インターホンが鳴った。
誰も来る予定なんてない。胸の奥が揺れる。
ドアを開けた瞬間、息が止まった。
車椅子に座った星導が、弱い笑みを向けた。
怪我で動けないはずの足にはギプス。
だけど、目だけは以前と同じで。
あまりにも自然で、
そしてあまりにも“何も知らない顔”だった。
胸の奥がきゅっと痛む。
けれど、私はもう以前みたいに笑えない。
名字呼びにした瞬間、
星導の表情が固まった。
目が大きく開き、まるで信じられないものを
見るように。
その言い草に、胸の奥が熱くなる。
忘れている。
浮気も、別れも、私が泣いたあの日も全部。
星導は言葉を失い、
車椅子の上で拳を握りしめた。
罪の自覚がないまま苦しそうにしている
その顔が、余計に気持ちをかき乱す。
その一言に、星導は痛みに耐えるような
顔をして、ゆっくりと頷いた。
絞り出した声に、星導は完全に沈黙した。
ドアが閉まる直前、彼の小さく漏れた
声だけが耳に残った。
その声音だけが、やけに昔の星導に似ていた。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!