第81話

🪽/80
66
2025/10/12 08:00 更新





 上杉から言われた言葉、全部が嬉しかった。


 心にまっすぐ届いて、そのまま大事なところへと着いた。



 上杉 
 蒼井、抱きしめていい? 
 蒼井 
 抱きしめてよ 
 上杉 
 うん 


 そのまま長く思えるほど、ずっと上杉の体温を感じていた。

 上杉の匂いは前と変わらないシトラスで、
 
 がっちりとした細身の身体は、あたしを強く抱きしめた。



 蒼井 
 だいすきだよ、上杉 
 上杉 
 …珍しいな 
 蒼井 
 これからも離さないから 
 上杉 
 俺が離せねーよ、ばか 
 蒼井 
 これからも数学教えてね 
 上杉 
 数学だけでいいのか? 
 蒼井 
 あたしの知らないこと、全部教えて。 
 上杉 
 ああ 


 上杉の部屋で、大好きな匂いと、明るさで、

 上杉の温もりを感じていた。



 抱きしめて、見上げると唇が落ちてきて。

 それを受け止めながらあたしは、ずっと笑っていた。


 蒼井 
 上杉ってさ甘えたさんなのかな 
 上杉 
 急に何だよ 
 蒼井 
 キスしてほしい時、見つめてくる 
 上杉 
 それ、逆だろ? 
 蒼井 
 ん? 
 上杉 
 蒼井がキスしたくて、俺を見つめてくるから 
 それを見つめ返すだけ
 蒼井 
 …そう、なんだ 


 恥ずかしいことも、嬉しいことだけじゃない。

 幸せなるまでにたくさんのことがあった。




 若武くんへ矢を差したはずが、間違えたこと。
 
 広瀬さんと館前とたくさん話したこと。

 黒木と美門と駆け引きをしたこと。

 小塚に気づかれたこと、

 七鬼に気付かされたこと。

 立花さんに嫉妬して、救われたこと。




 藤沢さん、羽都さん、夜桜さん、暁さんと笑ったこと。



 記憶を失ったこと。

 上杉が大怪我をしたこと。


 過去を乗り越えたこと。

 答え合わせをしたこと。

 気持ちが通じ合ったこと。

 見つめあってキスをすること。

 おはようとおやすみを言えること。


 上杉が大好きで、

 上杉はあたしを大好きなこと。


 
 たくさんの経験が今のあたしを、あたしたちを作っている。

 これからもキラキラな毎日が起こって幸せとは限らない。

 泣いて、悲しくて、切なくなることもある。


 けれど、そういう全部を乗り越えてきた今までがある。

 たくさんの経験をさせてくれた恋のキューピッドと天使にも、

 意外と感謝をしている。


 
 これからも変わらないのは、

 あたしは上杉を大好きで、ずっと隣にいること。



 上杉 
 こっち向いて蒼井 
 蒼井 
 なに 
 上杉 
 今からとびきりのやつするから 
 蒼井 
 ………キューピッドの矢、差し間違えました…か 
 上杉 
 ん? 
 蒼井 
 案外、それも悪くないと思う 
 上杉 
 …そうか 
 蒼井 
 上杉、…ううん、和典 
 上杉 
 なんだ? 
 蒼井 
 あいしてる 
 上杉 
 俺も、愛してるあなた     


 そう言ってあたしたちはもう一度キスをした。


 月が綺麗に輝いてるのが、窓から見えた。







  ─── 完 



プリ小説オーディオドラマ