第30話

27 ケイティの選ぶ道
652
2025/01/28 02:00 更新
レオニード
レオニード
「さて、魔法使いよ。人を呪ってしまったから人里に帰れないとの話だったが、こうなれば問題あるまい?」
人の姿に戻ったわたしがそそくさと物陰に引っ込んで服を着込んでいると、レオニードがお義姉さまにかける言葉が聞こえてくる。
アナベル
アナベル
「そうね。伯爵家に戻らないといけないわ。大騒ぎになっているのだろうし」
お義姉さまはため息を吐き出した。

相変わらず顔は仏頂面だけど、不思議とどこか憑きものが落ちたように見える。少なくとも、子爵さまの言葉を聞いてからずっと彼女にまとわりついていた嫌な雰囲気は消えていた。
わたしのよく知っている、不器用で人への当たりが強くて……だけどぶっきらぼうな優しさもある、お義姉さまだ。

着替えが終わったけど、なんだか改めて……気まずい。ここでなんて声をかければいいのかわからない。特にレオニード。

正体がバレたら、まずはごめんなさいだと思っていた。許してもらえるかどうかはわからないけど、騙すような形になったこと、謝らなくちゃって。

でも、実は大分前からわかっていたという話だし……。

ここはやっぱり、何度も助けてくれてありがとう、なのかな。

わたしがよし、と口を開こうとした時、先にレオニードが言葉を出す。
レオニード
レオニード
「では、これでお前も人里に戻るのだな、ケイティ。魔物の多い森は人間のお前にとって、さぞ心労が絶えなかったことだろう。達者で暮らせよ」
ケイティ
ケイティ
(……え?)
あっさりと、あまりにもあっさりと。男はわたしとの別れを口にした。

人間なんだからいつかは獣人達のすみかから出て行かなければならない。それは当たり前のことではあった。だけど……。
ケイティ
ケイティ
「……なんで」
わたしは呆然とレオニードを見る。いや睨み付けていた。
ケイティ
ケイティ
「そんなにあっさり、別れる、なんて……」
レオニード
レオニード
「人は人の中で。獣は獣の中で。そうやって生きてきただろう? ならばこの先も続けるだけだ」
そして返ってくる、あまりにも淡々とした冷たい答え。

……何も考えられない。何も考えたくない。

でも、ああ、そういうこと……。
あんなに楽しくて、充実して、やりたいことができる、わたしらしくいられると思ったのは、わたしだけ。
本当に全部勘違いだった。わたしが勝手に一人で思い込んで盛り上がっていた。そういうこと、なの。

でも……。
ケイティ
ケイティ
「わたしのこと……嫌いだったの? ううん……好きじゃなかった? わたしが嘘つきだったら? バカだったから? 弱かったから? わたし……」
レオニード
レオニード
「ケイティ。そうではない」
優しい声。優しい顔。だからすぐに勘違いしてしまいそうになる。

あなたはなんとも思っていない、すぐに別れる相手にそんな態度を取れるの?
レオニード
レオニード
「オレはな。この場でオレの望みを口にすべきではないと思う。オレは強い。オレの言葉は、他者を従わせる力を持つ」
レオニードは、彼にしては何かを抑えるような喋り方をしていた。なだめるような、言い聞かせているような口調で続ける。
レオニード
レオニード
「群れのリーダーたる雄獅子は、弱者を守るものだ。だが一方で、群れの良い個性を殺すわけにはいかぬ」
突き放しているようにも聞こえる言葉だった。だけど……ああ、良かった……こわばっていたわたしの顔は、雪が溶けるように笑みへと変わったことだろう。
ケイティ
ケイティ
「……レオニードはレオニード、だね。わたしが本当に弱い迷子のウサギ獣人だったら、問答無用で残れって言う、ってこと?」
レオニード
レオニード
「当然だ。弱者はオレに守られなければならんし、迷子のウサギ獣人であれば、強者たるオレが人生を決めてやる必要がある」
マイペースだけど他人をよく見ていて、俺様と思いきや公正。

今まで何度も納得したけど、改めて感じる。
これが獅子王。獣人を統べる長の中の長。

だからこそ、彼は……わたしを人間の一人として認めているからこそ、きっとわたしの意思を尊重しようとしてくれて。

ごくっと唾を飲む。
……わたし、レオニードの言う通り、他人に必要とされてるって思ったら力が出せる。
だけど今は、振り絞った勇気を自分のために使ってあげるんだ。
ケイティ
ケイティ
「わたし……ここがいい。人間だけど、ここにいたい」
蚊の鳴くような小さい声。それでもわたしは、自分のしたいことを口にした。わたしにとっては大きな一歩の一言。

レオニードはにぱっと笑い、人なつこい笑みを浮かべた。
レオニード
レオニード
「ならば改めて、歓迎するとしよう。――ようこそ、オレ達の森へ。ウサギであり雌オオカミである人間、ケイティよ」
そして迎えるように広げられた腕に……わたしは迷わず、飛び込んだ。

プリ小説オーディオドラマ