ピピッピピッピピッ
アラームの音で目が覚めた。
ベッドから起き上がり、洗面所で顔を洗う。クローゼットから適当に、黒い服と水色のズボンを取り出し身に付ける。
簡素な部屋の中で都筑はそう、呟いた。
いつも通りの、パッとしない日常。
似たような、繰り返しの毎日。
──案外、こういう日々が一番いいのだろう…。
何気なく心の中で呟いて、キッチンへ向かった。
米を洗って炊飯器にセットし、ボタンを押す。待っている間、趣味で書いている小説の設定を書き進めることにした。
課題や授業準備はもう終わっているため、趣味に時間を費やせる。最高だ。
バンッと突然、玄関から激しいノック音が聞こえた。と同時に、平和な日常にそぐわない音も。
体が反射的にビクッと反応する。
執筆の手を止め、ドアスコープから“それ”を見ようと玄関に向かう。
その間もバンッ、ドンッと音は鳴り止まない。
外には誰もいなかった。いつの間にか音も止んでいた。
取っ手に手を掛けたまま下を向き、ホッと一息。
朝から心霊現象か?と少し笑いながら鍵を開け、外を見る。いつもと同じ光景…でも
──変な音がする。
何かが苦しんでいるような、怒っているようなうめき声。部屋の中では聞こえなかった音。
驚くことにあちこちから聞こえてくる。特に下からの音が一番よく聞こえてきた。
ガチャっと隣のドアが開いた。隣の人も外が気になったのだろうか。それともいつものようにゴミ捨てに行くだろうか。
とりあえず、さっきから気になっている変な音の発生源を確認する。外廊下の手すりに両手をのせ、下をのぞく。
状況が理解できずに呆然とその光景を見ていると、左肩に、激痛が走った。
毎日様々な方からかかってくる110番。
どこに繋がるかというと、警察本部通信指令課の110番受理台に繋がる。
県内ならどこからかけてもここで対応するのだ。県境付近は絶対ではないが。
あなたは知っていたであろうか?
ちなみに作者は知らなかった。
私はここに所属している。毎日十人十色な内容の110番に当たっているが、中には稀にとても特殊な内容があり、対応に困るときがある。
対応に困るといえば、最近、イタズラ110番が極端に増えた。これはもはや困るよりも迷惑だ。
先週もイタズラ110番があり、無駄な対応をしなくてはならなかった。そして今日も、ちょっと特殊な内容ではあるものの、イタズラと思われる110番がかかってきた────
…………通話が途切れた。何が起きたんだ?
──つづきさんは大丈夫なのだろうか…。
後日、あのアパートへ行った救急隊員(知り合い)に救急車が到着してからの話を聞いた。
アパートに来たとき、頭に絆創膏を貼っている、傷だらけの大家にまず会ったそうだ。
大家は救急車を見て大層驚いた様子だったらしい。なんたって朝っぱらから救急車がやって来たのだ。驚くことしかないだろう。しかも通報のことを知らないのだ。
都筑さんのことを聞くと、なんと元気に大学へ登校していたらしい。……つまり、そういうことだ。
思わずため息が出る。
通報内容を要約して話すと、不思議そうに、
「そんな変なことはありませんでした。いつもと変わりませんよ。
…………ああ、都筑さんね、彼はとってもいい青年でしたよ。へえ、彼が通報したんですね。彼、趣味で小説を書いているんですよ。あ、もしかしたら小説のネタ作りとか、参考にするために呼んだんですかね~。」
と、話していたらしい。時間的に大家までしか聞けなかったそうだ。だが、聞いてくれただけありがたい。
──それにしてもネタのために通報するとは、なんて馬鹿らしい。通報内容は非現実的ではない内容だったから、やはりあれは十中八九イタズラだったのだろう。
現に他からそんな話は聞いたことないし、そんなもの、見たこと無い。あったらそこかしこでメディアがこぞって話しているだろう。
まあ、中々に凝った通報内容で、SF小説の警察みたいな気分が味わえたので怒りは少しだけ減っていた。迷惑極まりないことには変わらないが、それに免じて、逮捕案件にはしないでおいた。
でも、まさかその通報内容が本当だったなんてこの時は思いもしなかった。だが、この時点で誰が信じたというのだろうか。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!