人の姿に戻ったわたしがそそくさと物陰に引っ込んで服を着込んでいると、レオニードがお義姉さまにかける言葉が聞こえてくる。
お義姉さまはため息を吐き出した。
相変わらず顔は仏頂面だけど、不思議とどこか憑きものが落ちたように見える。少なくとも、子爵さまの言葉を聞いてからずっと彼女にまとわりついていた嫌な雰囲気は消えていた。
わたしのよく知っている、不器用で人への当たりが強くて……だけどぶっきらぼうな優しさもある、お義姉さまだ。
着替えが終わったけど、なんだか改めて……気まずい。ここでなんて声をかければいいのかわからない。特にレオニード。
正体がバレたら、まずはごめんなさいだと思っていた。許してもらえるかどうかはわからないけど、騙すような形になったこと、謝らなくちゃって。
でも、実は大分前からわかっていたという話だし……。
ここはやっぱり、何度も助けてくれてありがとう、なのかな。
わたしがよし、と口を開こうとした時、先にレオニードが言葉を出す。
あっさりと、あまりにもあっさりと。男はわたしとの別れを口にした。
人間なんだからいつかは獣人達のすみかから出て行かなければならない。それは当たり前のことではあった。だけど……。
わたしは呆然とレオニードを見る。いや睨み付けていた。
そして返ってくる、あまりにも淡々とした冷たい答え。
……何も考えられない。何も考えたくない。
でも、ああ、そういうこと……。
あんなに楽しくて、充実して、やりたいことができる、わたしらしくいられると思ったのは、わたしだけ。
本当に全部勘違いだった。わたしが勝手に一人で思い込んで盛り上がっていた。そういうこと、なの。
でも……。
優しい声。優しい顔。だからすぐに勘違いしてしまいそうになる。
あなたはなんとも思っていない、すぐに別れる相手にそんな態度を取れるの?
レオニードは、彼にしては何かを抑えるような喋り方をしていた。なだめるような、言い聞かせているような口調で続ける。
突き放しているようにも聞こえる言葉だった。だけど……ああ、良かった……こわばっていたわたしの顔は、雪が溶けるように笑みへと変わったことだろう。
マイペースだけど他人をよく見ていて、俺様と思いきや公正。
今まで何度も納得したけど、改めて感じる。
これが獅子王。獣人を統べる長の中の長。
だからこそ、彼は……わたしを人間の一人として認めているからこそ、きっとわたしの意思を尊重しようとしてくれて。
ごくっと唾を飲む。
……わたし、レオニードの言う通り、他人に必要とされてるって思ったら力が出せる。
だけど今は、振り絞った勇気を自分のために使ってあげるんだ。
蚊の鳴くような小さい声。それでもわたしは、自分のしたいことを口にした。わたしにとっては大きな一歩の一言。
レオニードはにぱっと笑い、人なつこい笑みを浮かべた。
そして迎えるように広げられた腕に……わたしは迷わず、飛び込んだ。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。