくれた。
あぁ、その笑顔を見るだけで、知らぬ間に募っていた疲れや息苦しさがウソみたいに消えていく。
俺のことなら何でも知っていて、何でも分かっていて、
どんなに深い傷の痛みも、疲れ切った身体も、気付かない内に泣いていた心の涙も、いつもその笑顔とぬくもりで拭ってくれる。
あなたは魔法使いなのかもしれない。
本気でそう思う程に一生解けないあなたの魔法にかけられてる俺だけど、今夜はね、そんなあなたに負けないようなとっておきの魔法を今度は俺があなたに懸けにきたんだよ。
"明日"、という日にあなたに逢えない。
そんな不幸な呪いを雨に流して、涙に溶かして、
俺の世界で一番大好きなあなたの笑顔に変えるために。
「…あなた、あのね…」
だから、お願い。
俺とあなたとを囲んで、雨に濡れながら見守ってくれている紫陽花たちへ。
どうか俺に、勇気をください。
この想いを、この願いを、この誓いを、
世界で一番大切な貴女へ伝える為のとっておきの勇気を。
「あなたに、どうしても今伝えたいことがあるの」
「聞いてくれる?」
俺の胸の中で、あなたは真っ直ぐに俺を見上げて、見つめて、頷いた。
「あなたに逢えなかった一週間、毎日毎日あなたに逢いたかった」
「だけどね、今日が一番、あなたに逢いたかった」
『今日』というが終わってしまう前に。
『明日』というが来てしまう前に。
だってね──、
「あなた」
その時だった。
~♪
突如、鳴り響いたのは俺のスマホが掻き鳴らしたアラーム音。
「こんな時間に、アラーム?」
「あ、うん、絶対に遅刻しないようにセットしといたの忘れてた」
「え、もしかしてお仕事?じゃあ、」
「ううん、だいじょうぶ。ぜんっぜん、仕事よりもっとずっと大事なアラーム」
そうだ、絶対に遅刻しないように、その時間ピッタリに送れるようにって昨夜の俺がセットしておいたアラームが伝えたのは。
0時──『今日』という日が終わって『明日』が新しい『今日』に変わった瞬間。
「仕事よりずっと大事なこと?」
あぁ、ほら、やっぱり。
自分のことはいっつも後回しで、人のことばっかり考えて、こんな大事な日だって忘れちゃうんだから。
そんなあなたをちょっと叱る為にも今日ここへ来たんだ。
だけどね、一番の目的は──、
「うん、仕事なんかより、他の何かより、ずっとずっと大事なこと。」
スマホに打った文字なんかじゃなくて、電波に乗せた声なんかじゃなくて、
あなたの顔を見て、目の前で、俺の声で、言葉で、ちゃんと伝えたい想いが、もう泣き出しそうで仕方がなかったから、だから今日ここに来たんだよ。
だから、ちゃんと聞いていてね。
365分の1の、『今日』という日に、ありったけの愛を込めて。
「あなた」
俺の、世界で一番大切で、世界で一番大好きな貴女へ。
──「お誕生日、おめでとう。」──
「産まれてきてくれて、ありがとう。
俺と出逢ってくれて、ありがとう。
俺のことを好きになってくれて、ありがとう。
俺の恋人になってくれて、ありがとう。
いつもそばにいて守ってくれて、ありがとう。
いつも幸せをいっぱいくれて、ありがとう。
ほんとうに、ほんとうに、ありがとう。」
まだ30年も生きてない俺の、それでも人生最大の幸せは、
あなたと同じ時代に産まれたことで、
あなたと出逢えたことで、
あなたを好きになったことで、
あなたに好きになってもらえたことで、
あなたと恋人になれたことで、
今こうしてあなたのそばにいられることだって、
胸を張って言えるよ。
この先幾つ年を重ねたって、これ以上の幸せなんてない。
この幸せがいつまでも続いていくことが、最高の幸せだから。
だから、改めてちゃんと言わせてほしい。
今更過ぎるほど、今更だけれど。
「あなた」
あの日、あなたと出逢えた日から俺の物語は始まった。
幼稚園の先生。小学校の時初めて隣の席になった女の子。
淡い"好き"の気持ちは幾つか芽生えたけれど、
このひだりむねに確かに芽吹いて、茎を伸ばして葉をつけて、
そしていつしか大きな花を咲かせたその気持ちにほんとうの名前をくれたのは、あなたが初めてだった。
『あなた』
その気持ちに、名前をつけたのは、
その気持ちの名前を教えてくれたのは、確かにあなただった。
確かに、あなたが初めてだった。
気付いたらその姿を目で追っていて、名前を呼ばれたり見つめられたり笑いかけられるとひだりむねがとくんと鳴って、
その笑顔が他の誰かに向けられているとひだりむねはチクリと痛んで、
そうしていつしか、あなたにとって他の誰よりも俺が一番の存在でありたい、なんて思うようになっていた。
その気持ちの名前は、あなたが教えてくれた名前は、
『俺と、』
確かに、
『付き合ってください』
"恋"、だった。
初恋、だった。
「俺は、あなたのことが、世界で一番、宇宙で一番、大好きです。」
もうこれ以上、こんなにも好きになる貴女になんて出逢えない。
そう思える貴女を今この腕の中に抱きしめている俺は、もしかしたら世界一の不幸者かもしれない。
もしもあなたを失ってしまったなら、俺の世界は呼吸を止めてしまうから。
色を消して、音を立てて崩れ落ちてしまうから。
あなたのいない世界を生きていく理由なんて、俺にはひとつもない。
あなたのいない世界なんて、それはもう世界とは呼ばない。
だからね、
「この先もずっと、ずっと、あなたは俺の世界で一番、宇宙で一番、大切な恋人です。」
傘を持っていない俺に、泣き出した空に、傘を差し出してくれる貴女。
このひだりむねが何よりも"愛おしい"と訴う貴女。
俺の世界を鮮やかに彩って、俺の宇宙を輝かせてくれる貴女。
「だから…、」
もうこれ以上、こんなにも好きになる貴女になんて出逢えない。
そう思える貴女を今この腕の中に抱きしめている俺は、やっぱり宇宙一の幸せ者だから、だから──。
もうひとつだけ、言わせてほしい。
もうひとつだけ、聞いてほしい。
逢えた日も、逢えない夜も、何度も何度も考えて、何度も何度もこのひだりむねに問い掛けた。
あなたの笑った顔も、怒った顔も、泣き顔も、
あなたと過ごしてきた今日までの日々を何度も何度もこのひだりむねに描き出して。
──『颯斗』
そうして、あなたに恋をしたこのひだりむねが確かに歌った答えを、どうか聞いてほしい。
まだまだ子どもで、頼りなくて、あなたに甘えてばっかりで、そんな俺だけど。
あなたを好きなこの気持ちだけは、あなたを大切に想うこの気持ちだけは、永久に変わることなく絶対に他の誰にも負けないって世界中にだって胸を張って言えるから。
「あなた」
俺の世界で一番大切なあなたが産まれた、
『今日』という日に、今日まで生きてきた分のありったけの愛を込めて。
──「俺と、結婚してください」──
あなたの瞳から、一粒の涙が零れ落ちた。
それは、この世のどんな宝石よりもキレイだった。
きっと俺がこの地球に、この時代に、産まれてきた理由は、
あなたと出逢う為だったよ。
たくさんの分かれ道を、迷いながら悩みながら、ひとつひとつ選んで歩いてきた理由は、その先であなたを見つける為だったよ。
こんなにも誰かを大切に愛おしく想う気持ち。
それはね『愛』って名前だよって、教えてくれたのもやっぱりあなただった。
だから、ワガママを言わせてほしい。
願わくば、叶うなら、どうか、あなたも同じでありますように。
だってたとえ誰かが、もしも世界中が否定したって、
紛れもなくこの広い世界の中で俺を見つけてくれたのは、
他の誰でもない、あなたなんだから。
ひとつ、またひとつ、あなたの瞳から零れ落ちる涙を、
両手で包み込んで掬い上げる。
「っ、颯斗…、」
上手く声にならない声で一生懸命に俺の名前を呼ぶあなたが、ほら、こんなにも愛おしい。
「ほんとに…、私で…、いいの、?」
ほら、やっぱり。
あなたのそういうところが好きなんだって、この一生が終わるまでにあと何回言ったら伝わるかな。
「うん、あなたがいいの。」
「ずっと言ってるでしょ?」
「俺は、あなたじゃなきゃイヤなの。」
他の誰かじゃダメなんだよ。あなたじゃなきゃ、ダメなんだよ。
「この先もずっと、一生、あなたがいいの。
俺の隣は、あなたじゃなきゃダメなの。」
俺の隣は、あなたがいいの。
一緒に眠るのも、朝起きて一番に「おはよう」を言うのも、
「ただいま」を言うのも、「おかえり」って言ってもらうのも、
一緒にごはんを食べるのも、一緒に笑って泣くのも、
一緒に歳を取って、一緒に生きていくのも、
全部ぜんぶ、あなたがいいの。
あなたじゃなきゃ、イヤなの。
何度も何度も問い掛けて、このひだりむねが出した答えは、
揺るがないそのただひとつの想いだった。
「あなたってね、すごいんだよ」
また、今夜も言うよ。
何度も言い聞かせた言葉を、何度だって言わせてほしい。
あなたってね、ほんとうにすごいんだよって。
「どんなに疲れてても、あなたに逢って、あなたの顔を見たら全部吹っ飛んじゃうの」
「どんなに辛くて苦しくて、心が折れそうな時も、あなたの笑顔を思い出したら踏ん張って頑張れるんだよ。あなたがいてくれたら俺は無敵なの」
「何をしてる時よりも、誰といる時よりも、あなたと一緒にいる時が、あなたの笑顔を見てる時が、俺は一番幸せなの」
あなたってね、すごいんだよ。
たとえ世界中が敵になったって、あなたが味方でいてくれるなら俺は何度でも立ち上がって立ち向かっていけるんだよ。
子どもの頃に憬れた、どんなヒーローだって敵わないくらいのスーパーヒーローなの。
「だから、俺の人生にはもう、あなたがいてくれなきゃダメなの」
だから、あなたが泣くのなら俺がその涙を拭うから。
辛い時は、苦しい時は、どこにいたって駆け付けて朝が来るまで抱きしめるから。
もしも世界中があなたの敵になるのなら、俺は世界中の敵になるよ。
たとえば世界中があなたの味方だって、誰よりも俺が一番のあなたの味方でいるよ。
あなたがいつも、俺にそうしてくれるみたいに。
あなたが笑う時は、一番そばでその笑顔を見ていたい。
喧嘩をする時もあるだろうけれど、俺とあなたならきっと許し合えるから。
「返事は、すぐじゃなくていいよ。いつでも待ってるから」
止めどなくあなたの瞳が零す涙の理由は図り兼ねてる。
驚きと戸惑いとが揺れるそのふたつの瞳が映す俺は、だけどそれでも笑ってる。
自信なんてないけど、不安だってなかった。
あなたがひとりで泣いてしまう前に、あなたの元へ行きたかった。
あなたが産まれた『今日』という日に、どうしてもあなたに逢いたかった。
ただ、この想いを『今日』という日に伝えたかった。
相変わらずのワガママで、どうしても"待て"が苦手でごめんね。
だけど、その答えだけは急がないで。
その答えだけは、いつまでだって待っていられるから。
あなたは止めどなく涙を零す瞳に瞼を閉じて、もう一度そっと俺の胸の中に顔を埋めた。
抱きしめたその背中はまだずっと熱くって、宥めるようにやさしく撫で付けた。
「あなたが落ち着くまで、ずっとこうしてるから。ゆっくりでいいよ」
雨は止みそうにないけれど、傘を滑る雨粒の音はやさしくて、抱きしめ合う俺とあなたを濡らすことなく包み込んでくれてるようだった。
家に帰ったら何しようか。
お腹が空いてるなら一緒にごはん食べて、身体が冷えちゃったなら一緒にお風呂入って、もう眠たかったら一緒にベッドに潜り込んで眠ろうか。
ケーキとプレゼントのサプライズはまだヒミツね。
久々にあなたに逢えた今日が嬉しくて逸る胸を抑えながら、
今はやさしい雨音と小さく響くあなたの涙を静かに聴いていたくて、ただあなたを抱きしめていた。
──「颯斗」
永遠のような一瞬のような沈黙のあと、あなたが、俺の名前を呼んだ。
腕の中を覗き込んで耳を傾けた。
「私の…、ワガママも、聞いてくれる?」
雨音に溶けてしまいそうな小さな声は、だけど確かに俺の胸の奥深くに響く。
もちろんと頷けば、あなたは大きく息を吸い込んだ。
「私も、颯斗のことが、世界で一番、宇宙で一番、大好きです…」
「この先も、ずっと、ずっと、颯斗は私の、世界で一番、宇宙で一番、大切な恋人です」
小さく震える涙声でも、それは俺のひだりむねを強く打って熱くしていく。
『今日』という日に確かに生きていることを、教えるように。
「だから…、だからね…、」
あなたの小さなてのひらが、精一杯に、俺を強くつよく抱きしめた。
「この先も、ずっと、一生、」
──「私を、颯斗の一番にしてくれますか」──
この世界にはきっと永遠も絶対もないけれど、
それでも、だけどそれでも、このひだりむねに芽吹いて息づいているあなたへの想いだけは、あなたへの誓いだけは、
この先もずっと、一生、絶対に永遠に変わることはないって胸を張って言えるのは、心の底からの大きなやさしさと愛に包まれてたくさんたくさんあなたに守られて愛してもらったからだ。
だから、矛盾してるだとか、口だけだとか、バカにされて笑われたって、それさえも笑い飛ばして言えるんだ。
「俺で…、いいの?」
自信なんてないけれど、不安だってない。
「…うん、颯斗がいい」
「私も…、この先もずっと、一生、私の隣は颯斗じゃなきゃイヤ」
自信なんてなくたって、
約束よりも確かなものは、理由のいらない今だから。
「…あなた」
濡れた頬を掬って、あなたの瞳に俺を映し出す。
「ちょっと、傘持っててくれる?」
あなたに傘を委ねて、
空いた両手でもう一度あなたの涙を拭ったなら、
「じゃあ俺からも、もうひとつだけワガママ言わせて?」
傘を持っていない方の、あなたの左手をそっと取る。
静かでやさしい雨へ、濡れそぼる紫陽花たちへ、
今日まであなたと一緒に過ごしてきた日々たちへ。
どうか、俺に最後の勇気をください──。
──「あなた」
「この先も、ずっと、一生、」
──「俺の、一番でいてくれますか?」──
いつかの聖なる夜の下ではまだ渡せなかった。
だけど今日は、今日こそは、贈らせて。
あなたの左手の、永遠を誓う薬指に、
一生の愛を結ぶ約束を、そっと嵌めた。
「俺の全部を、あなたにあげるから」
「この先も、ずっと、一生、」
「俺を、あなたの一番にしてくれますか?」
やさしい雨に綻ぶ紫陽花たちに誓う。
世界で一番、宇宙で一番大切なあなたを、何があってもこの先一生守り抜くから。
あなたに出逢えた日から始まった物語の続きを、
この先もずっとあなたと一緒に綴っていきたい。
──「うん…、ずっと、私の隣で、私の一番でいてね」
涙でぐしゃぐしゃな、だけど何よりもキレイで、どんな一瞬より輝いて、俺の世界で一番大好きな笑顔であなたは確かに頷いてくれた。
「あなた」
「俺と出逢ってくれて、俺を見つけてくれて、ほんとに、ほんとにありがとう」
嬉しくて、愛おしくて、幸せすぎて、ついに俺の瞳からも涙が溢れ出す。
あなたは泣きながら、それでも笑って、煌めきを纏った左手で俺の涙をそっと拭ってくれる。
「私の方こそ、私と出逢ってくれて、私を見つけてくれて、ほんとにありがとう、颯斗。」
70億の命の中で一生愛する貴女に出逢えた運命と奇跡を、大切にたいせつに抱きしめて永遠に守っていこう。
幸せってなんだと思う──?
そう、たとえばそれはね、
一本しかない傘を、貸してあげたいと思う誰かがいること。
そう、それはね、
ずっと、ずっと、あなたの隣にいて笑い合えること。
傘を持つあなたの手を握りしめて、濡れた頬を包み込む。
「あなた」
この先、何度も何度も歌う、最も愛おしい命の響きに、
今日まで生きてきたありったけの愛を込めて。
──「愛してる」──
このささやかでこれ以上ない幸せが、どうか、ふたりで紡ぐ日々の中で枯れることなく永遠に咲き続けていますように。
あなたがいてくれるなら、あなたといられるなら、
他には何もいらないから。
当たり前の何でもない日をふたりで重ねていって、
いつかふたりの間に新しい命が芽吹いて、
長い時が過ぎておじいちゃんとおばあちゃんになって、
この命を空に還す時──、その時もどうか俺の隣に、俺の大好きなあなたの笑顔がありますように。
──Dear My Love──
世界で一番、大好きな貴女へ。
宇宙で一番、愛する貴女へ。
一生の約束を結ぶ、永遠の愛を誓って、
そっとあなたにキスをした──。
Lucky me for finding you.
I love you till the end──.
♡
Image song
♪『夏のハイドレンジア』Sexy Zone(timelesz)
♪『Lil'Infinity』 AAA
♪『My Love』ONE N ' ONLY

~あとがき~
ここからはスルーしていただいても大丈夫です!
今回は颯斗くんから「俺の大好きなあなたちゃんが産まれた大事な大事な誕生日まだお祝いしたことない(> <。)!」とのご要望があり、
だったら
☂6月といえばジューンブライド(ヨーロッパでは6月に結婚すると幸せになれるという言い伝え)
☂颯斗くんの愛して止まない梅の季節(梅雨)
☂元々いつか『夏のハイドレンジア』のイメージ話を書きたかった
ということで今しかない!となり、
颯斗くん!なら、お誕生日のお祝いと、その流れでプロポーズまでやっちゃいなよ!もたもたしてるとあなたちゃん誰かに取られちゃうよ!
と提案したところ、颯斗くん「……分かった、する」
とのお返事が返ってきましたので、一世一代の決心で颯斗くんにあなたちゃんへプロポーズしてもらいました!!!!!!
よくやった高尾颯斗!!!かっこよかったぞ!!!
あまりにも颯斗くんとあなたちゃんが尊すぎて(ふたりを天から見守ってる私も)涙チョロリでした…
なにこのふたりお似合い過ぎる…世界一推せるカップル過ぎる…
出逢ってくれてありがとう…ほんとうにありがとう…
もしよろしければ、皆様の誕生日当日にこのお話をまた読んでいただけたら、とてもとても嬉しく幸せでございます…!
もちろん誰よりも大好きなあなたちゃんの誕生日をお祝いしたいと願っていた颯斗くんもとてもとても喜びます…!
(紫陽花が咲いていますがそこは皆様のお誕生日の季節のお花に置き換えていただければと思います…!💦)
きちんとお誕生日当日に改めて颯斗くんから「お誕生日おめでとう」と「結婚してください」を受け取っていただけたら颯斗くんも私も泣いて喜びますので、もしよろしければ!どうぞよろしくお願いいたします🙇🏻♀️⸒⸒
これからは、今まで通りの相思相愛仲良しカップルなふたりも、
新婚さんなふたりも、はたまた全然違った関係性のふたりも(いつもの颯斗くんあなたちゃんカップルが好き過ぎてまだ一作しか書けてなくてすみません💦)
お届けしていく予定ですので、より一層皆様に少しでも楽しんでいただけるようにがんばっていきます!
改めて、颯斗くん、あなたさん
これからも末永くお幸せに😭😭🙏🙏🫶🫶💍💍
私は天からふたりの日常を盗み見てそれを文字に起こす仕事をしてるだけなので、
これからもずっとずっと仲良く毎日イチャラブして幸せでいてください😭😭🙏🙏🫶🫶🍀🍀
あなたちゃんがいないと生きていけない、
あなたちゃんにだけ甘えんぼでちょっぴりワガママな、
そんな颯斗くんをどうぞ末永くよろしくお願いします💐💝
⏔⏔⏔⏔ ꒰ ♡ ꒱ ⏔⏔⏔⏔
💍💝💐Best wishes forever!!!💐💝💍
⏔⏔⏔⏔ ꒰ ♡ ꒱ ⏔⏔⏔⏔
to be continued...













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。