第166話

164.
16,971
2021/12/18 08:13





私があの家を出ていってどれほどたっただろう


カレンダーを見ればまだ数日


みんながいないだけで


こんなにも時間が進むのが遅く感じる


やっぱり、つまらなかった


小さなアパートの部屋の中


まだ家具も何も無い部屋にゴロンと寝転がる



『会いたい、』



気づけばそんな言葉が口からこぼれる


スマホでニュースを見れば


夢野秋の退所はずっと上位に残ったまま


夢野秋の事なんて早く忘れてしまえばいいのに


なんて思いながらも気づけば記事を読んでいる


書いてあることは「退所した」ということだけ


女性だということは一言も書かれていなかった


きっと、ジャニーズの人気が下がるから


滝沢君がそれは発表しなかったのだろう


当たり前だ。


SNSを見れば夢野秋の退所を悲しんでくれているファンが


沢山いることに気付かされる


でも、私はもう、夢野秋ではない


ジャニーさんがくれた大事な大事な居場所も


もうなかった。


そんな居場所を手放した今


生き甲斐なんてなかった



『やっぱり会いたいなっ、』



無責任な言葉がまた溢れる


そんな言葉と同時に目から零れた涙は


じんわりとカーペットを濡らす


何してるかな


もう一生会えないのかな


あの天使みたいな笑顔も


見入ってしまうほど綺麗な横顔も


私をいつも笑顔にしてくれた関西訛りの喋り方も


ふにゃっと笑う大好きな笑顔も


いっつ私の大好きなご飯を作ってくれているあの姿も


アニメのことについて楽しそうに話すあの大好きな顔も


いつでも私の事を気にかけてくれて辛い時には誰よりも早く「どーした」と言ってくれる安心する声も


入所してからずっと隣で支えてくれた隣にいてくれるだけで幸せだった存在も


私が女の子でいれて初めて


「好き」という感情を教えてくれた大好きな人も


誰一人として、今の自分には支えてくれる人がいない


こんなに涙が溢れて苦しいのに


いつもみたいに「大丈夫だよ」なんて言って


抱きしめてくれる人もいない


また独りだ、独りは嫌いなのに、


誰かがいてくれないと何も出来ないのに


神様は私から全部奪っていく



『会いたいっ、』



こんなに苦しい気持ちになるなら


初めから「大好きな居場所」なんて


作らなければよかった


鏡を見れば目は赤く腫れて酷い顔をしている


自分で保冷剤を取りに行き


目を冷やす。


やっぱり独りだった


受け止めきれずに、床に保冷剤を投げつけ


目が赤いまま枕に顔を埋めて目を閉じる


こんなとこ見られたらまた怒られるんだろうな


なんてもう今はもうありえないのに


そんなことを考えてしまう私は


当分みんなのことを忘れられそうにない












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