ヒョンジンは物心ついた頃から、孤児院で育った。
親の顔も知らず、頼れる身内もいない。
16歳。
周りの友人たちは「初体験」の話を自慢げに語り合う年齢になっていた。
「どんな子がタイプ?」
「お前、もう卒業した?」
そんな会話が飛び交う中、ヒョンジンは黙って笑ってやり過ごすしかなかった。
自分には、そういう「欲」がなかったから。
ただの遅れなのか、それともーー
その漠然とした不安を打ち消したくて、彼は衝動的に大人の世界へ足を踏み入れた。
薄暗い店内で選んだのは、一番優しそうな顔ーどこか懐かしい感じのする顔の女の人だった。
「わぁ、若いねぇ! 今日はよろしくね」
茶髪にピンクのメッシュ。
華やかな夜の装いの彼女は、緊張で固まるヒョンジンを明るく迎えた。
「大丈夫。緊張しないでいいから」
そして彼女は優しく服を脱がせてくれて、身体を洗ってくれた。
けれど、どれだけ丁寧に触れられても、ヒョンジンの体に変化は起きなかった。
「うーん。緊張だけじゃなさそうね。」
スッと顔を覗き込まれた瞬間、彼女の瞳にすべて見透かされた気がして、身構える。
「あなた、男の子の方に興味あるんじゃない?」
「——え?」
頭が真っ白になる。
そんなこと、一度も考えたことがなかった…
と言えば嘘になる。
ふとした瞬間、湧き上がる想いに、まさか自分はと蓋をしてきたもの。押さえつけていたもの。
「んー、自覚がなかった?それとも身に覚え、あり?」
彼女はくすくすと笑った。
「うーん、まぁいいんじゃない?そういう子、結構いるよ?でもこの街で生きていくには、ちょーっと大変かもねぇ。」
「……」
「よし、お姉さんが色々教えてあげる!あとでここに来て!お金もったいないから。」
そう言って彼女は、自分の家に呼んでくれて、
「この街でどうやって生きていくか」
「どこなら安全か、誰に気をつけるべきか」
「無理に自分を変える必要はない」
——そんなことを、夜が明けるまで話してくれた。
この日、ヒョンジンは”自分”を知った。
そして、あなたという”最初で最後の女”に出会った。
「……そうだったんだ。」
バンチャンは、腕の中に収まったヒョンジンの横顔を見つめながら呟いた。
狭いベッドの上、ヒョンジンはバンチャンの腕を枕にしながら、天井をぼんやりと見上げてポツポツと言葉を紡いだ。
「こんな世界だからな。教えてもらわなければ、危ない目に遭ってたかもしれない。」
「あんな感じだけど、悪い人じゃないってのはわかるよ。」
「……でもお前、あなたと俺がそういう関係だって疑ってただろ?」
「そ、れは……」
図星を突かれ、バンチャンは思わず視線を泳がせる。
「そりゃそうだよ。あんなに綺麗で可愛い人だもん。」
ヒョンジンはその言葉を聞くやいなや、逃がさないようにバンチャンの腰に腕を回し、ニヤリと笑った。
「じゃあ、抜いてもらう?せっかくだし。」
「はぁ!?なんでだよ!」
バンチャンは思わずヒョンジンの肩を叩く。
ヒョンジンは笑いながら、肩を竦めた。
「俺は全然興味なかったけど……まぁ、人によるみたいだからな。」
「もう黙れ!」
バンチャンは顔を真っ赤にしながら、ヒョンジンをもう一度叩いた。
ヒョンジンは、そんなバンチャンの反応を見て、少しだけ嬉しそうに笑った。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。