私はあの時逃げるべきだったのだ
公安に関わるべきじゃなかった、、
後悔する事になるのはそう遠い未来ではなかったみたいだ
コンコンコン、、
生まれて初めて見る様な暗く冷たい廊下
なんだかまるで監獄のよう、、
私を連れてきた黒スーツの人は重々しいドアのある部屋を静かにノックし入った
部屋の中はだだっ広い空間が広がっており、真ん中にさっきの人と比べ物にならないくらいの威圧感のある女の人が立たずんでいた、、
1面窓張りで広く開放感のあるはずの部屋なのに、何故かとても息苦しくて気持ち悪かった
文面を見ると優しいように見えるけど、この人の声、表情からはとてもそんな風には思えなかった
中央のローテーブルの横に座っていたのは、
ここにいるはずの無い、爺ちゃんだった
爺ちゃんは絶望と驚きの目でこちらを見て はっとしたように再び目の前の女の人を睨んだ
顔色一つ変えず淡々と喋る女の人に爺ちゃんは軽蔑するように怒鳴った
レディ・ナガン、、??娘って、、?
何がどうなってるの、、
突きつけるような女の人の声は私の頭の中でぐるぐると回っていた
こんな所に居たくない、こんなに冷たい人が憧れのヒーローにしてくれるとは思えない
今すぐ爺ちゃんと一緒に帰りたい
帰ってご飯食べて、、立派な猟師になって、、、
キッと上を向くと会長は静かに微笑み、後ろの部下は袂(たもと)の黒く冷たいソレに指をかけた、、
あぁ、ダメだ、、、コレは、、
私に選択肢なんか無い、
私が逃げれば爺ちゃんも周りの人もタダじゃ済まない 殺されるかもしれない
私は生まれてからずっと育ててくれた爺ちゃんを1番大事に思ってるし
なるべく長く幸せに生きて欲しいとずっと思ってる、、
それには私が爺ちゃんと離れれば良いだけ
でもなんで、、、なんでこんなに苦しくて一緒に居たいって思っちゃうんだろう、、!
うん、、わかってるよ、爺ちゃん、、
私の一番の思いを優先するよ
静かに目を開け掠れた声を飲み込み、目の前の女の人を真っ直ぐ見据える
そうだ、私は人を救えるヒーローになるんだ
自分の我儘で大切な人を傷つけるなんて絶対ダメだ
唖然とした爺ちゃんと少し驚いた様な顔をした女の人、私をじっと見つめるホークス、黒いスーツの人達、、
その中で私は静かに頭を下げた、、
心はなぜだか穏やかだった、、覚悟は決めた
ヒーローになってやる、、皆が普通に暮らせるように、私みたいな子を増やさない為に、、!
静かに微笑む私を必死な顔で苦しそうに声を遮る、、
ごめん、爺ちゃん、、これが私の願いだから、、
どうか、、どうか幸せに生きてね、、
目の奥の熱いものを必死で留めてニヤッと笑った
最後なんだもん、、最後くらい笑っていたいよ
次は私が爺ちゃんの言葉を遮った
お願い、決めたんだよ、、こう生きるって、、
関係をタツ?、、、多分、、爺ちゃんとは会えなくなるって事だろうな、、
ゼンメンシエン、、
何故かホークスの手が私の手を強く握りしめ、爺ちゃんと彼は苦虫を噛み潰したような顔をして会長を見た、、
爺ちゃんの顔は怒りと言うより、青ざめていた、、
口元を抑え目を見開いていた、、
また、、?またって何だろう、、?
静まりかえった室内にはリズム正しく響く時計の針の動く小さな音が不気味な程大きく響いていた、、
女の人は溜息をひとつ付くとまだ小さな私の方へ目を向ける
この人の内には恐ろしいバケモノが住んでいる、、
そんな野性的感を感じられずにはいられなかった、、
黒いスーツの人達に誘導されて部屋から連れ出されそうになった私を爺ちゃんは必死に引き止めた、、
爺ちゃん、、こんなに大切に思ってくれるなんて、一生の幸せだなぁ、、、
こんないい人には幸せになって、、貰いたい
再び出そうになった弱音を噛み殺し、笑顔で爺ちゃんの方へ振り向いた、、
、、笑おう、この人に見せられる最期の私なんだから、、!
爺ちゃんは私の笑顔に絶望したような、切ない様な、、苦しげな顔をした、、
笑えたよね、、大丈夫、、これでもう、、
うん、、大丈夫、、、
大粒の涙が零れない内に、出ていこう、、
私と爺ちゃんはそれぞれ長く暗い廊下を反対の方向へ連れて行かれた、、
先は暗くて見えなかった、人生の道も、、何もかも、、
バタン、、、
クソ、、何が態度だ、、
そりゃ不機嫌にもなるだろ
俺は普段と打って変わった様な鋭い眼光を目の前の女、、公安委員会会長に向けた
ギリっと歯を鳴らし先程まで彼女の小さな手があった自分の手のひらを握り締めた、、
あの子は、、逃げれば公安があのお爺さんに何かするのを理解したように静かに従った、、!
は、、?
これが俺の正直な感想だった
さっきまで目の前の親代りのお爺さんに飛び込んで行きたい様に必死に目線を送っていたというのに、、
彼女は頭を下げた、、
まだ年端もいかない女の子がだ
親と離される、親元に二度と帰れないという事を全て、、悟ったような表情で、、
彼女の手は震えている
自分が保護された時と幾つも変わらぬ歳の子だろう、、なのに、何故か、、まるで大人と会話しているような、、奇妙さと切なさを感じて止まなかった
彼女の笑った顔、、一見無邪気なのに、、
何故だか、、凄く悲しく泣いた子供の様な目に見えてしまった
彼女の最後に残した顔は、やっぱり笑顔だった、、少し切ない感情を滲ませた笑顔には彼女の真っ暗な未来を嫌でも想像させられる、、
同じ笑顔だ、、彼女と、、タルタロスの彼女と同じ
何で、、、何でまた、、これじゃ俺と、、
会長の淡々とした言葉に対し俺は怒りと悲痛な声を隠せずにいた、、
俺が保護されたのは、、"ヒーローになりたかったから"父も母もぶっ壊れてたからヒーローになれる環境を与えて貰えるなんて夢のような願ってもないチャンスだった
だけど彼女は違う、、親が、、"母親が直属ヒーローだったから"公安に目をつけられた、、
"個性が最強のスナイパー"というのを知られてしまったから連れられた、、!!
あの子は望みもしない環境へ放り込まれるのを、祖父母の身を案じる為に我慢した、、
たった一つの居場所で、たった一人の親の様な人だったのに、、
後釜、俺がナガンの、先輩の後釜だった様に、、あの子は俺に何かあった時の代用品として育てられるという事だ、、
クソ、、何がヒーローだ、、今まさに1人の女の子の未来が犯されようとしているのに、、
俺は何も、、
自分の無力さに腹が立った、世間では最年少のトップ3の実力者だが彼はこの人に逆らえず従うしかない無力さに絶望していた
ガチャ、、、
どす黒い大人の意図を吐き出すように息を吐き目の前の自販機に歩いていく
会長室を出ればいつもの暗い冷たい廊下、、
、、では無かった
そこに居たのは美しいマーブルの髪を揺らした彼女だった、、
問い詰めるとバツが悪そうな顔をして手を弄り始めた、、
何やら俺を待っていてくれのか、、?何で、、
しゃがんで彼女に目線を合わせると彼女はほっぺたをほんのり赤くして優しく微笑んだ
あぁ、彼女が今まで他人にどんな扱いを受けてきたのか想像出来てしまう、、
ヴィランの子だと、母親似の容姿で感ずかれてしまったんだろう。
当たり前に接される事が彼女にとって感謝する程のものなのか、、
俺がそう提案すると彼女は年相応にそう笑った
さっきの笑顔とは違う、、くしゃっとした笑顔で笑った、、目元の涙の後が霞むくらいには
ピッ、、!
自分はいつものゲロ甘コーヒーをポチりながら青白く光る自販機の数少ないジュースの段を眺めて聞いた
相変わらずコーヒーとエナドリばっかだな、、
流石社畜の宝庫、、、笑
ピッ、、!ガシャン、、
そう言って勢い良く押されたボタンは軽快な音が鳴って直ぐにガシャンと下の方から音がした、、
そう言った彼女の手に握られているのは"コーヒー"そう、コーヒーだ。しかもブラックの、、、
あはっと笑ってコーヒーを揺らした彼女は
7歳、、そう、Seven years old、、
え、今の子ブラック飲むの??小学生ってコーヒー嗜むお年頃なのかな??←(違います)
彼女がふぅ、と息を着くとコーヒーのいい香りが鼻をかすめた
苦い苦いコーヒーを飲む彼女の小さな背中がどこか酷く孤独なように見えた
ホークスさんに買ってもらった苦いコーヒー
この味が好きな訳じゃなかった。
だって舌が痺れるくらい喉に絡みつく苦味のあるコーヒーだったから。
だけどこれを飲むと甘えだったり、自分の弱い部分を塗りつぶす事が出来るから、、
寂しいとか思ってしまった時には狂ったように飲んでいた、、
爺ちゃんは止めなかった。いや、止められなかったんじゃないかな。
ある意味私はこれに依存してたから、、
彼は少し俯いていた私に気がついたのだろう、明るくそう聞いてきた
脈絡無く爺ちゃんを褒められて自分の事じゃなくても少し喜ばしくなり頬が緩んだ
ホークスもいつもの笑顔じゃなく穏やかな表情を浮かべて甘いコーヒーをすすっていた、、
しかし、、どこか気を使ってる感じ、、、
最初から思っていた違和感を直接聞いてみる事にした
私が少し歯切れが悪くそう言うと彼は呆気にとられたような、驚いたような顔をして私を凝視した後 少し俯いてしまった、、
きっとあのおばさ((ん"ん"女の人に言われて
親の事、情報を聞き出すように言われたんじゃないかな、、
ホークスさんは再び申し訳ない、と言ったような顔を浮かべた為勝手にすみません、と反射で謝ると いやいやこちらこそと更に申し訳なさそうなそうな顔をした
、、謝って欲しい訳じゃないし、ホークスさんになら普通に話すのに、、
ぽつぽつと話し始めた私の小さな声をホークスさんは静かに聞いていた、、
少ない記憶の中でも、母は私に優しく笑っていた。あんな人がヴィランだなんて絶対おかしいって思っていたけど
優しいからこそ、、ヴィランになってしまったんじゃないかって思ったりもした
ホークスさんは目を細めてどこか寂しげな顔をしていた、、
私の母を知っている人達はみんな"怯えて逃げる"か、"貶して虐める"っていう2択しか見た事が無かった。
ましてヒーローとして見てくれる人なんて会ったことがない。
爺ちゃんから聞いた母がヒーローだと言う忘れかけていた記憶が鮮明に蘇った
沈黙を破るようにホークスさんが聞いた
ドクンッ!!!!!
お父さん、、言葉を聞いた瞬間、全身の血液がスっと抜かれたようになり、心臓がバクバクと嫌な音を立てた
苦しい、、息が詰まってる、、!!
どうして喋れないの、、?息が吐けない、、
落ち着いて、、落ち着かなきゃ、
ちゃんと、、ちゃんと話さないと、!!
落ち着いて、、話さないと、、っ、、
ゆっくり、、普通に喋らないと、!!
ごめんなさい、ちゃんと話すから、、!!
だから、、だから、、
私の震えた背中をゆっくりさすって優しく声をかけてくれた、、
ああああっ、、どうしよう、、どうしよう、、
ごめんなさい、ごめんなさい、、普通にならなきゃ、!!普通に、、じゃないと、また、、また、、!!
冷たく奇妙な汗が頬を使って必死に頭を下げた。
泣いたらダメだ、殴られる
お願いしたらダメだ、蹴られる
謝らないとダメだ、突き飛ばされる
普通でいなきゃダメだ、水に沈められる
うるさくしちゃダメだ、閉じ込められる
まだ消えない身体じゅうの古傷がジンジンと再び痛み出して体は悲鳴を上げそうだった、、
それでも黙って頭を下げた、、
絞り出した様な声は、先程までの可愛らしい少女の面影も無く、、ただ殺さないで、と懇願する子供の悲痛な声だった、、
震えてやまない小さな体を抱きしめて背中をトントンとさする、、
バクバクと音を立てている心臓を落ち着かせ今だ痛みを感じていない体に気づいた、、
あぁ、そうか、、この人、ホークスだった、、
そうだ、アイツじゃない、、、
そう分かると一気に冷静になって震えも冷や汗も鼓動も落ち着いた
顔を上げごめんなさいと眉を下げて謝った
凄く不安げで切なそうな顔をするホークス、
あんまり人に話してもいい良い話じゃないんだけど、、このままじゃ失礼だし、、
ポツリ、ポツリとどこかに封じ込めた昔の記憶の蓋を開ける、、
霞んでいた父の優しかった記憶、それで私は勘違いしてしまったんだろう、、
"良いお父さん"だって
愛していた人、、かは分からないけど、、
妻がヴィランになって、見た目も個性もそっくりな"ヴィランの子供"を押し付けられた
父はそれに耐えられなかったんだろうな、、
変わり果てた父、、自分の仕事、人生にヴィランの家族がいるというのは邪魔で仕方無かったんだと思う
でもどこかに捨てる訳にも行かない、そんな事したら自分の経歴に傷が入るっていつも叫んでた気がする、、
あのころはお腹すいて近くの川で草をとったり食べられるかも分からない魚を食べて何とか生きていた
でもお腹すいてたまらない時は商店街のおばさんから、残ったおかずを貰ってた
だけど他の人に私が見られてはいけないと父は帰ってからさらに殴った、、、
痛かった
1回捕まって首を絞められた時は本当に死ぬかと思った、、
本当に死ななかったのは奇跡だな、、
ふとホークスの方を見ると彼は絶句したような、絶望したような、恐怖の顔をしていた、、
私の呼びかけにはっとしたように笑顔を作るとまた、切なそうな顔をして私の頭を撫でた、、
私が困りますよねー、と笑うとホークスは俯いてそう零した、、
お父さんのことは多分死ぬまで忘れないと思う
だけど正直、もう諦めてたのかもしれない
あぁ、この人は殺してくる殺人者だって、、
ホークスはまた悲しそうな顔をして、、何故か思い懐かしむ様な、、そんな顔をした
悲しそう、、辛そうに、、まるで昔の事を思い出す時の様な、、
昔の事のように、、?何で?他の人はこの話聞くと痛ましいモノを見るような目で見てくるのに、、
それにずっと思ってた、、この人、、
いや、聞いちゃいけないかもしれない
人には思い出したくない思い出もあるって私が1番知ってるから
、、それでも苦しそうに見えた、この人の顔が
なぜか見なかった事にしたくないと思ってしまった
自分に、、彼に言い聞かせるように必死に言葉を探した
昔何があったか知らないけれど、悲しい事があった人の顔だった
どれだけ頑張って繕っても私が"ヴィランの子"なのは消えない、、
だから今どうするかを考える事が私に出来る精一杯だった
暖かいコーヒーを飲んでいたはずのホークスの冷たい手を小さな手でぎゅっと握って藤色の瞳を彼の暗い琥珀の瞳に映した
驚いた様な顔をした彼を笑って手をさすさすするとなお驚いた様な顔をした
だけど今のは優しい驚いた顔だったな、、
何でか分からないけれど無意識にそう呼んでいた、、
嫌だったかな、、?でもずーっとヒーローでおるのって大変やし、、
ダメだったかな、、とバツが悪そうにホークスの方を見ると彼は、、
、、爆笑していた ツボがよく分からん人だな、、なんかちょっと不気味、、
そんな気持ちとは裏腹にホークスは私の頭を元気よくわしゃわしゃって撫でた
それじゃお願いしますね、ヒーロー!(笑)
って笑ってぬるまってしまったコーヒーを飲み干していた
でも元気になったなら良いか、、(?)
うーん、よく分かんない人だなーと頭を捻りながらも私もまだ少し暖かいコーヒーをコクコクと飲んだ
飲み干したコーヒーの缶をプラプラと弄びながら彼は聞いてきた
彼はイタズラっぽくそう笑った
我ながら酷いと思う、、女の子に向かってさつまいも、、
ホントどこがさつまいもだって言うんだよ、、!髪の毛だけやろ!?
ははっと苦笑いしながら後ろの羽をパタパタと羽ばたかせた
ホークスは鳥じゃないのにな〜、、
困惑した顔で声色を真似私が伝えると何故かホークスは吹き出してゴホゴホッと咳き込んでいた、、
再び吹き出す彼をホントに心配して覗き込むとクックックと笑いながら私の方を向き答えた
彼女の顔を思い出しながらうーんと首を捻ると更にホークスは爆笑していた、、
でも色んな人がホークスホークスって言っとったし、、人気なんやね
さっきとは違うニヤニヤとした笑顔でこちらを見てきた、、
好きな人か、、
爺ちゃんはともかく最近知ったエンデヴァーさんの様な無口だけど強い男らしい人結構好きだなぁー、、、
私がそう答えると子供のようにパッと明るくなったホークスはキラキラと目を輝かせた
ひとしきりエンデヴァーさんのかっこよさについて話した後ちょっと寂しげにホークスはそう聞いてきた、、
きゃ〜とわざとらしく叫んだホークスだけどその顔はどこか嬉しそうだった、、
ピシッと敬礼したホークスはクシャッと笑ってまた頭を撫でた、、
子供の私でも分かる、、こん人罪なオトコ?なんやなーって、、
彼の撫でる手を見てボソッと呟いてしまった
あ、やばい 変な事、、
何やらすみませんと口走ってスーツの人が言っていた場所まで急いで走って帰った、、
ホークスが何か呼び止めていたが既に走り出していた私は振り返る事がなかった、、
ホークスのそんな静かな声が廊下に響いただけだった、、
そう心の中で再度呟いたホークスの顔はほんのすこし緩んでいましたとさ、、
ここまで読んでいただきありがとうございました!
申し遅れました、おつりちゃんです!
ぜひ♡と☆貰えたら嬉しくて投稿頻度上げちゃいます!!よろしくお願いしますー!!
後『最強ヒーローの少女はNo.2の娘さん』っていう小説もあるので是非よろしくお願いします!ぜひ下のアカウントから飛んでください!
では!バイ!!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!