第10話

9
83
2026/09/15 16:12 更新




何時間も待った。


すれ違う人はこっちを見向きもしない。

何故か、何も見ていないような空気のほうが居心地が良かった。




もう夜。

街は活気溢れてきて、大人達が足並みを揃えて歩いている。



アルコールの匂いとタバコの匂いが鼻を刺す。





あなた
なんでここに来たんだろ、笑



惨めな自分を笑うことしかできなかった。


雨はとっくに止んでいて、今から帰ろうと思えば帰れた。


敢えて近道を選ばない。

行く場所なんて決まっていない。



足を進めて人工的に照らされた道を進む。





「ねね、何してんのー?笑」


「人でこんな時間って家出?笑」

あなた
親居ないんで…


湧くんと年の近い酔っ払いが絡んできた。

もう、怖いとも思わなかった。


どうせ、何もかも終わりにするから。




「へぇー?家来る?」
あなた
めんど…


「はぁ?笑せっかく家に泊まればって言ってあげてんのに笑」

あなた
頼んでない



相手は感情の赴くままに口を開く。


アホらしい。

この人は真面目に生きてこなかったんだな、なんて心のなかで思っていた。



私も同じ人間の1人だ。


私と同じ部類にされて可哀想だけれど。




「おーい、何女の子に手出してんだよ」

「ごめんね、気をつけて帰るんだよ」



酔っ払いの知り合いらしき人が、頭を下げながらその人を連れて行った。






いっそのこと、されるがままになってもよかった。

そのまま消えたら、楽だったのに。










しばらく歩いていれば、日付が変わる頃に家についた。

シャワーを浴びて、テレビをつける。



どこも放送しているのはネットショッピングばかり。



明日、何しようだなんてあるかも分からない未来のことを考える。





学校に行こうか、行ったとて昨日学校を抜け出した事を怒られるのだろう。


あと一ヶ月辛抱すれば、また環境が変わって楽になれるのだろうか。




絶望を目の当たりにしてもなお、期待するのは人間の愚かさなのだろうか。








プルルルプルルル


スマホの振動音を頼りにスマホの場所を探す。


画面を見れば“湧くん”と表示されていた。




あなた
…もし、もし
元木湧
『馬鹿!お前今どこにいる?!』
あなた
家だけど…
元木湧
『はぁ…よかった、学校抜け出したって母さんから連絡来たんだぞッ』
元木湧
『電話も出ねぇし、メッセージ既読つかないし…』



画面を開いて、履歴を見れば不在着信が数十件。


申し訳ないことをした。



元木湧
『…なんで学校抜けたんだよ』
あなた
え、あ…
元木湧
『いいわ、一旦玄関のドア開けて』
あなた
え?
元木湧
開けてくんね?


電話越しではなく、はっきりと聞こえた扉越しの声。

急いで玄関の鍵を開けてドアを開く。



元木湧
マジでッ余計なことすんなって…
あなた
…私って可哀想?
元木湧
は?
あなた
親、もう居ないんだって…友達も居ない、真面目に生きる意味って何だったんだろ、笑
元木湧
真面目って…それがあなたの下の名前なんじゃねぇの?
元木湧
明日から学校行かなくていいから、荷物まとめて俺の家行くぞ

あなた
うん…え、あ
元木湧
とにかく、必要最低限のもの持って…下にタクシー持たせてるから



服と生活必需品と通帳に、勉強道具。


この家にある鞄全てに詰め込んで家を出た。

状況が飲み込めていない中、湧くんが隣に座ってタクシーに揺られる。



何故か、星野ない空が綺麗と思った。


月だけが霧に隠れている中、微かに光っている。




丑三つ刻だろうか、静かな都会はやけに不気味だった。




あなた
なんで湧くんは私の事を助けるの?
元木湧
分かんね笑守りたくなるんじゃない?親が子を守るのと同じ
あなた
…そっか、
元木湧
母さんとも話してたんだよ、高校生とは言えまだ子供だから家に来てもらったほうが安心だなって
元木湧
おばさんが何かあったらあなたの下の名前をよろしくねって言ってたみたいだし




生きることを諦めた私には明日があるらしい。

死なせてくれない神様は私の事を嫌っているのか、はたまた母が死なせてくれないのか。


タクシーが止まって、湧くんに手伝ってもらいながら荷物を持ってマンションへと進む。



プリ小説オーディオドラマ