『 今、欧州の国々は皆想い人がいるらしい 』
___何時からか流れていた噂、
特段 気にも留めていなかったのだが。
昼休憩の間に聞こえてきた会話。
なんとなく関心が湧いて、耳を傾けた。
しばらく イタリアさんの催促だけが続く。
昼食も食べ終わっていないのに
何を集中しているのか、馬鹿馬鹿しいけれど。
イタリアさんと私の声が重なる。
ドイツさんの方へ目をやると、
視線を逸らし 薄く夕焼けに染まる顔が見えた。
あの顔、態度、…嫌でも察しがつく。
昼食を摂る時間を削ってまで
聞きたかったことのはずなのに。
私の視線は自然と彼の所作に向く。
伏せる瞳も、書類を書くのも。
美術館の展示物を見ているような気さえしてくる。
『 展示物には触れてはいけない 』
そんな当たり前のことを思い出す。
私には彼の好きな人なんて関係ないし、
彼と特別仲が良い訳でもないのに。
気分が晴れない。
横目で2人を見る。
曖昧な答えにモヤモヤしているだけだから。
_____そう、気持ちに蓋をして
アメリカさんのもとへ足を進めた。
アメリカさんとの用事も会議も終わって、
気付けば定時直前。
この会社は大半 定時の前には帰る人ばかりで、
今ここにいるのは私だけ____
情けない声を出してしまった、
まさかこの時間に人が居るとは…。
戻ってタイムカードを押して、ぼんやりと考える。
普段タイムカードを押し忘れることなんて
ないのに、余程疲れていたのか?
考え事をしながら帰路へつこうとすると、
ほんのり冷たい温度が手から伝わった。
後ろを振り返ると、
少しだけ困った顔をするドイツさんがいた。
早々と帰ってしまったかと思っていた。
彼は、定時までには必ず帰るから。
約束を取り付けておかなければ、そそくさと
誰を待つことなく帰ってしまうというドイツさんが?
気まずそうに目線を伏せるドイツさん。
__私の背がドイツさんより高かったなら
上目遣いだったんだろうな。
たとえば、ロシアさんとか。
なんだか、ほんの少しだけ羨ましいな。
月明かりが闇を濡らしていく。
やはり金曜日だからだろう、今歩いている道から
僅かに視線を外せば すぐに華々しい街が視界に入る。
昼間も質問されたな、と悩む素振りを見せてから
こちらへ顔を向ける。
そう言うとほぼ同時に、互いの手が触れ合う。
冷えた手が、指が絡み合っていく。
いきなりどうしたんだ、この人。
それに、手が気になって思考に集中できないし__
ふわりと柔らかく笑って、
開始の合図が耳に入る。
候補は2、3人居るけど…1番
可能性が高いのはこの人だろう、そう思い口を開く。
数秒、それ以上に長く感じた間が空いて、
次に聞こえた言葉は、
の3文字だった。
予想外の回答すぎて拍子抜けする。
でもタイムリミットは30秒、
もう一つ質問すれば分かるはず。
これは確定では?
時間内に言おうとし、
咄嗟に候補に挙がっていた国名を告げる。
手を握りなおして、再び歩き出す。
予想外だ、と付け加える。
…ん?さりげなく手を繋いでるけど、
ドイツさんって手を繋ぐような人柄でしたっけ?
あれ、もしかして…
いや、思い上がりだ、思い込みはだめだ。
思い上がりすぎれば後悔するのは
痛いほど知ってるんだから。
“ 日本 ” 。
策士な人って、正直 どう思いますか?
イタリアが身振り手振りを大袈裟にして、
ドイツに問い質す。
『 なんかさ、君ってずるいね。 』
企画分の更新予定:あと59話















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!