囚われのメイド
硬いさびた鉄の檻の中で。
うずくまって泣いてるの。
メイドの叫びは誰にも届かない。
……ここから連れ出してよ。
私を自由にして。
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海人に握られている右手。
温かくて……温かすぎて。
声が出ないよ……。
あなたが私を引っ張ってくれる。
私の前を歩いてくれる。
暗闇の中で
ただ一筋輝く、光なの。
檻も鍵も柵も全て壊して。
私の手だけを握ってよ。
……どうしてメイドはご主人様に仕えていると思う?
辛いはずの仕事を、どうして投げ出さないと思う?
いつも命令ばかりのご主人様。
いつも助けてくれないけど。
メイドが本当に辛いとき……。
1番に救ってくれたのは、ご主人様だから。
メイドはご主人様に救われたの。
暗闇の中。
泣いていたメイドの前に現れたのは
光を放ったご主人様だった。
冷たいメイドの手を握って。
檻も鍵も全て壊して。
二人で逃げた。
ねえ、ご主人様。
あなたは私に命令ばかりだけど。
……ずっとそばにいてくれてる。
海人は私と繋がれている手を見て、初めて手を繋いでいたことに自覚したみたい。
パッと二人の手が離れる。
私の手がどんどん冷たくなっていく。
……しょうがないよ。
私は海人の彼女じゃないんだから。
海人……何か言いかけてたけど。
あまり突っ込むのも、よくないかな。
確かに。
愛音ちゃんは、誰とでもすぐに仲良くなれそう。
私と海人は並んで歩く。
学校は、いつもと違ってカラフルで。
いろんな匂いと、会話が混ざった空間。
文化祭って……楽しいな。
私は人生で初めて。
そう思うことができたんだ。
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海人が自分で選んだ道ならば。
私はその道を進む海人の後ろ姿を、見守ってる。
海人が最後まで、幸せでいられるように。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。