第64話

✽特長✽🌙
143
2022/03/25 10:24










 歌なんて、何年ぶりだろう






 初恋が実らなくなった、枯れたあの日から


 歌を歌うことを止めた。


 歌と同時に、おしゃれやメイクも止められればよかったけど……


 こればかりは、どうしてもやめられなくて。


 いつの間にか、その習慣が染み付いていた。


 今思うと、両親との縁を切ってまでおしゃれを続行させたのは、


 バカのすることだと思う。


 でも









 後悔はしてない。

ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
…………
キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
っと、まあざっとこんなもんだ
キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
どうだったか?
ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
……その…………何というか……うん……

 ルイがぽわぽわした口調で静かに呟く。

キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
なんだ、ツキノみたいな喋り方だな

 ルイの反応からして、あまり好評じゃなかったと見える。

キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
ま、仕方ないだろ。ほんとに数年ぶりなんだ、下手でも勘弁してくれ
ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
いや……違うんです…………なんか、
キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
なんだぁはっきりしねぇな。言いたいことあるならびしっと言えや

 「そんな批評も受け止めるぜ」とルイに笑いかける。


 ……あの時以上に傷つくことは、多分……きっとあり得ないから。

ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
下手というか……ううん、真逆、なんです
キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
? というと?
ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
感激するくらい……言葉を失うくらい、綺麗でした……

 予想外の言葉に、思わず目を丸くする。


 ……とすると、あの子の言ってたことはお世辞じゃなかったのか。


 にしても、言葉を失うくらいとか、大げさだろ。


 笑って誤魔化しても、ルイが静かでいるのに変になる。

キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
( ……本当なのか )

 さすがに俺も黙り込んだ。


 目が覚めたのか、ルイが急に体を震わせて目を大きくする。

ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
……凄いです、凄いですよキリトさん!
キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
へ?
ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
これは才能ですよ! 世界を……ううん、宇宙をも打ち震えさせることが出来ますよ!
キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
そんなにか……??
ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
お世辞じゃありません、むしろ事実です!!

 興奮して喋りまくるルイに、思わず照れくさくなる。

キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
そ、そうか……
ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
ほら、オリビアさんだって感動しすぎて手震えてますよ!

 ルイがそういうのに、俺がオリビアの手元を見ると、


 たしかにフルフルと微かに両手が震えていた。


 オリビア自身も、いつも無表情なのに、今回は目を見開いて俺を見ている。


 ルイと同様に興奮気味で、ピアノのペースも激しくなる。

ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
世に知らしめるべきことですよこれは!!
キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
うーん……(苦笑)
ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
何なら僕がコンサートでも開いて……ぁ、

 はっとしたルイが、すっと縮こまって赤面する。

ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
すみません、僕ったら思わず高揚しちゃって……
キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
いいや、むしろ嬉しいぜ〜

 ニシシ、と笑うと、ルイもそれにつられて微笑する。

キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
……ありがとな
ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
え?
キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
いーや、なんでもない
キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
てか二人ってデキてんのか?
ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
へ? ……ち、ちちちちち違いますよ!? 何言ってるんですか!!!!???

 理解したルイが、さっきまでとは桁違いに顔を赤らめる。

ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
やっぱり理解してるじゃないですか!!!!
キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
あ、やっぱそうだったか?
ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
違いますって!!!!!!!!
キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
そっかぁそうだったかぁ……じゃあお邪魔するのも悪いんで、俺はお暇するぜ

 ぎゃあぎゃあ言いながら弁解するルイを差し置いて、俺は立ち上がる。

キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
じゃあなルイ、オリビア☆
ルイ _ 💧
ルイ _ 💧
キリトさん!!!!!

 必死に止めようとするルイから逃れるべく、俺は外に出てオリビアの部屋のドアを閉じた。


 やれやれ、別に隠さなくてもいいのによ。


 てかルイのあの焦ってる顔、傑作だったなぁ……









***
違うよ。キリトくんは素敵だよ
***
とっても魅力的だから、そんなに謙遜しなくても良いんだよ





 「 キリトくんは、キリトくんのままで居たほうがずっと良いって 」









キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
…………

 俺からしたら、結構羨ましいからな? ルイ。


 そんなこんな思っていながら歩いていると、

ミラ _ 🩸
ミラ _ 🩸
……キリトさん
キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
あっっっ、やべっ

 リビングを通り過ぎたときに、ミラトすれ違った。


 ヤバいと俺はミラから疾走する。


 ミラは怒鳴りながら追いかけてくる。


 俺は捕まったら殺される、と悟って焦りながら全速力で駆けた。


 でも……なんだか悪い気はしなかった。


 なんでだろう、とっくに心は満たされていた。

ミラ _ 🩸
ミラ _ 🩸
キリト!!
キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
ははっ

 いつの間にか吹き出した。これは自分でも変人だと思う。

キリト _ 🌙
キリト _ 🌙
( これを機に、また歌い始めようかな…… )

 窓から無数の桜の花びらが、舞い落ちてきた。

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