勘右衛門が私を庇って怒鳴ったことで、
その場の空気は一度静まり返った。
だが、突き飛ばした張本人である留三郎が気まずそうにする中、
やはりあの綺麗な上級生――立花仙蔵だけは、
一切調子を崩さなかった。
彼は冷徹な瞳のまま一歩前に出ると、静かに唇を開いた。
仙蔵
「 ……ただの小さな女の子、なら良かったんだがな。
――お前が噂の『天女』なら話は別だ 」
勘右衛門
「 天女……っ!? 」
私の背後で、勘右衛門が息を呑んで体をビクつかせた。
水色の忍び服を着た一年生たちも、
恐怖に顔を青ざめさせてお互いに身を寄せ合っている。
あなた
( 天女……?
さっき学園長も口にしていたな、、、
この世界では、何か不吉な意味を持つ言葉なの? )
私が思考を巡らせていると、
他の六年生たちも淡々とした口調で、
包囲網を狭めるように話し始めた。
「 天女は、忍術学園に大混乱をもたらすとされる存在だ。
男たちを狂わせ、内部から崩壊させる 」
「 そんな奴が、こんな妙な武器を持って、
一年生の前に都合よく現れるか? 」
「 お前が放ったあの爆音といい、
その手枷といい、怪しすぎるんだよ 」
文次郎や留三郎の言葉には、確かな敵意と警戒が混じっている。
彼らにとって、私は「 学園を脅かす未知の侵入者 」なのだ。
勘右衛門
「 違います! 先輩方、あなたちゃんはただの――っ!? 」
必死に私を弁護しようとする勘右衛門。
だけど、これ以上彼に喋らせるのは得策じゃない。
下手に庇えば、彼まで同罪に問われかねない。
私は勘右衛門の腕からするりと抜け出すと、
彼の前に立ち、小さな手のひらで彼の口をそっと塞いだ。
あなた
「 ――勘右衛門お兄ちゃん、もう大丈夫だよ。ありがとう 」
勘右衛門
「 ん、んん……? 」
目を丸くする勘右衛門の手を優しく握り、
私はゆっくりと六年生たちの方へ向き直った。
もう、怯える子供のフリをする段階は終わった。
公安の交渉人としての顔を、ほんの少しだけ表に出す。
背筋を伸ばし、翡翠の眼で最上級生たちを真っ直ぐに見据えた。
あなた
「 ……確かに、私はこの世界の人間ではありません。
皆さんの言う通り、違う世界から来ました 」
私の毅然とした言葉に、仙蔵の眉がピクリと跳ねる。
仙蔵
「 ほう。やはり自白するか 」
あなた
「 ですが、皆さんが警戒している『天女』でもありません。
学園を壊すつもりも、皆さんと戦うつもりも一切ない。
私はただ、気づいたらあの森にいただけ 」
本当の正体――元公安警察であることや、
暗殺組織にいたこと、そして爆死して縮んだことなんて、
口が裂けても言えないけれど。
あなた
「 信じるか信じないかは、あなたたち次第。
でも、私を敵に回すより、味方にしておく方が賢明だと思うけど? 」
不敵に微笑んでみせると、六年生たちの間に、
天女への恐怖とはまた違う、新たな緊張の走る音が聞こえた気がした。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!