走馬灯の一部だと思った。だけど実際に、わたしを襲おうとしていた巨大な茨がなぎ倒され、体がひょいっと抱え上げられる。
視界には、目を開けても見覚えのある金色が輝いていた。
ライオンの姿で颯爽と現れた男は、わたしをくわえあげ、茨の群れの中から待避する。
攻撃の届かない所までわたしを運ぶと、ライオンは再び茨に向かっていく。
その頼もしい後ろ姿に思わず念を送ると、すべてわかっているとでも言いたげな声が返ってくる。
ライオンは茨達の間を駆け、飛び、そして食らいついた。何度見ても彼の戦いは鮮やかで、踊っているようだ。
金属のように硬く、堅牢な城に見えた茨達が、まるで紙のように簡単に引きちぎられる。一本目、二本目、三本目と、みるみるうちに無力化されて剥がされていき――ついには隠れていたはずの、うずくまるお義姉さまの姿が丸見えになった。
彼女は殺気の籠もった目をライオンに向け、ばっと手をかざす――いけない!
いくら強い獣人でも、お義姉さまの変身魔法で無力な姿に変えられてしまったら――。
ポンッ! と音が響き渡る。ウサギじゃなかったら、きっとわたしは悲鳴を上げていた。
だけど、魔法使いが手を向けた方には、金髪金目の背の高い男が――普通の人間形態のレオニードが突っ立っていた。
わたしの心の中で上がった渾身の悲鳴が引っ込む。
レオニードは頭をひっかきながら言った。
もう、なんというか……このマイペースと全てを掌握している感、さすが獅子王様の貫禄。
小娘二人を前に、欠伸をしそうな勢いでのんびりとのたまってくれる。
唯一絶対の抵抗手段がなくなったと知ったお義姉さまは、へなへなと崩れ落ちる。レオニードはふん、と鼻を鳴らし、お義姉さまを見下ろした。
すっかり投げやりになっているお義姉さまとレオニードの間に、わたしは慌てて駆け込む。
見ているだけだったわたしに口を挟む権利なんてないかもだけど、でもお義姉さまが死にそうなら黙っていられない。
すると獅子王はまた、一際呆れたような大きなため息を吐き出した。
そうだったんだ……!?
衝撃を覚えるけど、一方で納得もする。
獣人達と何日も過ごす前のわたしなら、彼らが人間を害さないと言っても、信じられなかったかもしれない。
でも今は、獣人は狩りはするけど、不必要な殺戮は好まない種族だろう、ということがわかる。スィレル達みたいに、更に穏やかな種族だっているみたいだし。
と同時に、森から無事生還できた人間達から、なんで獣人のいいイメージが伝わってきていないのかも……なんか、わかるかも。
だって喋るライオンに捕獲されるの、びっくりするし怖いもの。善意でグイグイ勧めてくるのは、狩ったばかりの魔物肉とかだし。ちょっと刺激が強すぎるよね……。
わたしははっと顔を上げた。お義姉さまの目と目が合う。彼女が大きく息を吸った。
伯爵令嬢は毒気を抜かれたように、なめらかに言葉を繰る。言葉にできて、どこかすっきりしたような顔でもあった。
一方のわたしは、思わず俯く。
……ついに、勘違いが明らかになった。わたしが本当は獣人じゃなくて人間だってことが、レオニードに明かされた。
今までのことから、人間だとわかったからって処刑されるとか、そんな心配はもうない。
ただ……がっかりはしただろう。そんな顔を見たくない。怖くて見られない。それで視線が上げられない。
頭の上から降ってくる、もうすっかり耳に馴染んだライオン獣人の声。びくっと体が震える。
……………………。
今、なんて?
びっくりして思わず顔を上げてしまった。
レオニードの表情が――こちらを面白がっている悪い男の表情が見える!
隠し事をしていた後ろめたさが全部吹っ飛んだ。抗議よ! 断固抗議よ! この数日間のわたしの色んな葛藤はなんだったの!?
ああっ、人間の姿でも叶わないけどウサギ姿だと余計に、文字通り掌で転がされる!
心の声が伝わっているお義姉さまが、なんとも言えない顔でこっちを見ている……。っていうか、ため息を吐かれた!?
















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。