情けないほどガックリと肩を落とす優也さんを見つつ、私はそっと声を掛ける。
分かりやすいくらい明るい表情になった優也さんにお礼を述べつつ、渡されたケーキの箱を大事に抱えてリビングに持っていく。
私としては、優也さんに記念日を祝われることを嫌悪しているわけではない。
今日の寝坊記念日のように、優也さんが何でもかんでも記念日にしてしまうことに困惑しているというだけで……。
とは言え、素直に伝えたところで優也さんが歯止めを掛けられるとも思えないからこそ、記念日と名のつくものは全て我が家で撤廃する方向でお願いをしたというわけだ。
だからこそ、私としては何度も懲りずに記念日を祝おうとする優也さんを軽蔑する気は更々ない。
私が嫌がっていた事実に気付いた瞬間、私の意見を尊重しようとする態度に偽りがないことも、私とともに過ごす日々も心から堪能しているからこそ記念日として祝いたいと願う気持ちも、妻としてキチンと理解し、把握しているつもりだから……。
だけど、優也さんの意向を尊重することはまだまだ出来そうにないかなあ。
優也さんの記念日の増産体質に歯止めが掛からない限り、我が家の破産が見えそうだからね。
……記念日がある方が虚しくなる。
この心は、我が家の財政破綻が見え隠れすることに起因するある意味【とても幸せな悩み】だったのだ。
【end.】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!