第865話

むかし 大事なふたり。
2,864
2024/06/18 13:44





あれから、、 ユルと時間を過ごしたあの日から
僕はオーナーの店に行けなくて。

毎日のように
あの人の取り立てをそばで見せられる僕は
オーナーのお店に行く、なんて余裕はなかった。

泣き声に、痛みに呻く声、、
許して下さい、って声が
取り立てをした後も頭に響いて、
頭が追いつかなかったんだ。

家に帰って寝ているオンマの顔を見ても
なんの感情も湧かなくて、、
逃げたくて でも逃げられなくて。

悔しくて、
あの男が怖くて後ろで見てるだけの
何もできない僕が悔しくて。



自分の無力を痛感した。
ほんとに痛いほどに。






久しぶりにオーナーのお店に行った。

その日は家へ尋ねるとちゃんと返済をしてくれて
何事もなく取り立てが終わったから。


オーナー)
久しぶりだな。

そうかも、、

オーナー)
何かあったのか?

ううん、仕事が忙しかっただけ。

オーナー)
ならいいけどよ。

、、こないだはありがとう。

オーナー)
こないだ?

こないだ、、でもないか。
ちょっと前、

オーナー)
あー、、 お前なぁ、
女性に向かってあの態度は、

わかってる。
わかってるんだ、、

オーナー)
まぁ、あれはあれでいいんじゃないか?

どこが?
ちょっかいかけて、、 子供みたいだったでしょ?

オーナー)
だけど、、 楽しかったろ?
お前 笑ってた。

うん、、楽しかった。
あの人さ、前に会ったことがあるの。
5年前、

オーナー)
5年前? よく覚えてたな?

まぁ、、うん。

オーナー)
なんだよ、一目惚れってやつか?

一目惚れ、、 かは わかんないけど、
オーナーには話したと思うよ。
僕がクビにさせちゃった、、 あの、

オーナー)
あぁ! あー、、 なんだっけ、
酒を出さなかったクリーニングの!

あははっ、そうそう。 その子、があの人。

オーナー)
よく覚えてたな、、

忘れられなかったから。

オーナー)
それは 惚れたからか?

うーん、、 最悪な日に
少しだけ気持ちを軽くしてくれたから かな。

オーナー)
あの子に救われたって事か?

たぶんそう、
でもオーナーもだよ?

オーナー)
ん? 俺か?

あの日は、、 オーナーとあの人に救われた。

オーナー)
なぁ、お前さ


ギィィィィ、、

オーナー)
いらっしゃい。

客)
一杯だけ飲んで帰ろうかなって、

オーナー)
お疲れ様。 珍しいね、こんな時間に、、



本当にあの日は、、
オーナーとあの人に救われたんだ、、僕は。




ねぇユル?

きっとユルは知らないよね?
僕はオーナーとユル、、
ふたりに生かされてた。

たまに話すオーナーとのやり取りと、
目を閉じると思い出せるユルの笑った顔。
このふたつ。

それは今も変わらない。

オーナーは、、元気でいるかな。
僕はもうオーナーに会う資格なんてない、、
オーナーには、、 ずっと

昔のままの僕で、
オーナーだけには 今の僕を知られたくない。



だって 今の僕は
オーナーと話ができるような いい人間じゃない。

















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