果てしなく広がる青空の下、
曇った顔の呪術師が小さなため息をついた。
「仕事、辞めようかな。」
と、空を見上げる。
この呪術師と言う仕事に飽き飽きしている。
家からの風当たりは強く、はやく成果を出せと急かしてくる。
いわゆる、そう言う家系なので呪術師になるのは確定事項だった。
実際なっては、みたものの輝く自分を見出せない。
辞めようと思ってもやりたい仕事はないので結局、渋々続けている。
「今日の任務はなんだっけ。」
手渡された資料を見る。
難しいことは苦手なのでざっと目を通す。
「…共同任務か。」
一級術師との共同任務。
これは相当な案件だろう。
おそらく一級呪霊だと思われる。
しかし二級術師の毒嶌三に一級案件はナンセンスだ。
式神の慈雨と現場に向かうことにした。
「じゃ、頑張りますか。」
慈雨「鬆大シオ繧翫∪縺励g縺」
「そうだね。」
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集合場所はある建物の前。
思ったよりも近場で、早く着いてしまった。
街ゆく人々を横目に時間まで待つ。
しばらくすると誰かが声をかけてきた。
「あなたが今回のお相手でしょうか。」
そちらを見遣ると、スーツで身を固めた男の人が立っていた。
どこかで会った気がするな…と思っていると。
古い記憶がフラッシュバックしてきた。
「あれ、七海さん?!」
先輩の姿だった。高専時代とは風格が変わっていたので
すぐに気づけなかった。
「君は…」
「毒嶌です!」
「ああ。お久しぶりです。」
「随分形が変わりましたね。」
「それは君もでしょう。」
「いやぁ、まさか七海さんだとは思いませんでした。」
「私も毒嶌…くんだとは思いませんでした。」
「あ、呼び辛かったら名前でいいですよ!」
「そうですね。三さん。行きますか。」
「はい!」
久々に出会った先輩は見るからに大人というか、
一段とかっこよくなっていた。
まじまじと見ていると目があった、気がする。
目はサングラスの下で見えやしないけど。
「何か顔についてますか?」
「い、いえ!なんでもないですよ!
それより今回の任務は?」
やはり気づかれていたみたいだ。少々動揺しながら任務の詳細を聞く。
「これから行くところは地下道です。変死体の事件が増加しているようで。
窓からの呪霊の目撃情報がありました。」
「階級は分かっているんですか?」
「それが、判明しておらず私達に任された感じです。」
「俺じゃ力不足だと思うんですけどね…。」
「自虐的ですね。何級ですか?」
「二級です。」
「意外ですね。三さんは領域展開に成功したと聞きましたが。」
「え、なぜそれを。」
「ちゃらんぽらん…五条さんから耳にしました。」
五条さん。確かに話したな。と思い出す。
「あの人ほんと口軽いんだから…。でも未完成です。」
「一級以上の実力をお持ちかと見受けられたのですが。二級だったのですね。」
「家がうるさいんです。俺自身も階級上げようとは思ってません。」
「なぜ?未完成でも、できたのなら推薦もらえるでしょう。」
「辞めようと思ってるんです。」
「なるほど。」
「でも、行く先もないので続けてます。」
「ご存知かもしれませんが私は、一回辞めました。」
「そういえば、噂で耳に。」
「結局、戻りましたけどね。」
「上手くいかなかったんですか?」
「いえ、ただ呪術師と同じくらいクソだっただけです。
同じクソなら適性のある方を。」
「な、なるほど…」
「よく考えてから辞めた方がいいかもしれませんね。」
「そうですね…。」
「着きましたよ。ここの地下道です。」
指差した方を見ると線路下の地下道だった。
薄暗く、不気味な雰囲気だ。
湿度が高いのか床や天井は湿っている。
時折、上を通る電車が地下を揺らす。
「見るからに気味が悪いですね。」
「ここの奥に潜んでいるとか。
呪霊は基本、定位置からは動きませんのですぐ見つかるはずです。」
「じゃあ、さっそく。慈雨を先行に。」
懐から慈雨を出すと、体を大きくして人間の背丈ほどに身を伸ばした。
「莉サ縺帙※縺上□縺輔>」
スルスルと長い身体を引きずりながら進む。
先行にしたのは呪霊が近づくと教えてくれるからだ。
あと遠距離攻撃への備え。
周りに気を配りながら残穢を追う。
「式神ですか。」
「ええ。代々受け継いでいる式神です。」
「心強いですね。」
「慈雨のお陰で助かってます。」
しばらく練り歩くと、慈雨が反応を示した。
「蜻ェ髴翫�豌鈴�縺後@縺セ縺」
「近いそうです。」
「気張っていきましょう。」
「はい…」
地下道は暗く、点滅している灯りを頼りに視界を広げる。
そして耳を澄ます。

ベチョ。粘り気のある、水音が聞こえる。
天井から滴る水の音でも、一定の時間で落ちていく雫の音でもない。
「七海さん…。」
「ええ。いますね。」
「慈雨、準備を。」
「蛻�°繧翫∪縺励◆」
そう、何かを言うと暗闇に進み
長い身体を更に長くして辺りを囲む。頭は2人の暗がりの後ろに。
2人の位置は慈雨が作った輪の中にいる。
『アアアア…カエシテ…カエシテ』
暗闇から呪霊が現れる。おそらく階級は一級。
形ははっきりしていない。腐っているのかドロドロと溶けている。
潰れてしまった目がこちらを睨む。
無数のドロドロとした腕達は何かを掴もうと蠢いている。
サイズは天井よりは低いものの、180cmある毒嶌の身長を越している。
デカイ。恐怖が大きさに比例すると言うが相当だ。
「三さん。手早く済ませましょう。」
「ええ。もちろん。」
腰を落として攻撃体制。
七海は鉈を構える。
『カエシテ!!!』
呪霊がこちらに手を伸ばす。七海が鉈で叩き落とした。
しかし手応えがない。
呪霊は大きな口で剥き出しの歯茎を見せて笑う。
「え、どうして…!?」
「もう1発行きます。」
そう言うと攻撃を避けながら相手の懐へ。
鋭く刻むが全く効かない。
すると刻んだ傷口から手が生え七海を掴む。
『カエセェェエエェェェェエエエエ!』
「七海さん!!!」
「クソッ…」
身体を動かす。七海の元へ走り込み
携帯していた呪具で腕をはたき落とした。
相手は少し怯んだものの、びくともしない。
2人は呪霊から距離を取る。
「七海さんの攻撃が効かなかった…」
「形がはっきりしていないからでしょう。
私の術式は相手に7:3の比率で必ず急所を作り出す。しかし、相手は液状。
形は見かけだけではっきりしていない。故に急所を作ったところで無駄。」
「それじゃあ…」
どうしよう。一級の彼の攻撃が通用しない。
なら、尚更自分の攻撃は絶対効かない。
「三君。君の力が必要です。」
「で、も。」
「君は呪術師です。躊躇う理由なんてありません。」
「…はい。俺の術式は毒気呪法。相手に直接触れることで呪力を流し込み
毒のようなダメージを与えます。毒の種類。強弱と細かい調節が可能。」
術式の開示。これによる縛りで呪力の底上げ。
そして式神慈雨との連携で呪力を辺りに流し込む。
「七海さん。慈雨の頭の近くにいてください。」
「わかりました。」
「行くぞ。呪霊。」
『カエセ!!カエシテ!カエシテ!』
無数の腕をくぐり抜けて間合いを詰める。
本体の核に触れる方が少量の呪力で事足りる。
触れた。呪力を流し込もうとしたが、
ズブズブと手が沈んでいく。
「!?」
慌てて腕を引き抜く。なんだこれ。
呪力は確かに流した。そしてどこかへ消えた。
「はぁ?嘘だろ。触れない。…じゃあ、これは…」
ポケットからある橤の種を取り出す。
向かってきた腕に埋め込んだ。
「毒気呪法。悲狠橤 神経毒樹」
呪力を込める。
種は芽吹き、花を咲かせた。
しかし呪霊は、微動だにしない。
まるで効いていない。元気に蠢いている。
「クソッ…。なんで効かないだよ。」
神経毒樹は殺傷力は低いが相手の動きを止めることが可能。
実際、効果は無し。
「三君。焦らないでください。冷静に。」
「分かってます…。でもまるで効いていない。」
「形は有らずとも、どこか核があるはずです。」
どこかに。
直接触れずとも必ずダメージを与えられる技…。
「アレを、使う時でしょう?」
先輩の助言。
領域展開。が頭に浮かぶ。
必中効果が得られれば一瞬だ。
まだ未完成で絶対と言う保証がない。
「でも、まだ完成してません。
七海さんまで巻き込みます。それは絶対にしたくない。」
「私のことはお気になさらず。やれることをやってください。
ここで逃して、被害者が増えるよりかはマシです。」
「…。」
迷い。恐怖。負の感情が心を取り巻く。
「繧�j縺セ縺励g縺�ゆク峨ゅ≠縺ェ縺溘@縺九>縺ェ縺�」
「慈雨…。じゃあ…頼むよ」
そう言うと慈雨はゆっくり頷いてこういった。
「縺医∴縲ゆク�オキ縺輔s縺ョ縺薙→縺ッ莉サ縺帙※縲」
「ああ。助かるよ。」
「…七海さん。やります。」
「わかりました。」
『カエセェェエェエェ!カエシテ!!遘√�霄ォ菴!』
呪霊の悲鳴を耳にしながら意識を一点に集中する。
「領域展開。蛟竜毒蛇!」
手で呪印を象る。
辺りは薄暗く曇り空の世界。言わば三の心の中。
足元には怖くなるぐらい静かで鏡のような湖が広がっていた。
その湖に打ちつける雨。水面に写った姿を歪める。
呪霊は雨に打たれて更に形が崩れている。核が剥き出しになっている様だ。
そして、見上げるくらいに大きくなった式神の慈雨は
2人の傘となり、守っている。

「雨…。」
「七海螳牙ソ�@縺ヲ縲る岑縺ォ隗ヲ繧後↑縺代l縺ー螟ァ荳亥、ォ縲」
「大丈夫ですか?七海さん。雨には触れてなさそうですね。」
「ええ。慈雨さんのお陰で。」
「雨に触れたもの全てに呪力が必中してしまうので、濡れていなくてよかった。」
「それだと、式神…慈雨さんがやられてしまうのでは?」
「大丈夫です。慈雨は俺の呪力を蓄えるので。」
「なるほど。」
「早く終わらせます。破壊毒波。」
手印を作り。相手に呪力を流し込む。
あっという間に崩れ、消えてしまった。
領域展開終了。
「ハァ…ハァッ…終わった」
体中から汗が吹き出す。息が荒くなる。
呪力消費が激しい。
目も回っていた。
「大丈夫ですか?三君。」
「ハァッ、ハァ…立ってられるの、でやっとです……。」
「肩に掴まってください。」
「ああ…すみませ、ん。」
ここで意識が途切れ、視界が暗転した。
続く












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。