第5話

1. “Hi, My Dear Friends ”
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2025/06/16 21:19 更新

2×××年、6月9日 某所。


銀髪の少女が街をゆったりと歩く。

周囲は昨日よりも心なしか浮かれ、街はいつもの倍くらいの喧騒で満たされていた。
それもそのはず、昨日は“お告げ”があったのだ。それも世界中へ。
ニュースでも新聞でも雑誌でも、全ての報道に取り上げられた。


皆の表情が明るいというのに、この少女の眉間には深い皺が刻まれていた。
宵月 零
宵月 零
ねー、何こわい顔してんの?
絹糸のように艶やかな真っ白の髪を持つ少女が話しかけてきた。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
…もうすぐ世界が新しくなるってやつ。なんでみんな喜んでるの?死ぬってことでしょ
躱すのも面倒そうな顔で、銀髪の少女が吐き捨てるように言った。
対する真っ白な髪の少女はきょとんとしている。
宵月 零
宵月 零
え、世界新しくなんの?どーゆーこと?
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
いや、知らないなら大丈夫
一瞬嘘だろ、という顔をした後、スンと真顔に戻って彼女は踵を返す。
宵月 零
宵月 零
ちょっと待ってよー、教えてくれたっていーじゃん
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
………。わかった、いいよ。
肩をガッチリホールドされ、大量の間を開けて銀髪の少女が了承した。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
ほら、昨日頭がキーンてなったやつ。あれ
宵月 零
宵月 零
あー!あれそんな事言ってたんだー。で、死ぬってのは?
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
……世界を再構築っていうのはもう一回作り直さなきゃいけない理由があるってことでしょ。もう私達の地球は崩壊寸前なんだよ。こないだ南極の氷が全部溶け切って、何個かの国は海の底。ここ数10年で地球は荒廃した。そこまでした私達をもう一度新しい世界に置く必要はない。たしかに送り込めば早く都市は発達するけど、勝手に進化するなら必要ない。時間は多分あいつらには関係ないし、あいつは再構築って言った。それは私達も再構築されるってことで——
宵月 零
宵月 零
まって、むずい。頭使うの無理〜…
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
はぁ…地球を壊した私たちは新世界に行けないかもってこと
宵月 零
宵月 零
あーね、それでどうしたいの?
真っ白な髪の少女に問われ、銀髪の少女は少し考える。
そして、意志の籠った眼差しで真っ白な髪の少女を見据え、言った。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
…“お告げ”をしてきたやつに負けたくない。抗いたい、な。
私は、闘いたい。私だけでも生き残ってやりたい。たとえ近い将来、地球が終わるとしても
宵月 零
宵月 零
へー、楽しそう!私も一緒に行っていい?!
真っ白な髪の少女の声が弾む。
宵月 零
宵月 零
毎日つまんなかったし。零ですよろしくね〜
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
苗字は?
え、そこ?と笑いながら零が答える。普通着いてくんなとかじゃないの?と。
宵月 零
宵月 零
宵月。宵月零
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
そう、私は甘梅雨詩乃。よろしく
宵月 零
宵月 零
へー、詩乃。そんな簡単に信用して大丈夫?
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
うん。多分
宵月 零
宵月 零
多分かぁ
けらけらと楽しそうに笑いながら零が言う。
宵月 零
宵月 零
退屈しなさそう、そうだ。もう一回どうしたいか言っとこうよ
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
…うん。私達は、





二人
終焉に、抗う。





キラリ。
詩乃のピアスが光った。零の翡翠の瞳が発光した。






甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
え、なに…?
宵月 零
宵月 零
やっぱ退屈しないわ〜
詩乃の戸惑った声が聞こえ、零の愉しそうな声が聞こえる。
二人を柔い光が包み込む。


やがて、光が消えた。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
こわ…
宵月 零
宵月 零
んー…なんか出来そう
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
確かに。えい
適当に、本当にその場のノリだった。
翳した手の先に宝石の柱が降ったのだ。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
えっ、うそ。消えて
なんとか消したようだ。幸い、誰かに気が付かれることは無かった。全員浮かれていて、頭がぱっぱらぱーになっていたのだ。
ふぅ。と息をついた詩乃が、零を見やる。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
零もなんかやってよ、私だけじゃいや
宵月 零
宵月 零
いいよー、はい
なんとなーく気合いを入れてみた零。すると、僅かに左眼が発光した。
宵月 零
宵月 零
え、身体軽〜い!えいっ
零がその辺の缶を蹴飛ばす。ものすごいスピードで。
缶が爆発した。内容物が飛び散る。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
弾丸じゃん、こわ
宵月 零
宵月 零
おー、すごいすごい
ふと、詩乃が零を見た。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
周りを見るにさ、これ使えるのって——
宵月 零
宵月 零
私達だけ、だね
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
気が付いたから、かな。正解ってこと?
宵月 零
宵月 零
うーん、難しいことはわかんない
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
…何人かに言ってみようか
宵月 零
宵月 零
そーしよー
そして、二人は行動を開始。…が。
通行人
はー?お前ら頭イカれたんじゃね?いくら浮かれてるっつってもよー。
イカれポンチじゃん。ヤバすぎな
通行人
あら、お嬢さんたち。大丈夫よ〜、心配いらないわ〜
通行人
え、何。信じたらなんかいいことあんの?なら別によくね?
そうでも幸せのまま死ねたほうがいいじゃん。なんでわざわざ苦しむん?
宵月 零
宵月 零
あー、だめだこいつら。飽きた。別のことしよ
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
そうだね…まさかこんなになんて…
もぐもぐ。二人はドーナツを頬張りながら絶望していた。
人間、思い込むと止まらないらしい。死んでも天国だろー?よくね?とか言うやつもいた。
天国無かったらどうすんだよ。地獄だけかもでしょ。地獄すらも無いかもじゃん。そう思っても通じる筈もなく。
無理だわー。と二人が虚無っていたその時。
通行人
死ねぇぇぇぇ!
ナイフを持った男が突進してくる。
宵月 零
宵月 零
え、出た実験体。やったろ
嬉々として出迎える零。側から見たら自分から通り魔の前に出て行くただのイカれポンチである。先ほどの通行人Aは意外と間違っていなかった。
水精血潮
水精血潮
危ないですよ!下がって下さい!
紅い眼の少女が飛んでくる。手際良くナイフを叩き落とし、馬乗りになって拘束した。
警察が駆けて来て、軽い事情聴取をして犯人を連行していく。
宵月 零
宵月 零
私の獲物…
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
スカウトしにいこ?
宵月 零
宵月 零
私の獲物だったのに…戦えると思ったのに…
ブツブツとなにやら呟く零をズルズルと引きずっていく詩乃。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
ね、助けてくれてありがとう。私は甘梅雨詩乃。
宵月 零
宵月 零
零が恨めしそうに紅い目の少女を見る。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
…こっちが宵月…零…?だよね?
宵月 零
宵月 零
なんで覚えてないのー、2時間も一緒じゃん
水精血潮
水精血潮
えっと…二人は前からの友人では、ないんですか…?
戸惑いがちに紅い眼の少女が問う。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
え?2時間前に会ったばっか
水精血潮
水精血潮
えぇ……そうだったんですか。仲がいいのでてっきり……。
あ、初めまして……僕は水精血潮と言います。……以後お見知り置きを
けろりと答える詩乃に驚きながらも、紅い眼の少女——血潮は自己紹介をしてくれた。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
あのね、私達は地球が一新されるときに死ぬんじゃないか、って思ってる
宵月 零
宵月 零
だから抗ってやろう、ってね
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
うん。だから、私たちと一緒に来て欲しい。きっとあなたは貴重な戦力になると思う
水精血潮
水精血潮
……わかりました。僕は、あいつに、運命に抗ってやりたかったんです
宵月 零
宵月 零
よーし、一人確保した——
零の言葉が途切れた。

詩乃に植木鉢が飛んで来たのだ。まさかの真横から。
バリン!と鈍い音を立てて植木鉢が後頭部に直撃し、割れた。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
え、痛い。しかも真横とかホラーすぎる
宵月 零
宵月 零
いや軽〜
二人ともとても軽ーいノリで話しているが、詩乃の頭からはダラーっと血が流れている。
様子がおかしくなったのは、血潮だった。
水精血潮
水精血潮
えっ、血……あぁぁアアア!?はや、早く止血しないと……いや、まずは輸血を……
どこから取り出したのか、ナイフで自分の手を切ろうとする血潮。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
え、いや。大丈夫。別に歩けるし…。
ちょ、え?切らないで?零、助けて
宵月 零
宵月 零
はいはーい
詩乃のヘルプに応じた零が血潮を羽交い締めにし、動きを封じる。
なんとか抑え込んだ。
水精血潮
水精血潮
だって…!!血が…!!!
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
うん。誰かが救急車呼んだ。平気だよ、歩けるし
宵月 零
宵月 零
詩乃もこう言ってる。あ、救急車来た。はや
血潮も、「救急車」という単語になんとか落ち着いた。
水精血潮
水精血潮
……すみません、取り乱して……
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
大丈夫。あ、一緒に乗ってって
3人で救急車に乗り込み、無事に病院へ到着。
お医者様の前で詩乃が震えている。
医者
おかしいですね…。血が全く減ってません…。
まぁ、傷口が大きいので縫いますね〜
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
え、頭に針…?今まで大丈夫だったから別に…
宵月 零
宵月 零
血が減ってないってことは…血潮かな?
水精血潮
水精血潮
はい…多分…。何故か能力?に目覚めたみたいな…。
あ、変ですよね、忘れてください……
宵月 零
宵月 零
おー、合ってた!私天才
スマホのバイブレーション機能が搭載されているのか疑うくらいに震える詩乃を尻目に二人は会話を続ける。
宵月 零
宵月 零
あと、変じゃないよー。そこの詩乃は宝石?の柱を街中で落としたし
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
零は缶蹴って大爆発させたくせに……
医者
はーいオッケーです。よくがんばりましたねー
医者の間延びした声が会話を遮った。
医者
まー、傷が傷なので入院してってください
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
え、病院に…?帰ります。帰らせて頂きます
医者
だめです
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
……。二人は帰っていいよ。連絡先交換しよ
有無を言わせない声色に詩乃は屈服した。また会うために連絡先の交換も忘れない。
水精血潮
水精血潮
大丈夫ですか……?心配ならついていましょうか?
宵月 零
宵月 零
お姉ちゃんじゃん
水精血潮
水精血潮
………。
何故か憮然とした表情を浮かべる血潮。何か言いたげに唇を震わせているが、病院ということもあって抑えているのだろう。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
家族が待ってるでしょ。明日来てよ。意地でも退院する
水精血潮
水精血潮
……わかりました。また明日
宵月 零
宵月 零
これたら明日もくるねー
血潮は少し心配したように、零は来れたらくるという何とも言えない雰囲気の言葉を残して去っていった。






♦︎♦︎ ♦︎♦︎ ♦︎♦︎





9月10日。

医者が引くくらいには圧をかけてかけてかけまくった結果、なんとか退院した詩乃。
迎えに来た血潮と零と共に自宅へと向かっていたときのことだった。

水精血潮
水精血潮
あそこで蹲ってるのって…人、でしょうか…?
血潮の目線を辿ると、路地裏で蹲っている男性が見えた。
宵月 零
宵月 零
んー、そうっぽい。
……おーい、大丈夫ー?
雪嶋 颯太
雪嶋 颯太
…なに
零の問いかけにそっけなく答えた彼は、翡翠の瞳を鋭くして3人を見やる。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
こんなとこでなにしてるの
雪嶋 颯太
雪嶋 颯太
…8年一緒にいた猫が、死んだ
苦しそうに眉根を寄せる男性。辛そうなその表情は、今にも消えてしまいそうな人のそれだった。
水精血潮
水精血潮
それは……ご冥福をお祈りします…
雪嶋 颯太
雪嶋 颯太
はあ、もういいだろ。ほっとけ
なんとも言えない気まずそうな血潮につっけんどんに答える男性。
ふと、零が男性の肩を指差した。
宵月 零
宵月 零
あ、虫。おまえの肩
雪嶋 颯太
雪嶋 颯太
は、虫!?死ねよ!こっちくんな!
絶叫が路地裏に轟いた。どうやら虫が嫌いらしい。
一体何処から取り出したのか、殺虫剤を肩にぶっかけている。
宵月 零
宵月 零
あ、飛んだ
雪嶋 颯太
雪嶋 颯太
どこに?!
零は数秒男性の顔を眺めた後、にっこり笑って言った。
宵月 零
宵月 零
嘘だよ
雪嶋 颯太
雪嶋 颯太
ふざけんな
あっけらかんと言い放った零を思い切り睨みつける男性。
吊り目ガチの瞳が零を捉えた。
宵月 零
宵月 零
ねー、おまえそんなんで生きていけんの?
雪嶋 颯太
雪嶋 颯太
は?
零の質問に更に視線を尖らせる男性。
それに対し、零は何でもないことのように言い放つ。
宵月 零
宵月 零
虫如きにビビり散らかしてるし?
あ、そだ。私達と一緒に来る?
雪嶋 颯太
雪嶋 颯太
いや、今まで一人だった
宵月 零
宵月 零
それは愛しの猫ちゃんがいたからっしょ?
でももういないじゃん
雪嶋 颯太
雪嶋 颯太
それでも平気だ。行かない
宵月 零
宵月 零
ふーん、あっそ
食い下がる男性に急に興醒めしたように顔を背けた零。
詩乃が不思議そうに言った。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
もういいの?
宵月 零
宵月 零
うん、飽きた。ほっとこ
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
うん。零がいいなら私もいっかな。行こ、血潮
水精血潮
水精血潮
え、ええ…
あっけらかんとしている詩乃に動揺しつつも、返事をした血潮。
ふと、詩乃が血潮へ耳打ちした。
水精血潮
水精血潮
…!いいですね、そうしましょう
嬉しそうに血潮の表情が明るくなる。


一方男性は絡んで来たくせして一方的に帰って行くとかほんと勝手な奴らだな、と不快感を覚えていた。
3人の姿が遠ざかっていく。
雪嶋 颯太
雪嶋 颯太
はあ、これから一人か…
ポツン、と呟きが漏れる。愛猫は去ってしまった。正真正銘の一人ぼっちだ。


ふわり。目の前で美しい白の髪が舞った。
水精血潮
水精血潮
独りに飽きたら連絡ください。待ってますね
美しい人が微笑んで連絡先を書いた紙切れを押し付けてくる。
そしてまた去っていった。
雪嶋 颯太
雪嶋 颯太
はぁー…なんだったんだ?
……しかし、独りに飽きたら、か…




♦︎♦︎ ♦︎♦︎ ♦︎♦︎




男性と別れた3人。
引き続き詩乃の家へと向かう途中のことだった。

ぽつん。

ポツ、ポツポツ…ザァァァァァ…

突然雨が降り出したのだ。
水精血潮
水精血潮
いけない…!そうだ、あの公園へ入りましょう!滑り台の下なら…!
血潮が指差す先には、少し大きめの滑り台が鎮座している。
詩乃と零の二人も頷き、いそいそと滑り台の下へと向かった。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
あんま濡れないで済んだ。ありがとう、血潮
水精血潮
水精血潮
いえ、お役に立てたなら良かったです
そこで会話は途切れ、沈黙が腰を下ろす。
耐えきれないとでも言うように、零が音を上げる。
宵月 零
宵月 零
飽きたー、もう出たい
その時。柔らかい声が雨の合間を縫って聞こえた。
刹那 紬
刹那 紬
ねぇ、すっごく濡れてるね。
傘、貸そうか?
そこには、艶やかな黒髪の、優しそうな女性が立っていた。
水精血潮
水精血潮
え、いえ…貴女の傘が無くなってしまうので…
刹那 紬
刹那 紬
ん?ああ、だいじょーぶだいじょーぶ。
ほら、もう一本持ってるから。さっき可愛くて買ったの
何処からか取り出した傘には、美しいステンドグラスの様な模様が施されていた。
それを3人が受け取ろうとした時。

にゃーん。

女性の足元を見れば、一体いつからいたのか金の眼をした黒猫が足に纏わりついている。
刹那 紬
刹那 紬
あれ?いつの間にいたんだろ…
女性はどこからともなく猫用のおもちゃを取り出して遊びだす。
刹那 紬
刹那 紬
ほれほれ〜、…おわっ!…えいっ
水精血潮
水精血潮
じ、自由ですね…
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
うん…
夢中になって猫と戯れる女性を茫然と眺める3人。
ふと、詩乃が女性に話しかけた。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
あ、あーお姉さん?えっと、傘ありがとう。
かくかくしかじかこういうことで、仲間を探しているんだけど…
できれば一緒に来て欲しいなって…
刹那 紬
刹那 紬
ふむふむ…うん。いいよ〜
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
やっぱりそうだよね、ごめ…ん?いいの?
突然話し始めた詩乃の言葉に、存外簡単に頷いてくれた女性。3人はそれはそれは驚いた。この言い方じゃ絶対無理だろうな…と思っていたので。
刹那 紬
刹那 紬
ふふ、うん。私は刹那 紬セツナ ツムギ。21歳だよ〜
ふわりと微笑んだ女性——紬。

空を見上げれば、雨はとうに上がっており、周囲はだんだんと明るくなっていく。
いい天気だ。運命に抗う気力がどんどん湧いてくる。

誰かが深呼吸のように大きく息を吸った、その時。

ヒュン!と石が飛んできた。

ピュンピュンと次々に石が飛んでくる。
なんとか全員避けているが、いつ当たるかわかったものではない。
水精血潮
水精血潮
下がって下さい。叩き落とします
血潮が前に出た。刀を前に構える。
美しく反りの入ったそれが石を叩き切る——と思ったが。

石は全て氷結し、地へ堕ちた。

刹那 紬
刹那 紬
あれ?なんかできた
声のした方を振り返る。そこには、傘を構えた紬がいた。
宵月 零
宵月 零
ん、これで私達の仲間入りだね
刹那 紬
刹那 紬
ん?どーゆーこと?
水精血潮
水精血潮
僕たちはみんな、何故か魔法のような物が使えるんです
刹那 紬
刹那 紬
人類みんなってこと?
宵月 零
宵月 零
んーん、とりあえずは私たちだけだよ
いくつか質問して気が済んだのか、紬は納得したように一度頷いてやっと黙る。
刹那 紬
刹那 紬
へー、そっかそっか。何はともあれよろしくね〜

花のように美しく、紬は微笑んだ。




♦︎♦︎ ♦︎♦︎ ♦︎♦︎




あれから数日後。
詩乃、零、血潮、紬の4人は仲間を見つけるべく街を徘徊していた。
少なくとも6人は仲間が欲しいので。

刹那 紬
刹那 紬
あっ、
トン、と紬がこちらへと走ってくる人にぶつかってしまった。
相手は萌葱色の髪を靡かせて何処かに走り去ってしまう。
刹那 紬
刹那 紬
まって〜!マカロン落としたよ〜!
紬が走って追いかけるも、人混みに紛れてしまった。
しまったな、と思いつつも見失ってしまったものは仕方ない。この人混みでもう一度遭遇するのは中々に困難だろう。
仕方なくカバンにしまう。
通行人
なぁ、聞いたか?
通行人
ん〜?なぁに〜?
通行人
なんでも、公園で緑髪の女の子が空中を見つめて手を振り回してるらしいんだよ
通行人
え、やばすぎ。ヤクやってんじゃない?
頭おかしいね〜。遠回りしよ
ふと、聞こえてきた会話。
なかなかホラーな内容だが、先ほどぶつかってしまった人も緑髪だ。
まぁ…もしかしたら…ね?いっとこ。というようなノリで、4人は公園へと歩き出す。

♦︎

到着すると、そこはなかなかの修羅場だった。恋愛的な意味のそれでは無い。


禍々しいオーラを放つ異質な存在。ところどころが破れたツギハギだらけの布を被った、人型なのに人ならざる者。いや、物。顔は布切れで隠されているが、人間でないことだけは確かだ。

それに怯まず、次々と手頃な石を怪物に投げる先程の少女。
いや、怯んでこそいないが、顔面は蒼白。石を投げるその白い手は小刻みに震えている。
刹那 紬
刹那 紬
あ〜、いたいた。マカロン、落としちゃってたよ〜
嘘だろ。マイペースすぎる。メンタル鋼か。

誰もがそう思ったことであろう。だが違う。明るく話しかける彼女とて、顔色は真っ青で足は震えている。いつも持っている傘を握る手は、力を入れすぎて真っ白だ。
空夏 クリナ
空夏 クリナ
え?あっ、さっき買ったやつ!
でもこっちは危ないので近づかないで下さい!
詩乃と零と血潮が顔を見合わせる。

やがて、3人でこそこそと話し出した。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
——、——?
宵月 零
宵月 零
—,—
水精血潮
水精血潮
 ——、—…..
顔を上げたとき、彼女達は中々渋い顔をしていた。が、決意を決めたらしい。
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
あ、あー…そこのあなた
水精血潮
水精血潮
助けてほしい…ですか?
宵月 零
宵月 零
お願い聞いてくれるなら考えてあげるよ
悪魔の囁きの如く、彼女達は提案した。
願いなんて一つしかない。仲間になって欲しい、それだけ。
あとは相手が頷くのを待つだけだ。おねがい、どうか。
空夏 クリナ
空夏 クリナ
…わかった!一個だけね!
願いは叶った。
寛大な少女に感謝を。これ幸いと零が片目に光を宿らせる。


狩りの時間だ。
宵月 零
宵月 零
いいでしょ、私の『身体強化』
言い終わる前に、彼女は地面を蹴る。怪物へ直進し、思いっきり蹴りを入れる、が。
相手が華麗に躱し、反撃の動作へ。
反撃が来る前に、零は相手の鳩尾へと蹴りを入れる。が、掴まれる。
掴んだ手を引っ叩き、なんとか外す。距離を取るべく後ろへ後退。
刹那 紬
刹那 紬
今のうちに交渉しちゃおう
水精血潮
水精血潮
ええ…いいですか?
空夏 クリナ
空夏 クリナ
あっ、うん!お願いって何?
4人は緊迫する戦線を観ていたが、この間に逃げられてしまってはひとたまりもない。交渉開始。
刹那 紬
刹那 紬
こうこうこうゆーことで、いまに至ります
空夏 クリナ
空夏 クリナ
なるほど
水精血潮
水精血潮
そこで、あなたには私達の仲間になっていただきたいんです
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
うん。あと、仲間になるといいことあるよ
紬が説明し、血潮が頼み込む。ダメ押しで詩乃も言い加える。
空夏 クリナ
空夏 クリナ
いいこと?
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
なればわかる
空夏 クリナ
空夏 クリナ
う〜ん…もう助けてもらっちゃったしね!わかった!
恩に熱い人物だったらしい。助かった、ということで戦線へ加わる3人。
紬が『氷塊』で幾つもの氷のナイフを精製。敵へと降りかかった。
その内の一つを零が掴み、慣れた手捌きで敵を攻撃する。…が。敵も中々折れてはくれず、氷のナイフを叩き落とし、零の攻撃を躱していく。
2人の攻撃をモロに受けている為に動きは鈍くなってきてはいるものの、まだまだ動けるらしい。
宵月 零
宵月 零
はー、だるい
刹那 紬
刹那 紬
結構効いてはいるんだけどなー
甘梅雨 詩乃
甘梅雨 詩乃
私の番
詩乃が手を翳し、『強欲の渇望』を発動。アメジストが、ローズクォーツが柱となって敵を貫通する。
ガッ!?
苦しそうに呻き声をあげる怪物。動きがまた一段遅くなる。

水精血潮
水精血潮
ふぅー…援助します
血潮が『屍山血河シザンケツガ』を発動。敵の飛び散った血を固めてドリルにし、敵の身体へと突き刺す。
水精血潮
水精血潮
っぐ…はぁ、はぁ…なん、で僕はこんな魔法なんだ……本当に、嫌になる
血が苦手な血潮には弱点とも言える魔法。しかし顔を土気色にしながらも血を自在に操るその姿は、まさにヒーローだ。
でも、ヒーロー達だって負ける。最終的に勝てたって、途中では負けるのだ。
奮闘虚しく、敵は一段階上へと進化してしまった。
刹那 紬
刹那 紬
えー…うそ、やばー
その時だった。
公園に生えていた木が怪物へ襲いかかった。立派な桜の樹はその逞しい枝で敵を拘束し、血のように赤い彼岸花は怪物の足へと絡みつく。
彼岸花とは不思議なものだ。なにか縁があるのだろうか、途端に足の動きを封じられる。
空夏 クリナ
空夏 クリナ
ふー!すごい、すごい!
そう、これを起こしたのは他でもないあの萌葱の少女だ。
彼女は『植物魔法』を初めてとは思えないほどの精度で使いこなした。

しかし、動けないとは言えこのまま放置というわけにもいかない。はてさてどうしたものか。
うーんうーんと一同が思い悩んでいると、禍々しい雰囲気を纏ったクナイが飛んできた。
即座に零がはたき落とす。
ヒュン。
ヒュンヒュンヒュンヒュン…ヒュヒュヒュヒュ!!!
えげつない速度と質量のクナイが飛んでくる。もはや悩んでいる暇はない。全員が必死に当たらないように避け、落とす。
掠めるだけでも身体へ異常をきたしそうなそれを当てるわけにはいかない。

カンカンとクナイと武器、魔法が当たる音だけが辺りに響く。

やがて、防ぎきれなかったクナイが萌葱の少女の胸元へ飛び込んだ。まずい、刺さる——。


そうおもった、時だった。
雪嶋 颯太
雪嶋 颯太
課題・・だ。“お前の一番上のボスの名前を叫び、その死体を此処に持ってこい”…簡単だろ?
そこには、一週間ほど前に出会ったあの男がいた。片手にクナイを持ち、もう片手は敵の頭に触れている。
雪嶋 颯太
雪嶋 颯太
制限時間は30分から50分以内だ。『時間厳守』だから、しっかり覚えとけよ。爆発したくないならな
マ、どっちにしろお前は死ぬだろうけどな、と言い放つ男。
チッ…面倒なことを…。今日は視察だ。コレは同僚に解いて貰えばいい…
敵が、喋った。女とも男とも取れない声だった。
煩わしそうに呟き、スッと姿を消す。
後には、もう誰も残っていない。





戦闘は、終了した。

仲間は6人集まった。



大切なもの、大切な想い出。

それらを守るためにも。

あるいは、自分を守るためにも。

人生を、楽しむためにも。





旅が、始まる。


長い長い、幸せで脆い旅が。









なっがい…。あと、投稿が遅くてごめんなさい。
なんとですね、執筆開始は6月9日なんですよ…。
遅筆ですみません。次は頑張る。

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