第24話

だから、キスをする。#HAYATO
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2025/12/06 12:43 更新
(結婚後の相変わらずあなたちゃんにだけは甘えんぼな颯斗くんとあなたちゃん夫婦の日常🍀)





朝──。
まだ寝てたいとぐずる重い瞼を開けば、一番にこの瞳に映り込むのはすやすやと眠るあなたの寝顔。
それが、当たり前になった毎日。
そんな小さな当たり前を朝一番に目を醒ました瞬間に感じられることが、この上なく幸せだと思う。
恋人だった頃だってあなたを抱きしめて眠る夜が、あなたが隣にいる朝が何よりも幸せだったけれど、何よりも幸せだからこそ反対にあなたのいない一人きりのベッドは寂しくて物足りなかったから。

「あなた…、」

あなたの寝息はとっても小さく静かで寝返りもほとんどしないから、時々心配になるの。
だから起こさないようにだけれど、俺が先に起きた朝はいつもそっと名前を呼んで確かめる。
白く透ける頬にふわりと触れてぬくもりを感じて、あぁ、今日もあなたがちゃんと隣にいるって分かって、ホッと胸を撫で下ろす。
そうして、俺の一日は始まる。

一旦あなたを起こさないように細心の注意を払いながらそーっとベッドを抜け出して出掛ける準備をする。
準備が出来たらどんなに朝早くたってちゃんと『行ってらっしゃい』を言いたいから起こしてほしい、って、やさしいあなたからのお願いを守って、
この時期は太陽の方がお寝坊さんで外はまだ薄暗い時間だってちょっと申し訳なく思いながらもちゃんとあなたを起こす。

「あなた、あなたちゃーん」

今度はしっかりと、だけどやさしく名前を声にして、布団に包まった(寒くないように俺が包んだ)あなたをそっと揺り起こす。

「…、ん…」

「あなたちゃん、おはよ」

「んー…、はやと…、おはよぅ…」

少し幼くてあどけない寝起きの顔も、寝起きの声も可愛くって、まだ行きたくないって、まだあなたと寝てたいって、俺まで子どもみたいにぐずりたくなるのがこの瞬間のお決まり。

「最近毎日早くてごめんね」

上手く瞼が開かなくて目を擦る、寝起き一秒のぽやぽやなあなたの髪を撫でる。
普段は基本どうしても俺の方があなたに甘えちゃうからこの時ばっかりはまだあなたといたいとぐずる自分の胸をあやす為にも思う存分あなたを甘やかすの。

「んーん、ちゃんと起こしてくれてありがとう」


『ちゃんと、颯斗の行ってきますを聞きたいの』

『ちゃんとね、颯斗に行ってらっしゃいって言いたいの』


どんなに忙しい日が続いても、何か辛いことや苦しいことがあっても、挫けずに俺が今日一日をがんばれるようにって、
その為の力になりたいって、そんなやさしいあなたの愛情を毎日の始まりにもらえることもこの上ない幸せだ。

「今日も朝早くからおつかれさま」

「うん、あなたも今日も朝早くなのに起きてくれてありがと」

擦ったからちょっと紅くなっちゃったあなたの瞼をやさしく撫でる。

「今日は多分遅いかも…でも日付変わるまでには帰れるようにする!」

「そっか、分かった。待ってるね」

「眠たかったら先に寝ててね?ムリして起きてちゃダメだよっ」

「はあい」

「じゃあ…」

「あっ、颯斗ちょっと待って」

「ん?」

名残惜しいけれどそろそろ行かなきゃだから渋々あなたにバイバイをしようとした時、ふとあなたは俺を呼び止めて小さく手招きをした。
その手招きに従ってあなたに顔を近づけると、あなたは手を伸ばして俺の髪を撫で付けた。

「ん、よし。寝癖ついてたよ」

「あれ、ほんと?さっき直したのになぁ」

「…わざとでしょ」

「え~?バレた?」

今日も、全部あなたにはお見通し。
あなたに少しでも構ってもらいたい小さなイタズラ。
こんなやり取りも幸せでたまらない、そんな朝。

「じゃあね、あなた。行ってきますっ」

「うん、行ってらっしゃい。今日もがんばってね」

お寝坊さんの太陽がまだ眠い目を擦りながら起きてくる頃。
"行ってきます"と"行ってらっしゃい"と、
"今日も大好き"をこんな幸せすぎる朝に込めて、
あなたに今日始めのキスをした。


──────


打ち合わせ、会議、ボイストレーニング、ダンスレッスン、リハーサル、撮影、取材etc...
日々色んな仕事を熟しながら、その隙間で想うのはやっぱりあなたのこと。
考えるんじゃなくて、無意識にあなたの顔が浮かんでくる。
意識なんてしなくても当たり前に心臓が動いているように、呼吸をしているのと同じように。

今 何してるかな。誰といるかな。
お昼ごはん、何食べたかな。
今日帰ったらあなたになんの話からしようかな。
何か小さくても、あなたにとって嬉しいことがひとつでも多くあるといいな。

「颯斗、今あなたちゃんのこと考えてるだろ」

そういう時、あなたには敵わないけれど永玖ちゃんにも大抵見透かされる。

「あ、バレた?」

俺、そんなに顔に出テマスカ?

「マジで顔に出すぎ」

あれ、まさか心の声までも出テマスカ?

「ヘンタイの顔してる」

「それは言い過ぎジャナイ!?」

今日も少々俺へのツッコミが厳しい永玖ちゃんにツッコミ返していつものようにワチャワチャと過ごす昼下がり。
このやり取りも今日帰ったらあなたに話そうかな。
仲良しだねぇって笑うあなたの顔がまた浮かぶから、今日も目紛しく長い一日だけど、がんばれる。
ほらね、あなたってすごいんだよ。
あぁ、逢いたいなぁ、なんて、さっきバイバイしたばっかなのにね。

~♪

その時、メッセージを告げる着信が鳴る。

《颯斗、おつかれさま》

《ちゃんとお昼ごはん食べた?午後からもがんばってね!》

開いたスマホのディスプレイにはウソみたいに、遠くからでも俺の心を読み取った魔法使いあなたからのメッセージ。
文字の並びだけなのに、自然とあなたの声で聞こえてくるそのメッセージにゆるゆるとくちびるが解かれてどうしようもなく頬が上がっていく。

「…あなたちゃんからだろ」

「うん、あなたちゃんから♪」

あんまりにも頭ん中あなたのことでいっぱいで惚気っぱなしの俺に永玖は呆れた顔を向けてくるけど、何だかんだでいつもそんな俺に付き合ってくれるんだから今日もしつこく絡んでやる。

「みてみてあなたってほんと可愛くない!?可愛すぎない!?」

「わーったわーったマジでうるさい!」

そんな風に戯れてると集まってきたメンバーたちも巻き込んで今日もわーわーと動物園並にうるさい俺たちの楽屋の出来上がり。
あなたがいない場所でだって気の知れた仲間たちとこんな風に楽しい時間は沢山あるけれど、それでもやっぱりそんな楽しい時間を早くあなたに話したいなぁって心の中でずっと思ってる。
俺があなたの知らないところでがんばってるように、
俺の知らないところで今日もがんばってるあなたへのお土産に、今日も楽しかったよって教えたいから、あなたは今日どんな一日だったのって教えてほしいんだ。

「マジで今日はむちゃくちゃがんばって早く終わらせて早くあなたちゃんとこ帰る」

「今日は、じゃなくていつもだろその目標」

「あんまガッついってっとあなたちゃんに嫌われるぞ」

「あなたちゃんは俺のこと大好きなんでそんなんで嫌ワレマセン」

「俺の方が颯斗より筋肉あんのになぁ」

「だから、あなたは筋肉で選んでないからっ!」

哲汰の中であなたはいつから筋肉好きキャラになったのか全くもって不明なんだけれど、こんなにも自信に溢れた哲汰を見てるとちょっともしかしてそうなのか…?と思えてきたので今日帰ったらあなたにちゃんと聞いてみるとする。

今日も相変わらずあなた特製の愛情たっぷりのお弁当を狙ってくる哲汰や永玖を必死で躱して死守しつつ、あなたに感謝を込めてしっかりと味わって、休憩時間は終わり。

《あなたちゃん!今日もお弁当むちゃくちゃ美味しかった!ありがたかお!》

《なるべく早く帰るからね!あなたもがんばってね💪🏻》

お弁当のお礼とあなたへのエールを送ってまだまだ続く午後からの怒涛のスケジュールへといざ出動した。

──────

時刻は23時半を過ぎる頃。
日付が変わるまでには帰るとあなたに約束したから、イルミネーションが煌めく街を俺はただいま爆走中。
白い息を吐きながら走り抜ける俺をすれ違う人々が時たま振り返る光景に思い出すのは12月25日──。
今年はあなたと一緒にいられるかな。
もう絶対に約束の時間に遅刻したり、あなたをひとりになんてしないってあの日から神様に誓い続けてるから、そろそろあなたと一緒に過ごしたいって俺の願いをどうか叶えてもらえないかな。
そんなことを思いながらようやく帰還した、まいすうぃーとほーむ。
逸る胸を抑えながらドアの前で一旦深呼吸をする。
時刻はギリギリ0時前。危うくこのテンションと勢いのままドアを開けて飛び込んでしまいそうだったけれど、あなたはもう寝てるかもしれないと思い直して一転静かに鍵を開けて静かにドアを開けた。

「ただいまぁ…」

そーっとただいまを言ってみたけれど、いつも俺が帰ると玄関まで出迎えてくれるあなたの顔は一向に現れない。

「あなたちゃーん?」

静かに名前を呼んでみたけれどやっぱりあなたが来る気配はない。
やっぱりもう寝ちゃったかな。
足音を立てないようにそーっとリビングを覗けば、そこにはソファで小さく丸くなって眠るあなたの姿。

「またここで寝ちゃったのか…」

今日もギリギリまでがんばって起きて待っててくれたんだな。
どんなに先に寝てていいよって言ったってあなたはいつも起きて待っててくれる。
そして時々こんな風にソファで寝落ちしちゃってるの。
傍らにしゃがみ込んでそんなあなたの寝顔を間近で見つめる。
今朝も見つめた、すやすやと眠るあなたの寝顔にまた自然とくちびるがゆるゆると解かれてしまう。
長い睫毛、白くてやわらかそうなほっぺた、ほんの少しだけ開いたくちびるの隙間から零れる小さな寝息。

「今日もがんばったんだね、おつかれさま」

肩から落ちていたブランケットを掛け直してそっと髪を撫でる…だけに留めようと思っていたのに、髪を撫でた手のひらはそのまま流れていってあなたの頬を撫でてふわりと包み込む。

「待っててくれてありがとね」

なるべく起こさないようにこのままベッドに運ぼうって考えていたはずなのに、ありがとうと呟いたくちびるはそのまま引き寄せられるように眠るあなたのくちびるにキスをした。

「…、」

するとどうでしょう。というか予想はできたんだけれど、俺のくちびるがあなたのくちびるに一瞬触れて離れた瞬間に、まるで眠り姫が王子様のキスで目覚めるようにあなたの瞼がゆるゆると開いた。

「お、あなたちゃんおはよう」

「はやと…?」

「うん、はやとですよー。ただいまあなたちゃん」

「おかえりぃ…あ、また寝ちゃってた?」

「寝ちゃってたね、寝顔むちゃくちゃかあいかった」

今朝と同じようにまた子どもみたいに目を擦るあなたが愛おしくて鳴る胸に、反対にもうひとつ顔を出すのは罪悪感。

「ごめんね起こしちゃって、どうしてもチューしたくなってしちゃった」

朝の行ってらっしゃいと行ってきますのキスの次は、
帰った時のただいまとおかえりのキス。
今日もおつかれさまってお互いにお互いを褒めて労って、逢いたかったねって伝え合うもの。
起こしてしまうかもと思いつつも気付いたらくちびるはあなたに触れてしまっていた。
相変わらず、というより、あなたを前にすると日々"待て"が苦手になってくの。

「んーん、今日も遅くまでおつかれさま」

眠るあなたに俺がしたように、あなたも俺の頭をよしよしと撫でてくれる。
それだけで今日一日の疲れがどこかへ吹っ飛んでいく。
あなただけがかけられる魔法。

「ありがと。あなたも遅くまで待っててくれてありがとね。」

「寝ちゃってたけどね笑」

「いーのっ、いっつも寝てていいよって言ってるでしょっ。
って言ってもあなたはいつも待っててくれるんだもんなぁ」

"寝ててもいいよ"は本音ほんとう
あなただって毎日忙しくがんばってるんだから。
だけど、あなたが待っててくれるのが嬉しいのも本心ほんとう
今日みたいに日付を跨ぐ時間になるまで遅い日じゃなきゃ、ただいまってドアを開けたらスリッパを鳴らしておかえりって玄関まで出迎えてくれるあなたの笑顔が毎日当たり前にあるのだって幸せで堪らないんだから。

「颯斗にちゃんとおかえりも言いたいの」

ほらね、そんなあなたのやさしさと愛がいつでも待っていてくれる。
それが、これ以上ない原動力になるの。

「あとね…、」

するとあなたは急になんだか恥ずかしそうにブランケットを引っ張り上げて顔を半分隠しながら、

「今はもう毎日颯斗と一緒に寝てるから…、
前よりもっとひとりでベッドで寝るの…寂しい、の…」

さっきまで眠っていた時の寝息ほどの小さな声で、あんまりにも可愛くてあんまりにも甘いあまい本音を教えてくれた。
恋人同士だった時だってもちろん何度も何度も一緒のベッドで抱き合って眠ったけれど、今はもうそれが毎日で当たり前だから、幸せなのとは裏腹にその当たり前が"ない"ことが前よりももっと"寂しい"と感じるんだって。
だけどそれもまた今が"幸せ"だって証拠だと思うんだ。

「~っ、あなたちゃんっ!」

「わっ…!」

甘え下手な可愛いかわいいあなたちゃんからそんな素直で可愛いかわいい本音を教えてもらえたなんて、そんなのどうしたって堪らなくなってこうなってしまう我慢できないなんていつものことだからあなたなら絶対に分かってるだろうに、あなたはこうやって時々確信犯なのか天然なのか分からないラインで甘えてくるからほんとうにズルい。
ソファが沈み込むくらい勢いよく俺はあなたを抱きしめて腕の中にすっぽりと押し込めた。

「俺いなくて寂しかったの…?」

「…うん、寂しかった…朝、バイバイした時から」

「…食べてもいい?」

「ダメ。今日は特に忙しかったんでしょ。もう遅いから寝るの」

「Booーー」

出逢ってから、恋人になってから、そして今日までの時間で、
ちょっとだけ素直じゃなくて、俺と似て天邪鬼で、俺とは反対に甘えるのが下手なあなたが段々と素直に俺に甘えてくれるようになってきたことがどれだけ嬉しいことか、何度か熱弁したけれどきっとあなたには半分も伝わってない。
大好きな女の子にそんな可愛いこと言われたら男の子はもうどうしようもないの。やっぱり、あなたってズルい。

「俺がいなくて寂しかったんでしょお…俺も朝バイバイした時から寂しかったしあなたに逢いたかったよ…」

「うん、寂しかったよ。
だからほら、早くお風呂入ってきて、颯斗くんにぎゅうってしてもらって一緒に寝たいなぁ」

気付けば今日も俺があなたに甘える方になって、
あなたは今日も当たり前のようにそんな俺を慣れた手付きで甘やかしている。
つくづく、あなたと出逢ってからの俺はそりゃあ永玖ちゃんも呆れるくらい甘えんぼになってしまったと思う。
だけど、だってしょうがないじゃんね。
好きになった女の子が甘やかし上手で、甘え下手なそのくせに甘え方はとんでもなく可愛い子だったんだもん。

「…分かった、爆速で入ってくる」

「ちゃんと温まってきてね。急がなくていいからゆっくり入っておいで、今度こそ起きて待ってるから」

「はあい。あ、明日はもっと早く帰れるからいっしょにお風呂はいろーね」

「分かった分かった、ハイ行ってらっしゃいっ!」

気付けば日付けなんてとうに超えていて、このままここで俺がぐずぐずと甘えてどんどん時間が遅くなるのを危惧したあなたにせかせかと背中を押されてようやく俺はバスルームへ向かう…と見せ掛けてくるりと踵を返したのは。

「あ、そうだ。姫、ベッドまでお運びします。」

大切な姫をこのままこんなところで待たせる訳にはいかない。
いつも思うけれど軽すぎるあなたをひょいっとお姫様抱っこしてベッドまでお運びする。

「あたたかくしてお待ちくださいね、姫。」

「承知いたしました。」

「では、行って参ります。」

そうして、さっき取り付けた久しぶりのあなたと一緒のバスタイムが嬉しくって今から鼻歌交じりの俺をあなたは眉を下げて笑いながら見送ってくれた。

──────

「あなたちゃんただいまぁ上がったよ~」

「はあい、おかえり」

あなたの言いつけ通りちゃんと温まってから寝室へと向かえば、布団に包まったあなたがとろんとした瞳で待っていてくれた。

「あなたもう瞼落ちちゃいそう」

「うん、でも起きてたよ」

「ありがとお。ほんとにごめんね、朝も早くに起こしちゃったのに」

「私がそうお願いしたもん。
早く起きるのも遅くまで起きてるのも全然いーの。
起きた時に颯斗がもう行っちゃった後で隣に居ない方が、
帰ってきた颯斗を出迎えてあげられない方が全然寂しくてイヤなの」

あなたのやさしさを嬉しく思う気持ちと背中合わせの小さくチクリと胸を刺す罪悪感を読み取ってそれさえもやさしく宥めてくれるあなたの笑顔に胸の奥がじーんと温かくなっていく。

「ほら、おいで?」

あなたが腕を広げながら俺を呼ぶから、
今朝後ろ髪を引かれながらバイバイした恋しくて堪らなかったあなたの温もりを、何十時間ぶりにぎゅうっと強くつよく抱きしめて、今夜もいつものようにふたり抱き合ってベッドの中へと収まった。

「颯斗あったかい…ぽかぽか…」

「でしょ?あなたの言う通りちゃんと温まったし」

「うん、えらいえらい」

風呂上がりホヤホヤの俺のぽかぽかの体温が相当気持ちいいのかあなたはもう既に落ちちゃいそうだった瞼を完全に閉じて俺の胸に頬擦りをする。

「あなた、」

「んー?」

──。

そんな猫のように甘えつく仕草が可愛くって、今にも寝落ちそうな目を閉じたままのあなたにふいにキスをした。
反射でパチッと半分だけ開いたあなたのふたつのまあるい瞳が俺をぼんやりと映す。

「もういっかい、ただいまのちゅー」

今のが"もういっかい"だと言いながら、とろんと眠たげな表情で俺を見上げるあなたがまた可愛くって、更に"もういっかい"と3度目のただいまのキスを落とす。

「おかえり、颯斗。」

おかえり──その言葉をあなたの声でもらうと、今日も一日がんばったなぁって、今日もちゃんとあなたが待つ家に帰って来れられたなぁって、心の底から安心するの。

「今日もいっぱい、おつかれさまでした。」

「うん、ありがと。あなたもいっぱいいっぱい、今日もおつかれさまでしたっ」

今日もおつかれさま。いっぱいがんばったね。──お互いに褒め合って、労って、抱きしめ合う。
背負った荷物を降ろして、胸に抱え込んだ複雑に絡まり合った色んな気持ちが解けて、抱きしめ合った体温に溶けていく。

「今日はどんな一日だったの?」

心地良く鼓膜に響くあなたの声が待ち望んだ問いをうたう。

「今日はねぇ、朝ラジオ出て、それから撮影して、あとは次のライブの話し合いしたり色々会議したりして…あ、休憩中にね、あなたいま何してるかなぁって考えてたら永玖ちゃんにバレた」

「颯斗分かりやすいもんね」

「え、やっぱそうなの?」

「うん、顔に書いてある」

「"あなたがだいすき"って?」

「ん~」

「アレ、あなたちゃん照れてる」

「照レテナイ」

「じゃあなんて書いてある?」

「……ヘンタイ」

「え~永玖にも言われたんですけどぉ!」

「えっ、さすが永玖ちゃん当たってる」

「褒めないで?!当たってないからね?!」

まさかのところで思わぬシンクロをするあなたと永玖。
なんだ、なんなんだ、まさかほんとうに書いてあるのか、俺の顔だいじょうぶか…。

「あなたも永玖ちゃんもひどぉい…」

「ごめんごめん、じょーだんだよ」

「じゃあちゅーして」

「…やっぱヘンタイかも」

天丼(=同じボケを繰り返すこと)をかましてきたイジワルなあなたちゃんにお仕置として苦しいくらいにぎゅうぎゅうと抱きしめる刑に処す。

「わぁごめんなさぁーいっ」

「はんせーしましたかっ」

「だって颯斗くん、寝込み襲ってくるし食べたいとか言うし」

「あなたが可愛すぎるのがわるい」

「でた、いつもの」

「そう、あなたちゃんは常習犯だからね」

全く、そんな常習犯にいっつもガマンさせられてる(ガマンできてないとか言わないで)俺の身にもなってほしい。

「じゃあもう甘えない。足洗います。」

「ダメです。あなたちゃんは可愛すぎる罪で既にしゅーしんけいです。」

「えーきびしい」

やっぱり、いっつも俺があなたの一挙手一投足、一言一言にキューアグを起こして男心をやられていることをあなたは分かってないゼッタイに。
分かってないので余計に罪は重いです。

「あなたちゃんはまだまだがんばりすぎるクセが治らないのでもっと甘えてくださぁい」

「んー結構甘えてるつもり…なんだけどなぁ」

「うん、前よりはね。でもまだまだ、もっともっと甘えてください大歓迎です」

小さなあなたを胸の中に抱え込んでもっともっと素直に甘えられるようにとおまじないをかける。

「…ありがと。じゃあ、もっと甘えられるようにがんばります」

甘えることをがんばるなんて言うあなたがあなたらしくて、少し照れたように俺の胸に顔を埋めるあなたの仕草に、あぁほらまたひだりむねは苦しいくらいきゅうっと締め付けられる。

「じゃあちゅーして」

「やっぱ颯斗が甘えたいんじゃん」

「んーんあなたを甘やかしたいの」

もっと素直に照れずにあなたからもキスしてくれるようになったら、あなたが甘えられるようになったってことですよね?

「顔に甘えたいって書いてある」

「んふっ笑」

「当たりじゃん」

まぁあなたに甘えたいって欲は年中無休なので。

「でもあなたに甘えてほしいのもほんとぉー」

同じくあなたにもっと甘えてほしい欲も年中無休なので。

「永玖ちゃんのリアクションどんな感じだったの?
今日私のこと考えてる颯斗の顔見た時」

「んーなんか冷たくツッコまれた。あと呆れてた。だからむちゃくちゃしつこく絡んでやった」

「仲良しだねぇ」

想像してた通りのあなたのリアクションを見られてニヤニヤと頬が緩む。

「うん、そういう顔してる。」

「えーじゃああなたにもしつこく絡んでやるもん」

永玖と同じく冷たくツッこむあなたに永玖にお返ししたしつこく絡むの刑をやってやる。
あなたに甘えたいのもあなたに甘えられたいのも年中無休なんだからそりゃあいつも顔に書いてあるでしょうよ。

「分かった分かったっ」

リアクションがとことん永玖とシンクロするあなたにちょっぴり膨らむヤキモチ。

「あ、ねぇあなた、筋肉好き?」

「え、なんで急に」

「なんかやたらと哲汰が俺と筋肉で張り合ってくるから。哲汰の中のあなた、筋肉好きキャラっぽい」

「哲汰くんの私のイメージそんな感じなの?」

「うん、謎にね。」

「んー…確かに細過ぎるよりは筋肉はあった方がカッコイイとは思うし、哲汰くんもあと永玖くんも男らしくてカッコイイけど…」

「あなたは細マッチョの方が好きだよねぇ」

「まぁねぇ…今の颯斗くらいがちょうどいいかも」

「でしょお!」

「だからってその筋肉で絞めないでくださいくるしいです…」

哲汰さん、永玖さん。
ご覧の通り、あなたちゃんは俺のこと大好きなのでご心配なく。

「ほんとに仲良しだよね、うらやましいなぁ」

「まーね。でもあなたとも負けないくらい仲良しだよ」

「そうだね。でもやっぱり、永玖くんたちとの仲の良さとはちょっと違う感じ」

「アレ、もしかしてあなたちゃんヤキモチ?」

「…ちょっと、だけ?」

「~っ、あなたちゃんかわいいっ」

この一生で俺は一体何度あなたにキューアグを起こして心臓を鷲掴まれるんだろうか。俺の心臓はいつまで保つのだろうか。幾つあっても足りない気がする。
そんな事を危惧しながらどんなに筋肉を育てても物足りない程にまた堪らずにあなたをぎゅうっと抱きしめる。

「あ、イヤなヤキモチじゃないよ?」

「もちろん、分かってるよ。あなたがむちゃくちゃ俺のことも、俺らのことも好きでいてくれて応援してくれるの、ほんっとに嬉しいの。」

ステージに立つ俺のことも、
ステージに立つ為に日々がんばってる俺のことも、
ただのひとりの人間である俺のことも、
俺が大事にしてる物、大切にしている人たちも、
あなたはその全てをまるっと包み込んで、一緒に大切にして心の底から愛してくれる。
そんなあなただからこんなにも大好きで堪らなくて、
そんなあなたにいつもいつも心の底から感謝している。

「ほんといつもありがとう、あなた。」

「いえいえ。こちらこそいつもステキな景色を見せてくれてありがとう。その為に颯斗や皆がたくさんたくさんがんばってること、私だけじゃなくて皆知ってるからね」

あなたを抱きしめても抱きしめても全然物足りないのは、日々大好きも大切も愛してるも膨らんで積もって募っていくからだ。
あなたのひとつひとつの小さな仕草にも、あなたがくれる一言一言の言葉にも。

「うん…、ありがと。今日もあなたのお陰でがんばれたから、あしたもがんばる。がんばれる。
あなたもあしたもがんばってね。程々にね?」

「ありがとう。がんばるね、程々に」

毎日全力じゃなくたっていい。
人間なんだから永遠に走り続けられる訳じゃないし、息切れもするし、ちゃんと休まなきゃがんばれない。
ここぞって時が来たらその時自分が持てる全力を出してがんばればいい。
そうじゃない日は程々に、気楽に、日常を熟せるだけのちょっとのがんばりがあればいい。
そんなちょっとのがんばりも、ここぞって時の全力のがんばりも、大好きな人がいてくれるから、応援してくれる人たちがいるから身体の底から湧いてくる。
だから冗談でも大袈裟でもなく、大好きな人が、応援してくれる大切な人たちがいなくなってしまったら、人間はしんでしまうの。
だから冗談でも大袈裟でもなく、大切なアイツらが、応援してくれる皆が、大好きなあなたがいなくなってしまったら、俺はしんでしまうの。

だから、今日も俺はあなたを抱きしめる。
あなたに苦しいって怒られたって、どんなに強く抱きしめたって物足りないから、ただ抱きしめる。
大好きと大切とありがとうを伝える為に。
どんなに言葉で言ったってやっぱり物足りないから。

「颯斗くん、そろそろ寝ましょうね。あしたも早いんでしょ?」

「んー」

今にも寝落ちそうだったのはあなたの方だったのに、気付けば大好きなあなたの体温を抱きしめてあなたの匂いに包まれている内に俺の方が寝落ちそうになっている。

「じゃあ、おやすみのちゅーして…」

「はいはい」

再三のキスのおねだりに、あなたは今度こそ笑って頷いてくれた。
甘えたい欲と甘えられたい欲と、いつも鬩ぎ合って勝ち残るのはどうしても甘えたい方なのは、やっぱりあなたが可愛くってズルいからって今夜も言い訳させてね。

「あ、もうすぐクリスマスだね」

「ほんと忙しいね、颯斗くんのあたまん中は」

「プレゼント何が欲しいか考えといてね」

「何でもいいよ?」

「ほらまたそーいうこと言う~」

「だってほんとだもん。颯斗からもらえるなら何でも嬉しいよ」

「そう言ってくれるのは嬉しいけどさぁ」

「じゃあ颯斗は何が欲しいの?」

「あなた」

「…やっぱりヘンタイ」

あなたちゃんを抱き潰すの刑に以下略。

「あなたと一緒にいられたらそれだけでいい」

「じゃあごちそう作って待ってるね」

「俺がケーキ買って帰る!」

「うん、じゃあおねがいね」

ふたり抱き合って布団に包まって楽しいクリスマスの計画を子どものようにウキウキと話し合って、そうして今夜もあなたと過ごす当たり前の幸せな日常が暮れていく。

「はい、颯斗くん、目つぶってください」

「もうちょっとあなたの顔みてたい…」

「じゃあちゅーしないよ?」

「ぅー…」

あなたと一緒に眠れる幸せと、もう少しあなたの顔を見てたいワガママと、あなたにキスしてもらいたい望みとがまたケンカしそうになるけれど、

「あしたも、あさっても、その先も、ずーっと私と一緒に寝るんでしょ?」

あしたも、あさっても、その先も、ずーっと──そうだ、この幸せはあしたからも変わらずに当たり前に一生続いていくんだ。
あなたの薬指と俺の薬指に、同じ煌めきを放つ指輪が嵌められた、あの日から。

「…うん、そうだね」

「そうでしょ?じゃあおやすみしようね」

あなたの言葉に素直に頷いて眠りに就こうとした俺に、けれどあなたはもう少しだけ続きの歌を歌い出す。

「あ、ねぇ、颯斗」

「んー?」

「あのね、クリスマスプレゼント、ね、もしかしたらだけど…、颯斗が一番喜ぶもの…」

そこまで紡いであなたのくちびるは静かに閉じる。

「俺が、一番喜ぶもの?」

俺を見つめるあなたの瞳が、揺れる。
それはなんだか不思議な色で、形で。

「うん、あげられたらいいなって…。でもそれはね、絶対あげられるものじゃないから、他にもいっぱい考えとくね」

あたたかなあなたの手のひらが俺の頬を撫でておやすみへと誘う。
俺が一番喜ぶもの──他でもない俺自身が考えてみても思い付くものは、

「俺はあなたと一緒にいられたらほんとにそれが一番幸せだから、あんまりムリにプレゼント考えなくてもいーからね?」

やっぱりあなたしかないんだけどな。
あなたの手のひらに自分の手を重ねて繋ぎ合う。

「うん、分かった。」

その不思議な色と形をしたあなたの瞳を、どうしてだか忘れないでおこうと思ったから、憶えておく為に自分の瞳に焼きつける。

「じゃあ、おやすみ、あなた。」

「うん。おやすみ、颯斗。」

またあしたね──あしたも変わらずに、ううん、今日よりももっと幸せな日を一緒に過ごそうね。
そんな約束を結び合うように、そっと、あなたのくちびるが俺のくちびるに触れた。

この先、何度あなたとキスを交わし合うんだろう。
何度あなたと抱きしめ合って眠りに就くんだろう。
やっぱりきっと、何度あなたとキスを交わし合ったって、
何度あなたと抱きしめ合って眠りに就いたって、
あなたと一緒に過ごすこの当たり前の日常がどれだけ愛おしくて幸せかなんて、一生をかけたって伝え切れそうにないから。


「あなた──。」


だから、俺は今日も、今夜も、あなたにキスをする。


「愛してる。」


もう一度、何度だって、キスをする。
おはよう、おやすみ、行ってきます、行ってらっしゃい、
ただいま、おかえり、大好き、愛してる──伝えたい言葉の数だけ、ひだりむねに芽吹く想いの分だけ。

だからあしたもその先もずっと俺のがんばる理由でいてね。


「私も…、愛してるよ、颯斗。」


そうして今夜も、ふたり一緒に眠りに就いた。

だけどそのあと、やっぱりあともう少しだけあなたの顔を見ていたくって、しばらく眠るあなたの顔を見つめていたのはナイショの話──。

凛と澄んだ冬の空気が星空を煌めかせるそのずっと遠い向こうから、聖なる夜の訪れを告げるベルの音が微かに響いていた。






fin...

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