その場に響く音楽は優雅だった。
グラスが触れ合い、
笑い声が何重にも重なる。
「最近は獣人も質が落ちてきてね」
「分かるよ、安いのは手間がかかる」
そんな会話が当たり前のように飛び交う。
ゴヌは壁際でグラスを傾けていた。
……早く、終われ
ゴヌが社交界から姿を消したのもここにあった。
現国王就任当初は獣人奴隷反対派も多かったこの貴族社会。
しかし時が経つにつれて
獣人を奴隷とする事に抵抗がなくなり、
自ら捕獲や買い付けをし、
自慢し合うようになった。
それがゴヌには受け入れられなかったのだ。
_____その時だった。
「そういえば聞いてくれ」
少し大きめの声がゴヌの鼓膜を揺らす。
「最近、とびきりの奴隷を手に入れてね」
ゴヌは無意識にそちらを見た。
鼻高々に周りの人々に話す豪奢な衣服の男。
どこぞの富豪だろうか。
「猫と虎なんだ」
その言葉で心臓が一度、強く跳ねた。
「面がいい」
「身体もいい」
「それに、マタタビへの耐性がまるでないんだ」
彼の周囲がどっと盛り上がった。
「最初は大変だったよ」
「屋敷に連れてきた時は、逃げようとしたり、睨みつけたり、反抗ばっかりでさ」
「....でもね」
富豪はグラスを揺らした。
「ちゃんと躾ければこうも変わるんだね」
「今じゃ命令しなくても大人しくなる」
「すごく従順でさ____」
その一言でゴヌの耳鳴りが始まり話を聞くのをやめた。
……猫と、虎
.......最近手に入れた、、?
頭の中で、
点が線になる。
「若いんだろう?」
「ええ、見た目も良い、愛玩には最高だよ」
軽い笑い声。
それがやけに遠くに聞こえた。
ゴヌはグラスを持つ手に力を込めた。
___一致しすぎている。
偶然だとは言い切れない。
……まさか?
いや、考えるな。
だが、一度浮かんだ疑念はもう消えることはなかった。
ゴヌ「……その獣人」
気づけば足が向かい、口が動いていた。
富豪が振り向く。
「なんだい?」
ゴヌ「……どこで、手に入れた」
一瞬、場が静まった。
だが、富豪は気にも留めず笑った。
「国営の奴隷商だよ、国営だと質がいい」
その言葉で疑いがより確実なものになった。
ゴヌの背筋を冷たいものが走る。
……あの子たちが、探してる二人
心臓が痛いほど鳴る。
……でも
ここで踏み込めば。
7人に自分が"誰なのか"を明かすことになる。
____領主の息子。
____ 奴隷を肯定する社交界の一員。
……言えるか?
俺が、その側の人間だって
富豪は満足そうに話を続けた。
「今度、見せてやろうか?自慢なんだ」
ゴヌは無理やり笑みを作った。
「……いえ、今は結構です」
胸の奥がぐちゃぐちゃになる。
……どうする?
どうすればいい?
守りたい場所がある。
守りたい人たちがいる。
それなのに____
今探し求めてる"鍵"はこの場所にしかない。
音楽は何事もなかったように流れ続けている。
ただ一人、ゴヌだけが
その中で笑うこともなく立ち尽くしていた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。