第42話

はじめての砂浜
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2024/12/27 12:28 更新
 離島で入国手続きが必要かと思いきや、その制度は廃止されたようだ。
トーマ
そのまま入っちゃって大丈夫だよ
 茶屋にいた好青年はそういった。
あなた
本当に久しぶりに帰ってきたんじゃない?
放浪者
もう帰ることもないと思っていたよ
 あなたの放浪者の名前は懐かしそうに目を細める。
 一応彼の故郷であるわけだし、きっと心の中で思い出を振り返っているのだろう。
あなた
先にどっか寄る?
放浪者
いや、先に家に行ってみよう
 あなたの放浪者の名前は私の手を引いて歩き始めた。
 懐かしい道のりを歩んでいくと、見覚えのある砂浜にたどり着く。
あなた
……ここ、もしかして
放浪者
僕と君が初めて出会った場所
 忘れたかい、とあなたの放浪者の名前は困った顔をする。
あなた
忘れたわけないでしょ
 あの時君に助けてもらっていなければきっと私はここに存在していなかったのだから。
あなた
あなたの放浪者の名前に助けてもらったばっかりの時はこんな関係になるなんて思ってもなかったな
 もっとも、自分が幸福になっている未来など到底思い描けなかっただろう。
放浪者
それは随分幸せになったものだね
 まるで心を読んだかのような返事に少し驚きながら私とあなたの放浪者の名前は延々と続く海を眺めていた。
 
 思い出話に花を咲かせているうちに時間はどんどんとすぎていき、風が寒くなってきた。
放浪者
……そろそろ家に行こうか
 立ち上がったあなたの放浪者の名前がさりげなく私に手を差し出す。
 彼の手を借りて立ち上がり、私たちは再び歩み始める。
 この砂浜から家はそう遠くなかったはずだ。
あなた
だいぶ荒れてるかと思ったけど、そんなことなかったね
 少なくとも1年以上はこの家を離れていたはずなのに家の状態は手とても良好なまま保存されていた。
放浪者
そうだね
 カラカラと扉を開いて中に入っていく。
 厨房の棚を開くと懐かしい茶器が出てきた。そういえばこれも置きっぱなしだったな。
放浪者
ひとまず片付けから始めるか
あなた
外側は綺麗だとしても中はねー……
 至る所に埃が積もって泊まるどころの話ではない。
あなた
ぱぱっとやろっか
 こうして一夜かけてお掃除大作戦が始まった。
 人形である私たちは食事睡眠を取らなくても一切問題がないので、ある意味私たちにしかできないことかもしれない。
あなた
手分けしてやったほうが効率良いかな
放浪者
かなり広いからね
 まずは二手に分かれることにした。
 あなたの放浪者の名前には自分の部屋と居間、客間、あとは廊下を少し。
 私はそれ以外の場所と廊下、自室など。
 あなたの放浪者の名前、私を拾う前は一人でここに住んでいたのだろうか。
 ふと彼の過去について考える。
 スメールで彼が何かしらの変化をしたことは知っているが、具体的にどのように変化をしたのか正直私にはわかっていなかった。
 蛍ちゃんはきっと知っているのだろうけれど、あなたの放浪者の名前のことだからきっと私が彼女に何を聞いても答えないようにと釘を刺しているだろう。
 私とて無理矢理彼の過去を暴きたいわけじゃない。ただの好奇心だけでは触れていけない領域がある。
 恋仲になったとはいえど、やはりある程度の線引きはしなくてはならないと思っている。
 たとえ彼にどのような過去があったとしても、私は彼から逃げ出すことはない。
 私が好きなのは今のあなたの放浪者の名前で会って、過去の彼ではない。
 それは残酷なことなのかもしれない。けれどそれは事実だ。
 幼い彼が好きなわけでも、裏切られ傷ついた彼が好きなわけでもない。
 彼が時折見せてくれる表情や、感情が愛おしくて、側にいたいと思ったから今この場にいるのだ。
あなた
……ふぅ、あとは自分の部屋か
 明け方近くになり自室以外の掃除が完了した。
 ゆっくりと自室へ足を運んでいると庭先に一輪の花が咲いているのが目に入る。
 あなたの放浪者の名前は花なんて植えていたのだろうか。
あなた
……あれ、この花
 見覚えのある紫色の花だった。確か、杜若カキツバタ。不意にこの花を植えたのが自分であることを思い出す。
 花言葉は忘れてしまったけれど、彼の瞳の色によく似ていて私がこっそりと植えたのだった。
 再び回想していると、背後に誰かが近づいたのを感じ取った。
 振り向くと、そこには一人の女性がいた。
あなたは……
ここに住んでいるのですか?
 その女性の顔にはなぜか見覚えがあった。
 そう、まるで彼が女性になったかのような錯覚ーー。
……何か、私の顔についていますか?
 あまりにも顔を見過ぎていたのか不思議な表情をされた。
あなた
あ、すいません
 謝罪を述べて頭を下げる。
あなた
ここは私の家ではなく、恋人の家です
そうなんですね……
 しばらく沈黙が場を満たす。正直、とても居心地が悪い。
 私とその女性は初対面だし、女性の目的もわからない。
 そういえば先程顔を見つめていたときにも感じたけれど、女性の瞳は紫色だった。
 ちょうどそこで咲いている花のような。
 もしかしたら、という一抹の期待が胸に宿るけれどそれを聞くのは女性にも彼にもよろしくないように思えて胸の中にしまっておくことにした。
あなた
ところで、あなたはどうしてここへ?
ここの土地を所有している方に確認したいことがありまして
 それならこの女性はなぜ庭にいたのか、と余計なことまで思考しそうになるが意識的に思考を打ち切る。
あなた
……呼んできましょうか?
それでは、お願いします
私はここで待っているので
 私は一礼してから女性の元を離れ、あなたの放浪者の名前を探し始めた。

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