第7話

06 : きらめく真紅
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2026/01/13 12:10 更新


あなた
   今からパパッと作っちゃうから   
ゆっくり待っててくださいな

   そう言ってお兄さんをダイニングに座らせて、
私はまたキッチンへとぱっぱと戻った。

どう見ても高そうなマントを
この古びた木の椅子のささくれで
つついてしまわないかドキドキしつつ、
『床に座らせるよりはだいぶマシだ』と信じる。

ずいぶん重くなってしまった買い物用の木の籠を
持ち上げて、テーブルに置く。
上にかかったギンガムチェックのクロスを
さっと退けて、おじさんにもらった林檎を
手に取った。

あなた
   あ〜、こりゃまた
ちゃんとほんとに見た目の悪い…

   いくら新鮮とは言えど、いくら安値だと言えど、
お客用と考えるとなんだか気の引けるくらいの
傷がついている。
少し青みがかった熟しかけの林檎なら
アップルパイにすればいい話だけれど、その中には
生で食べるにもアップルパイにするにも遅すぎる
熟しすぎな林檎も入っていた。

見た目が悪いならまあいいか、と思ったけれど…
これは随分。中々に。

Kzh
   エこれ、食べれるやつ?   
あなた
   わっ!?   

   林檎と睨めっこしてたからなのか、
お兄さんの気配が薄いのか…いや、
こんなゴテゴテな見た目で気配がないわけないので
これは私のせいとするけれど、
お兄さんが背後にいたことに気づいていなかった。

突然視界の端に銀色の髪がきらめいて、
耳元から低くも高くもな聴きなれない上品な声が
聞こえてきてしまったから、それはそれは驚いた。

勢いのまま林檎をどこかに飛ばして
しまわないように、ぎゅっと手元に力を入れながら
お兄さんから距離を取ろうと後ろに足を伸ばす。

あなた
   流石に食べれはするだろうけど…
あんまり見た目がよくなくて。
味は美味しいと思うから、ごめんね?

   なんだかお坊ちゃまそうなお兄さんのことだ、
もしかしたらこんなボコボコで貧相な林檎は
食べたことがなくて不安なのかもしれない。

空けた隙間が埋まらないのを見ては
なぜだかちょっぴり安心しながら、
私は林檎を汲んであるバケツの井戸水で
洗おうと流しに林檎を並べる。

Kzh
   なあ、ちょっとその林檎貸して   

   その時、お兄さんは少し間の空いた場所に立つ
私の背中に向けて、そう言った。
大きくも小さくもない、
何を考えてるのだか分かんないような声で、
私を呼んだ。

何も分からないまま、好奇心に逆らえなくて、
私はつい、お兄さんに林檎を渡してしまった。

Kzh
   ROSSO   

   お兄さんがそう呟いた途端、
高級そうで上品なデザインの黒のジャケットを
きらめいた光の線がくるくると辿り出した。

そのまま光の束となったものは、
お兄さんの手の中にある凸凹の林檎を包み込み、
目が眩むほどに眩しい光を出した。

それがなんなのか、もう分かってしまった。

あなた
   ( 魔法だ )   

   輝きが落ち着いてきたのを感じてから、
ゆっくりと瞼を開けた。
すると光がほろほろと形を崩して、
空気の中に混ざり戻っていく姿が見えた。

光の隙間から顔を出した林檎の肌は
硝子と違って光を通さなかったけれど、
それはそれは綺麗な深い赤色をしていた。

ここが白雪姫だったらきっとこれに毒があった、
って思ってしまうくらいの美しい艶めきが
太陽の光を一つも溢さずに反射させていた。



   諏訪さんスポットライトありがとうございます🎶

なんとなく書き方を変えてみたのですが、
前の方がよかったら教えてください🥲✋🏻

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