ライブのリハが始まった。
今日は朝から珍しく佐野の調子が悪い。
「さのー?どしたー?」
「すみません、別になんもないです」
ご機嫌ななめのようで目も合わせない。
そーいう時はほっとくのが1番やな。
小島と目配せしてそっと離れた。
リハーサル終わり、
「誠也くん、ちょっと話あるんすけど」
きたきた、ふだん大人ぶってる佐野からの相談?に嬉しくなって
「じゃあ飯でも食いいく?」
「はい」
ちょっと深刻そうなので行きつけの店の個室を予約した。
「腹いっぱいなったん?」
「はい」
「どーしたよ?なんかあったんか?」
「リハーサル」
「あー、調子悪そうやったなぁ」
「ちがう、そのリハーサルやなくて……」
「なに?どのリハーサル?」
「正門くんと結婚式」
ぼそぼそと一言一言しゃべるから理解するまで時間がかかる。
どうやら沖縄ロケの結婚式のリハーサルの事らしい。
昨日放送みたんか。
「まったく……おまえが調子にのってリハーサルや言うてあおってきやがって」
「はじめて、カメラ好きになったの後悔したわ」
「どゆこと?」
「あーもう!俺が誠也くんとバージンロード歩きたかった!俺が誠也くんのベール捲りたかった!俺が誠也くんとちゅーしたかった!」
いや、俺正門とはちゅーしてへんぞ
「昨日放送みてムカムカしてきて、イライラして、なんであんなあおってんねんって自分に頭きて」
「そんなん知らんわ。おまえのせいで正門もその気になって好きかもとか言い出したから、思わずおまえの腕つかんでもうたわ」
「うん、それは可愛いかった♡」
「可愛いちゃうわ」
「やからね、あのリハーサルの続き俺として」
あーそういう事ね。
まぁ、可愛いとこあるやん。
「沖縄行きたいん?」
俺はわざと的はずれな事を言う。
「もーいじわるすんなや、みんなの前でちゅーしたいん!」
「あほか!するわけないやろ、しかも声でかいわ!」
「じゃあここでして。個室やからいいやろ」
こういう時ばっかり、最年少パワー使ってわがまま言ってくる。
「ちょっとトイレ」
「えっ、今?」
俺は立ち上がり、佐野の肩に手を置いてほっぺにチュッとしてやった。
「続きはうちでな」
呆然とした佐野の顔を見て笑いが込み上げてきた。
俺やってたまにはやったるねん。
いつも佐野に不意打ちくらわされてるだけじゃつまらんもん。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!