「ん·····あぁ·······?」
目を覚ますと耳に入った小鳥のさえずり。
ふかふかのベッドと温かい掛け布団から
昨日はちゃんとベッドの上で眠れたようだ。
むくりと上体を起き上がらせ
天井に向かってぐぐっと大きくけのびをした。
さーて、ハオさんは起きてるかな···
迷路のようになりながらなんとかリビングに着く。昨日案内してもらった時、空いている部屋をハンビンの部屋にしていいと言ってくれたため有難く使わてもらうことにした。
手入れが行き届いていて、ほんとに一人暮らしかと疑ったけれど、泊めてもらっている手前聞くにも聞けず。
まあ気持ちよく眠れたからいっか。
リビングに繋がっている寝室をノックするも
やはり返事は無い。
「入りますよー?」
ガチャとドアノブを回して寝室を見渡す。
けれどそこには空っぽなベッドしかなかった。
「······あれ?いない···」
絶対いないけど、クローゼットの中やベッドの下を覗いても、ハオさんの姿はなかった。
ならどこに行ったのだというのだろう。
思い当たる節は、ありすぎて困った。
昨日あれだけの部屋数を見たのだ。
一つ一つなんかさすがに覚えていないし
ハオさんの行きたいとこなんて····
僕はそこまで考えて、昨日後半に軽く紹介だけされた意味深な部屋のことを思い出した。
〈 絶対入っちゃいけないよ 〉
ハオさんの冷たい眼差しが脳に蘇る
「·······あの部屋かも」
僕は記憶を頼りに廊下を進んだ。
間違ってたら一生出られなくなりそうだ。
そもそもなんで探しに出たんだ僕は
待ってればいいものを···
後悔しながらも確実に進んでいく歩み。
あの部屋がなんなのか知りたいという好奇心も同時に湧いていた。
2階の階段を上がって真っ直ぐすすんだところ。このドアだったと思う。
僕は少し緊張しながら
その扉をノックしようとした時だった。
ガチャッ
音を立てて開いたのは、隣のドア
そして僕を見るやいなや···
「わああああッッ!!!!」
耳を劈く大声が辺りに響き渡った。
その大声の主は他の誰でもない
「ハオさん·····やっぱここにいたんですねㅎㅎ」
いやそんな驚くか···?
とは思ったが入るなって言ってたくらいだから相当気を使ってこの部屋に入っていたのだろう。
「今入ろうとしてたでしょ···ダメって言ったよね?まあそこは服飾室だけど。」
ハオさんが指さした先、ドアノブにかけた手。
僕は慌ててそのドアノブから手を引いた。
恥ずかしい····
「···ここに用があったんですよ!」
「嘘つけ···ㅋㅋㅋ」
「ねえなんで笑うんですか!
ごめんなさいって···ㅋㅋㅋㅋ」
「ふふ···ㅋㅋごめん、ご飯食べに行こう」
ハオさんは僕の手を引いて
長い足で廊下を進んで行った。
先程のリビングに戻って簡単に朝食を作る。
ポタージュスープとバターを乗せたきつね色のトーストを前に、僕達は手を合わせて食べ始めた。
こういうシンプルな朝食がおいしいんだよな〜、
僕は食べながらさっきの事を考えていた。
ハオさんが出てきたあの部屋···
中が暗くてよく見えなかったけど
そこで何をしていたんだろう。
気になった僕はトーストをちぎりながら聞いた。
「さっきあそこで何をしてたんですか?」
ハオさんはその問いに
うげ、と嫌そうな顔をしたけれど
ポタージュをかき混ぜながら渋々と話した。
「···夢日記って知ってる?」
「夢日記···分からないです。」
聞きなれない単語に首を振る。
ただの日記とはどう違うのだろう
「夢ってさ、不思議と起きたら忘れちゃうでしょ?」
「そうですね、今日見た夢思い出せません」
「でしょ?その夢を記録するのが夢日記。
僕はそれを書くのが習慣なの。」
「ふうん····夢を覚えておくため···」
僕はポタージュを啜り
自分から聞いたわりには興味無さそうに返した。
なんのためにかも気になったが
露骨にこれ以上聞くなオーラを放つハオさんに
しつこく聞くことなんてできなかった。
少し気まずい朝食になってしまい
ハンビンはモヤモヤしたままお皿を片付けた。
「ハオさん!外、行きましょう!」
「すごく生き生きしてるね····Eでしょ···」
「はい!Eです!行こう!」
「はいはいちょっと待って」
ハオさんは皿洗いをして濡れた手をぴっと払って
僕に両手を差し出した。
········?
なぜ、手···?
「ん········?」
「はやく、手。お手。」
「犬じゃないんですから···」
ハオさんの意図が分からないままその手に自分の手のひらを重ねる。
冷たく湿った手のひらが
じんわりと馴染んでいく。
「じゃあ行くよ」
カッ
「····っ、!!」
突然目の前が真っ白に眩く光
僕は思わず目を瞑った。
何この光···っ!まぶし····っ、!
そしてまぶたの向こうの光が弱まったと思えば
鼻いっぱいに、甘い花の匂いが抜けた。
おずおずと目を開くと
「·······う、わぁ········!?」
目の前にそれはそれは綺麗な花畑が広がっていた。
紛れもなく、昨日の朝
窓の外から見たあの景色だ。
果てしなく続く美しい花たち。
ここが現実世界だとすら思えなくなるような光景。
···って、そうだ、現実世界なんだよ!
「ハオさん····!?ここ、···え、····いま···え、?」
「ふはっ!面白い顔。
言ったじゃん僕魔法使いだって。」
いつの間にか日傘をさしたハオさんが
楽しそうに笑った。
いや魔法って···しかもいつのまにか僕の服まで変わってるし······本当に、魔法使いだったのか···??
僕は信じられないけど信じざるを得ないという状況に置かれ、更に困惑した。
でも手を握っただけで外に移動したのも
気づいたら服を着替えていたのも事実だった。
「そんなの···信じられるわけなかったんですよ!?すごい····!!」
「まだ信じてくれてなかったんだ?」
ハオさんは頬を膨らまして下唇をつきだした。
拗ねた時のお決まりの表情に、僕は苦笑を漏らした。
「今からソンハンビナにソンムルを作る」
急にそう言ったハオさんは
その場にしゃがみこんで花を摘み始めた。
邪魔そうな日傘を持ってあげ
その様子をじっと見つめる。
慣れない手つきで頑張って茎を編み、数十分後にできあがったそれは、あまりにも不格好な花冠だった。
青を基調として、遊び心にオレンジや黄色の花があしらわれたたそれを
白く細い手で僕の頭に被せると
ハオさんはかわいいなんて言って笑って
僕の横髪を耳にかけてなぞった。
馴れ馴れしい人は苦手だ。
でもなぜか、ハオさんの馴れ馴れしさは
まるで昔からこうされてきたかのように
すっと受け入れられてしまう。
不思議だ。僕はこの人を知らないはずなのに。
「·····かわいいのはハオさんですよ」
「僕は関係ないでしょ!ハンビニはぁまだアギだから似合うんだよ」
「僕もう高校生ですよ〜···」
壊れ物を触るように頭の上の花冠に触れる。
きっと一生の宝物にすると思う。
僕もしゃがみこみ、見様見真似で
足元にあるきれいな花を摘んだ。
赤、オレンジ、白
情熱的でエネルギーが湧くような色と
儚さを醸し出す白の小さくかわいらしい花。
ハオさんを思って作ったその花冠は少し汚いけど
あれよりはマシだろう。
僕はふわふわとした髪にそっと花冠を添えた。
花畑でこんなふうに男二人で遊ぶなんて相当馬鹿げている。だからハオさんといるだけでこんなにも楽しいなんてきっとおかしい。
僕の作った花冠を被ったハオさんは
より一層美しさを増したように見えた。
そして、乗せられた花冠に華奢な手を添えた。
「はんびな·····僕今、すっごく····
행복해」
美しく笑った彼は
本当に妖精かと思った。
幸せそうに微笑むその顔に胸が苦しくなる。
なんでだろう。今、無性に····
「·····っはんびな、!?」
僕はハオさんを抱きしめた。
落ちそうになった日傘を持ち直して、ハオさんは困惑したように目をぱちくりとさせた。
居なくなってしまうかと思った。
そういう気がした。
「いやだ·····いかないで·········」
消え入りそうな声でそう呟いた言葉は
果たして彼に聞こえてただろうか。
この言葉は誰が言ったのだろうか
キーンと耳鳴りがして僕は歯を食いしばった。
僕じゃない誰かが、今言葉を紡いだ。
抱きしめていた力を弱めて
彼の体を離すと、彼は泣いていた。
「ハン、ビナ····?」
僕の肩を持って顔をずいと近づける。
僕を呼んでるはずなのに
彼の瞳は僕の奥を覗いていた。
その涙を流させているのは、誰だ。
僕の瞳をしばらく見つめて
やっと焦点があった頃には
彼の涙は止まっていた。
「···お家帰りましょう、ヒョン」
「ヒョン···」
「嫌、でした?」
今までヒョンと呼ぶのに
抵抗があったわけではない。
ただ、今僕の中の敵対心が、彼をそう呼ばせた。
「···ううん、嬉しい。」
ハオさんはまた妖精のように微笑んだ。
「その笑顔が好きです。ハオヒョンの幸せの顔」
「え、これ?」
「ぷっ、ちが····ㅋㅋㅋ」
「何が違うの!?ほら!笑顔!」
「なんか引き攣ってます!ㅋㅋㅋㅋ
あに···ㅋㅋㅋㅋだめだ···ㅋㅋㅋ」
「なんでー!笑顔じゃん···ㅋㅋㅋ」
「ああ···ㅋㅋでもその楽しそうな笑顔も好きですよ」
「···っ!っの、ほんとにひとたらし!///」
あんまり楽しくて、気がつけば日が傾いていた。
ハオヒョンの顔が赤いのは夕日のせいだろうか
それとも、
「····パーボ」
また下唇を突き出して
ハオヒョンは僕を見つめた。
その瞬間の空気感に僕は心臓が高なった。
ぷりっとした唇、赤く色づいた頬、シャープな輪郭
全てのパーツをなぞるように視線で追って
僕は無意識にハオヒョンの頬に手を添えていた。
「ハオヒョン·····」
そして顔を近づけて、瞼を閉じかけた時
キラッ
「!!」
視界に飛び込んできた眩い光に
思わず一歩退いた。
ハオさんの指に光る指輪
まるで牽制されてると思った。
僕はこの人に、なにを······
僕は自分の唇に指を添えて俯いた。
そんな僕の様子を見て
少し悲しそうな顔をしたハオヒョンが手を差し出した。
「·····帰ろう」
その日の夜、僕はよく眠れなかった。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。