歌なんて、何年ぶりだろう
初恋が実らなくなった、枯れたあの日から
歌を歌うことを止めた。
歌と同時に、おしゃれやメイクも止められればよかったけど……
こればかりは、どうしてもやめられなくて。
いつの間にか、その習慣が染み付いていた。
今思うと、両親との縁を切ってまでおしゃれを続行させたのは、
バカのすることだと思う。
でも
後悔はしてない。
ルイがぽわぽわした口調で静かに呟く。
ルイの反応からして、あまり好評じゃなかったと見える。
「そんな批評も受け止めるぜ」とルイに笑いかける。
……あの時以上に傷つくことは、多分……きっとあり得ないから。
予想外の言葉に、思わず目を丸くする。
……とすると、あの子の言ってたことはお世辞じゃなかったのか。
にしても、言葉を失うくらいとか、大げさだろ。
笑って誤魔化しても、ルイが静かでいるのに変になる。
さすがに俺も黙り込んだ。
目が覚めたのか、ルイが急に体を震わせて目を大きくする。
興奮して喋りまくるルイに、思わず照れくさくなる。
ルイがそういうのに、俺がオリビアの手元を見ると、
たしかにフルフルと微かに両手が震えていた。
オリビア自身も、いつも無表情なのに、今回は目を見開いて俺を見ている。
ルイと同様に興奮気味で、ピアノのペースも激しくなる。
はっとしたルイが、すっと縮こまって赤面する。
ニシシ、と笑うと、ルイもそれにつられて微笑する。
理解したルイが、さっきまでとは桁違いに顔を赤らめる。
ぎゃあぎゃあ言いながら弁解するルイを差し置いて、俺は立ち上がる。
必死に止めようとするルイから逃れるべく、俺は外に出てオリビアの部屋のドアを閉じた。
やれやれ、別に隠さなくてもいいのによ。
てかルイのあの焦ってる顔、傑作だったなぁ……
「 キリトくんは、キリトくんのままで居たほうがずっと良いって 」
俺からしたら、結構羨ましいからな? ルイ。
そんなこんな思っていながら歩いていると、
リビングを通り過ぎたときに、ミラトすれ違った。
ヤバいと俺はミラから疾走する。
ミラは怒鳴りながら追いかけてくる。
俺は捕まったら殺される、と悟って焦りながら全速力で駆けた。
でも……なんだか悪い気はしなかった。
なんでだろう、とっくに心は満たされていた。
いつの間にか吹き出した。これは自分でも変人だと思う。
窓から無数の桜の花びらが、舞い落ちてきた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。