第28話

25.全てが明らかになる時
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2025/01/14 02:00 更新
走馬灯の一部だと思った。だけど実際に、わたしを襲おうとしていた巨大な茨がなぎ倒され、体がひょいっと抱え上げられる。

視界には、目を開けても見覚えのある金色が輝いていた。
ケイティ
ケイティ
(……レオニード!)
レオニード
レオニード
「色々言いたいことはあるのだが、ひとまずは脅威の排除からだな」
ライオンの姿で颯爽と現れた男は、わたしをくわえあげ、茨の群れの中から待避する。
攻撃の届かない所までわたしを運ぶと、ライオンは再び茨に向かっていく。
ケイティ
ケイティ
(お願い、レオニード――お義姉さまを止めて! 助けて!)
レオニード
レオニード
「うむ、任せろ」
その頼もしい後ろ姿に思わず念を送ると、すべてわかっているとでも言いたげな声が返ってくる。

ライオンは茨達の間を駆け、飛び、そして食らいついた。何度見ても彼の戦いは鮮やかで、踊っているようだ。

金属のように硬く、堅牢な城に見えた茨達が、まるで紙のように簡単に引きちぎられる。一本目、二本目、三本目と、みるみるうちに無力化されて剥がされていき――ついには隠れていたはずの、うずくまるお義姉さまの姿が丸見えになった。

彼女は殺気の籠もった目をライオンに向け、ばっと手をかざす――いけない!
ケイティ
ケイティ
(レオニード、危ない! 避けて!)
いくら強い獣人でも、お義姉さまの変身魔法で無力な姿に変えられてしまったら――。

ポンッ! と音が響き渡る。ウサギじゃなかったら、きっとわたしは悲鳴を上げていた。

だけど、魔法使いが手を向けた方には、金髪金目の背の高い男が――普通の人間形態のレオニードが突っ立っていた。
わたしの心の中で上がった渾身の悲鳴が引っ込む。
レオニード
レオニード
「なんだ? オレに魔法をかけようとしているのか?」
アナベル
アナベル
「――っ、あなた、獣人ね! 魔法が効かないの――!?」
レオニード
レオニード
「まあ、オレの素の魔法抵抗力とやらも高いらしいが。よくもまあ、ここまで景気よくポンポンやってくれたものだ。魔力切れになるに決まっておろう」
レオニードは頭をひっかきながら言った。

もう、なんというか……このマイペースと全てを掌握している感、さすが獅子王様の貫禄。

小娘二人を前に、欠伸をしそうな勢いでのんびりとのたまってくれる。
アナベル
アナベル
「魔力切れ……?」
レオニード
レオニード
「知らんのか? 人によって扱える魔法の量は決まっているものだ。一度使っただけでしばらく使えなくなる者もいれば、お前のように一日中暴れ回ることができる者もいる。とはいえ、有限なのだから許容量を過ぎれば切れることには変わらない。ちなみに食べて寝れば回復するらしいぞ」
アナベル
アナベル
「食べて……寝る……」
レオニード
レオニード
「まったく。その分だと、人間世界で魔法使いが大分数を減らしているというのも、本当のことらしいな。なぜオレ達獣人の方が詳しいのだ」
唯一絶対の抵抗手段がなくなったと知ったお義姉さまは、へなへなと崩れ落ちる。レオニードはふん、と鼻を鳴らし、お義姉さまを見下ろした。
レオニード
レオニード
「さて、魔法使いよ。先刻も言ったが、お前は少々暴れすぎた」
アナベル
アナベル
「……殺すのね。さっさとやりなさい」
ケイティ
ケイティ
(レオニード! それは……確かにお義姉さまは迷惑をかけたかもしれないけど、でも……!)
すっかり投げやりになっているお義姉さまとレオニードの間に、わたしは慌てて駆け込む。

見ているだけだったわたしに口を挟む権利なんてないかもだけど、でもお義姉さまが死にそうなら黙っていられない。

すると獅子王はまた、一際呆れたような大きなため息を吐き出した。
レオニード
レオニード
「どうも人間は、未だに我々と魔物を同列にしているらしい……良いか。少なくともこの森で、獣人が人間を殺したことはないのだぞ。見つける前に野垂れ死んでいたら仕方ないが、生きている間に発見できれば、速やかに捕獲して人里にリリースしているとも」
そうだったんだ……!?
衝撃を覚えるけど、一方で納得もする。

獣人達と何日も過ごす前のわたしなら、彼らが人間を害さないと言っても、信じられなかったかもしれない。

でも今は、獣人は狩りはするけど、不必要な殺戮は好まない種族だろう、ということがわかる。スィレル達みたいに、更に穏やかな種族だっているみたいだし。

と同時に、森から無事生還できた人間達から、なんで獣人のいいイメージが伝わってきていないのかも……なんか、わかるかも。

だって喋るライオンに捕獲されるの、びっくりするし怖いもの。善意でグイグイ勧めてくるのは、狩ったばかりの魔物肉とかだし。ちょっと刺激が強すぎるよね……。
レオニード
レオニード
「で、魔法使いよ。お前はその高い魔力ゆえ、いるだけで森の魔物を活性化させてしまう。入り口までは運ぶゆえ、そのまま人里に戻ってくれると、オレ達としてはありがたいのだが……さっき、行く先がないとも言っていたな」
わたしははっと顔を上げた。お義姉さまの目と目が合う。彼女が大きく息を吸った。
アナベル
アナベル
「ええ。わたくしの魔法は、ものを変身させる魔法なの。今まで人間に使ったことはなかったけど、ついにやってしまった。その子ウサギはわたくしの義理の妹よ。だから人間にとって危険なわたくしは、人間の生活圏には戻れないの」
伯爵令嬢は毒気を抜かれたように、なめらかに言葉を繰る。言葉にできて、どこかすっきりしたような顔でもあった。
一方のわたしは、思わず俯く。

……ついに、勘違いが明らかになった。わたしが本当は獣人じゃなくて人間だってことが、レオニードに明かされた。

今までのことから、人間だとわかったからって処刑されるとか、そんな心配はもうない。
ただ……がっかりはしただろう。そんな顔を見たくない。怖くて見られない。それで視線が上げられない。
レオニード
レオニード
「どうした、ケイティ。何を怯えている」
頭の上から降ってくる、もうすっかり耳に馴染んだライオン獣人の声。びくっと体が震える。
レオニード
レオニード
「ああ……さてはオレが掌を返す心配でもしていたな? 安心しろ。出会った瞬間は確信が持てなかったが、初日の夜にはお前が人間だろうということは想像できていたぞ」
……………………。
今、なんて?

びっくりして思わず顔を上げてしまった。
レオニードの表情が――こちらを面白がっている悪い男の表情が見える!
レオニード
レオニード
「何しろ獣人なら誰もが垂涎必須な魔物肉に、繰り返し難色を示していたからな。迷子係のオレにわからんわけがなかろう」
ケイティ
ケイティ
(えっ)
レオニード
レオニード
「しかし本人の意図に反してウサギの姿に変わる様子といい、普通の人間ではなさそうだった。で、側に置いておくのに、訳あり人間と説明するより、ウサギ族扱いした方が都合が良さそうだったのでな」
ケイティ
ケイティ
(ええええええ!?)
レオニード
レオニード
「後はそうさな。オレにバレた!? バレてない! とか右往左往している挙動不審具合を見守るのが……なんというか、愉しかったぞ。お前本当に、嘘のつけない女よな」
ケイティ
ケイティ
(全部わかっていて掌で転がしていたってこと!? なんって性格の悪い――!!)
隠し事をしていた後ろめたさが全部吹っ飛んだ。抗議よ! 断固抗議よ! この数日間のわたしの色んな葛藤はなんだったの!?

ああっ、人間の姿でも叶わないけどウサギ姿だと余計に、文字通り掌で転がされる!
ケイティ
ケイティ
(お義姉さま、なんでわたしのこと、猛獣にしてくれなかったの! 襲ってやるわ! 雌オオカミになって倒してやるのよ!)
アナベル
アナベル
「…………」
心の声が伝わっているお義姉さまが、なんとも言えない顔でこっちを見ている……。っていうか、ため息を吐かれた!?
アナベル
アナベル
「……でも、道理で。ケイティの気配を感じていたから、生きているのはわかっていた。ただ、こんなに魔物の多い森に逃げ込んで、どうして無事でいられたんだろうって……あなたみたいな強い保護者がいたからなのね」
レオニード
レオニード
「弱きものを守るのは、獅子王たるオレの義務だからな。とはいえ、ケイティはただの弱きものではない。小さき心に真の勇気を持った、気高き雌オオカミだ」

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