第16話

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2024/07/22 09:07 更新




『.....海人、戻っておいで、』






【海人サイド】

海人
.........ここ、は....

愛しい人の声が聞こえた気がした。

そこには白い天井。

身体が鉛のように重くて視線だけ動かす。

見慣れた心電図モニターに複数の点滴、

少し息苦しく口元を覆うのは酸素マスクだろう。

室内には誰もいなくて、ただ機械音だけが

定期的な音を刻んでいた。

海人
.....死んで、なかったのか....

我ながらしぶとい心臓だな、と少し笑えてくる。

心臓の病のはずなのに。

以前何かの本で読んだ気がする。

『未練がある人間はしぶとく生き続ける』って。

....だとしたら俺は死なないんじゃないか。

海人
って、そんなこと、ないか....

少しだけ生きながらえただけ。

きっともうアイドルとしては生きていけない。

だったら.....
海人
紫耀...会いたい...

最後の最後まで素直になれなかった。

というか、俺の気持ちがごちゃごちゃで。

紫耀に突き進んで欲しいという気持ちも本物で。

だけど、俺のそばにいて欲しいという気持ちも

また嘘じゃなかった。

だから俺は最初に思った気持ちを取った。

恋人はアメリカに行くその日まで。

紫耀はその気持ちを最終的には尊重してくれて

そのときまで愛してくれていた。

だからもう、こんな気持ちを持っちゃ駄目なのに。



ガチャ、


ふいに扉が開く。

静かな空間に響く音のほうに目を向けると....


海人
っ、!!!
海人
.....しょお、なんで....

もう見ることはないであろう、愛おしい人が

立っていた。

俺は驚きのあまり上体を起こし、

酸素マスクを外した。
紫耀
っ、海人!!

その声と同時に一気に強い力で抱きしめられる。

落ち着く、大好きな匂いに包まれた。
紫耀
海人...海人...

俺の名前を呼びながら強く抱きしめたところから

存在を確かめるかのような優しい抱擁に変わる。

海人
.....なんで、
紫耀
ん...?

俺の声に紫耀はゆっくりと顔をあげて

肩を掴む。

その姿はやっぱり愛おしい紫耀だった。

海人
なんでっ、いるんだよっ!
夢、叶えるまで...帰ってくるな、って
...行ったじゃん...っ!!
紫耀
....海人、

本当は嬉しくて嬉しくてたまらないはずなのに。

死ぬ前にまた会えるなんて奇跡でしかないのに。

なんでこんな言葉が出てしまうんだろう。

海人
....こんなんじゃっ、....こんなんじゃあ俺....!死にたく、なくなっちゃう、じゃん....
涙が溢れ出てくる。

本当は死にたくない。

ずっとずっと紫耀と一緒にいたい。

もうすぐ散る命に抗いたくなってしまう。


海人
約束っ、破らない、でよ...っ、

バシバシ、と紫耀の肩をたたく。

海人っ!

その声に顔をあげると廉がいた。

そしてその後ろには岸くんとジンも。

息を切らしていることからきっと急いで

きてくれたのだろう。

海人
なんで...っ、岸くんと、ジンもいるの...!

なんでよ、なんでなんだよ。

せっかく自分の中で納得させて

みんなのこと笑顔で送り出せたのに

なんでーーー




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