2×××年、6月9日 某所。
銀髪の少女が街をゆったりと歩く。
周囲は昨日よりも心なしか浮かれ、街はいつもの倍くらいの喧騒で満たされていた。
それもそのはず、昨日は“お告げ”があったのだ。それも世界中へ。
ニュースでも新聞でも雑誌でも、全ての報道に取り上げられた。
皆の表情が明るいというのに、この少女の眉間には深い皺が刻まれていた。
絹糸のように艶やかな真っ白の髪を持つ少女が話しかけてきた。
躱すのも面倒そうな顔で、銀髪の少女が吐き捨てるように言った。
対する真っ白な髪の少女はきょとんとしている。
一瞬嘘だろ、という顔をした後、スンと真顔に戻って彼女は踵を返す。
肩をガッチリホールドされ、大量の間を開けて銀髪の少女が了承した。
真っ白な髪の少女に問われ、銀髪の少女は少し考える。
そして、意志の籠った眼差しで真っ白な髪の少女を見据え、言った。
真っ白な髪の少女の声が弾む。
え、そこ?と笑いながら零が答える。普通着いてくんなとかじゃないの?と。
けらけらと楽しそうに笑いながら零が言う。
キラリ。
詩乃のピアスが光った。零の翡翠の瞳が発光した。
詩乃の戸惑った声が聞こえ、零の愉しそうな声が聞こえる。
二人を柔い光が包み込む。
やがて、光が消えた。
適当に、本当にその場のノリだった。
翳した手の先に宝石の柱が降ったのだ。
なんとか消したようだ。幸い、誰かに気が付かれることは無かった。全員浮かれていて、頭がぱっぱらぱーになっていたのだ。
ふぅ。と息をついた詩乃が、零を見やる。
なんとなーく気合いを入れてみた零。すると、僅かに左眼が発光した。
零がその辺の缶を蹴飛ばす。ものすごいスピードで。
缶が爆発した。内容物が飛び散る。
ふと、詩乃が零を見た。
そして、二人は行動を開始。…が。
もぐもぐ。二人はドーナツを頬張りながら絶望していた。
人間、思い込むと止まらないらしい。死んでも天国だろー?よくね?とか言うやつもいた。
天国無かったらどうすんだよ。地獄だけかもでしょ。地獄すらも無いかもじゃん。そう思っても通じる筈もなく。
無理だわー。と二人が虚無っていたその時。
ナイフを持った男が突進してくる。
嬉々として出迎える零。側から見たら自分から通り魔の前に出て行くただのイカれポンチである。先ほどの通行人Aは意外と間違っていなかった。
紅い眼の少女が飛んでくる。手際良くナイフを叩き落とし、馬乗りになって拘束した。
警察が駆けて来て、軽い事情聴取をして犯人を連行していく。
ブツブツとなにやら呟く零をズルズルと引きずっていく詩乃。
零が恨めしそうに紅い目の少女を見る。
戸惑いがちに紅い眼の少女が問う。
けろりと答える詩乃に驚きながらも、紅い眼の少女——血潮は自己紹介をしてくれた。
零の言葉が途切れた。
詩乃に植木鉢が飛んで来たのだ。まさかの真横から。
バリン!と鈍い音を立てて植木鉢が後頭部に直撃し、割れた。
二人ともとても軽ーいノリで話しているが、詩乃の頭からはダラーっと血が流れている。
様子がおかしくなったのは、血潮だった。
どこから取り出したのか、ナイフで自分の手を切ろうとする血潮。
詩乃のヘルプに応じた零が血潮を羽交い締めにし、動きを封じる。
なんとか抑え込んだ。
血潮も、「救急車」という単語になんとか落ち着いた。
3人で救急車に乗り込み、無事に病院へ到着。
お医者様の前で詩乃が震えている。
スマホのバイブレーション機能が搭載されているのか疑うくらいに震える詩乃を尻目に二人は会話を続ける。
医者の間延びした声が会話を遮った。
有無を言わせない声色に詩乃は屈服した。また会うために連絡先の交換も忘れない。
何故か憮然とした表情を浮かべる血潮。何か言いたげに唇を震わせているが、病院ということもあって抑えているのだろう。
血潮は少し心配したように、零は来れたらくるという何とも言えない雰囲気の言葉を残して去っていった。
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9月10日。
医者が引くくらいには圧をかけてかけてかけまくった結果、なんとか退院した詩乃。
迎えに来た血潮と零と共に自宅へと向かっていたときのことだった。
血潮の目線を辿ると、路地裏で蹲っている男性が見えた。
零の問いかけにそっけなく答えた彼は、翡翠の瞳を鋭くして3人を見やる。
苦しそうに眉根を寄せる男性。辛そうなその表情は、今にも消えてしまいそうな人のそれだった。
なんとも言えない気まずそうな血潮につっけんどんに答える男性。
ふと、零が男性の肩を指差した。
絶叫が路地裏に轟いた。どうやら虫が嫌いらしい。
一体何処から取り出したのか、殺虫剤を肩にぶっかけている。
零は数秒男性の顔を眺めた後、にっこり笑って言った。
あっけらかんと言い放った零を思い切り睨みつける男性。
吊り目ガチの瞳が零を捉えた。
零の質問に更に視線を尖らせる男性。
それに対し、零は何でもないことのように言い放つ。
食い下がる男性に急に興醒めしたように顔を背けた零。
詩乃が不思議そうに言った。
あっけらかんとしている詩乃に動揺しつつも、返事をした血潮。
ふと、詩乃が血潮へ耳打ちした。
嬉しそうに血潮の表情が明るくなる。
一方男性は絡んで来たくせして一方的に帰って行くとかほんと勝手な奴らだな、と不快感を覚えていた。
3人の姿が遠ざかっていく。
ポツン、と呟きが漏れる。愛猫は去ってしまった。正真正銘の一人ぼっちだ。
ふわり。目の前で美しい白の髪が舞った。
美しい人が微笑んで連絡先を書いた紙切れを押し付けてくる。
そしてまた去っていった。
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男性と別れた3人。
引き続き詩乃の家へと向かう途中のことだった。
ぽつん。
ポツ、ポツポツ…ザァァァァァ…
突然雨が降り出したのだ。
血潮が指差す先には、少し大きめの滑り台が鎮座している。
詩乃と零の二人も頷き、いそいそと滑り台の下へと向かった。
そこで会話は途切れ、沈黙が腰を下ろす。
耐えきれないとでも言うように、零が音を上げる。
その時。柔らかい声が雨の合間を縫って聞こえた。
そこには、艶やかな黒髪の、優しそうな女性が立っていた。
何処からか取り出した傘には、美しいステンドグラスの様な模様が施されていた。
それを3人が受け取ろうとした時。
にゃーん。
女性の足元を見れば、一体いつからいたのか金の眼をした黒猫が足に纏わりついている。
女性はどこからともなく猫用のおもちゃを取り出して遊びだす。
夢中になって猫と戯れる女性を茫然と眺める3人。
ふと、詩乃が女性に話しかけた。
突然話し始めた詩乃の言葉に、存外簡単に頷いてくれた女性。3人はそれはそれは驚いた。この言い方じゃ絶対無理だろうな…と思っていたので。
ふわりと微笑んだ女性——紬。
空を見上げれば、雨はとうに上がっており、周囲はだんだんと明るくなっていく。
いい天気だ。運命に抗う気力がどんどん湧いてくる。
誰かが深呼吸のように大きく息を吸った、その時。
ヒュン!と石が飛んできた。
ピュンピュンと次々に石が飛んでくる。
なんとか全員避けているが、いつ当たるかわかったものではない。
血潮が前に出た。刀を前に構える。
美しく反りの入ったそれが石を叩き切る——と思ったが。
石は全て氷結し、地へ堕ちた。
声のした方を振り返る。そこには、傘を構えた紬がいた。
いくつか質問して気が済んだのか、紬は納得したように一度頷いてやっと黙る。
花のように美しく、紬は微笑んだ。
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あれから数日後。
詩乃、零、血潮、紬の4人は仲間を見つけるべく街を徘徊していた。
少なくとも6人は仲間が欲しいので。
トン、と紬がこちらへと走ってくる人にぶつかってしまった。
相手は萌葱色の髪を靡かせて何処かに走り去ってしまう。
紬が走って追いかけるも、人混みに紛れてしまった。
しまったな、と思いつつも見失ってしまったものは仕方ない。この人混みでもう一度遭遇するのは中々に困難だろう。
仕方なくカバンにしまう。
ふと、聞こえてきた会話。
なかなかホラーな内容だが、先ほどぶつかってしまった人も緑髪だ。
まぁ…もしかしたら…ね?いっとこ。というようなノリで、4人は公園へと歩き出す。
♦︎
到着すると、そこはなかなかの修羅場だった。恋愛的な意味のそれでは無い。
禍々しいオーラを放つ異質な存在。ところどころが破れたツギハギだらけの布を被った、人型なのに人ならざる者。いや、物。顔は布切れで隠されているが、人間でないことだけは確かだ。
それに怯まず、次々と手頃な石を怪物に投げる先程の少女。
いや、怯んでこそいないが、顔面は蒼白。石を投げるその白い手は小刻みに震えている。
嘘だろ。マイペースすぎる。メンタル鋼か。
誰もがそう思ったことであろう。だが違う。明るく話しかける彼女とて、顔色は真っ青で足は震えている。いつも持っている傘を握る手は、力を入れすぎて真っ白だ。
詩乃と零と血潮が顔を見合わせる。
やがて、3人でこそこそと話し出した。
顔を上げたとき、彼女達は中々渋い顔をしていた。が、決意を決めたらしい。
悪魔の囁きの如く、彼女達は提案した。
願いなんて一つしかない。仲間になって欲しい、それだけ。
あとは相手が頷くのを待つだけだ。おねがい、どうか。
願いは叶った。
寛大な少女に感謝を。これ幸いと零が片目に光を宿らせる。
狩りの時間だ。
言い終わる前に、彼女は地面を蹴る。怪物へ直進し、思いっきり蹴りを入れる、が。
相手が華麗に躱し、反撃の動作へ。
反撃が来る前に、零は相手の鳩尾へと蹴りを入れる。が、掴まれる。
掴んだ手を引っ叩き、なんとか外す。距離を取るべく後ろへ後退。
4人は緊迫する戦線を観ていたが、この間に逃げられてしまってはひとたまりもない。交渉開始。
紬が説明し、血潮が頼み込む。ダメ押しで詩乃も言い加える。
恩に熱い人物だったらしい。助かった、ということで戦線へ加わる3人。
紬が『氷塊』で幾つもの氷のナイフを精製。敵へと降りかかった。
その内の一つを零が掴み、慣れた手捌きで敵を攻撃する。…が。敵も中々折れてはくれず、氷のナイフを叩き落とし、零の攻撃を躱していく。
2人の攻撃をモロに受けている為に動きは鈍くなってきてはいるものの、まだまだ動けるらしい。
詩乃が手を翳し、『強欲の渇望』を発動。アメジストが、ローズクォーツが柱となって敵を貫通する。
苦しそうに呻き声をあげる怪物。動きがまた一段遅くなる。
血潮が『屍山血河』を発動。敵の飛び散った血を固めてドリルにし、敵の身体へと突き刺す。
血が苦手な血潮には弱点とも言える魔法。しかし顔を土気色にしながらも血を自在に操るその姿は、まさにヒーローだ。
でも、ヒーロー達だって負ける。最終的に勝てたって、途中では負けるのだ。
奮闘虚しく、敵は一段階上へと進化してしまった。
その時だった。
公園に生えていた木が怪物へ襲いかかった。立派な桜の樹はその逞しい枝で敵を拘束し、血のように赤い彼岸花は怪物の足へと絡みつく。
彼岸花とは不思議なものだ。なにか縁があるのだろうか、途端に足の動きを封じられる。
そう、これを起こしたのは他でもないあの萌葱の少女だ。
彼女は『植物魔法』を初めてとは思えないほどの精度で使いこなした。
しかし、動けないとは言えこのまま放置というわけにもいかない。はてさてどうしたものか。
うーんうーんと一同が思い悩んでいると、禍々しい雰囲気を纏ったクナイが飛んできた。
即座に零がはたき落とす。
ヒュン。
ヒュンヒュンヒュンヒュン…ヒュヒュヒュヒュ!!!
えげつない速度と質量のクナイが飛んでくる。もはや悩んでいる暇はない。全員が必死に当たらないように避け、落とす。
掠めるだけでも身体へ異常をきたしそうなそれを当てるわけにはいかない。
カンカンとクナイと武器、魔法が当たる音だけが辺りに響く。
やがて、防ぎきれなかったクナイが萌葱の少女の胸元へ飛び込んだ。まずい、刺さる——。
そうおもった、時だった。
そこには、一週間ほど前に出会ったあの男がいた。片手にクナイを持ち、もう片手は敵の頭に触れている。
マ、どっちにしろお前は死ぬだろうけどな、と言い放つ男。
敵が、喋った。女とも男とも取れない声だった。
煩わしそうに呟き、スッと姿を消す。
後には、もう誰も残っていない。
戦闘は、終了した。
仲間は6人集まった。
大切なもの、大切な想い出。
それらを守るためにも。
あるいは、自分を守るためにも。
人生を、楽しむためにも。
旅が、始まる。
長い長い、幸せで脆い旅が。
なっがい…。あと、投稿が遅くてごめんなさい。
なんとですね、執筆開始は6月9日なんですよ…。
遅筆ですみません。次は頑張る。



















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。