_____院長室前。
扉を開けた瞬間、間の抜けた声と共に、腰を抜かした戸波が姿を現した。
戸波の"しまった!"と言わんばかりの表情を見て、察した。
聞き耳を立てていたのだ。
_____しかも、下手をすれば"国家機密の情報"かも知れない内容を。
流石の六辻も頭に血が上るのを感じる。
_____この男、開き直るのが滅法早いらしい。
その上、あろう事か院長を"ヤクザ"呼ばわり。
…………………………否、その点で言えば、六辻も咎められないが。
六辻が後方に目をやる。
そこには、壁にもたれて、灰皿を片手に煙草を吹かしている女がいた。
スーツが良く似合う、切れ長の目の女だった。
喫煙所でも無く、院内で煙草を吸っているのは頂けないが……………………。
_____芥一桜。
そう、女は名乗った。
十六沢の表情が変わらない事からして、同僚というのは、事実らしい。
つまり、彼女も等しく内部調査員なのだろう。
口を尖らせていた戸波の表情が一変した。
十六沢はまた、にこりと笑った。
悪びれもせず、十六沢に懐く戸波。
六辻は心外だと、頭を振った。
戸波がオーバー過ぎるリアクションを取る。
六辻が珍しく、口角を上げる。
同時に、戸波が"うげぇ"と苦虫を噛み潰した様な声を出した。
戸波が調子良く、そっぽを向いて口笛を吹いた。
六辻は十六沢に向き直る。
十六沢が微笑む。
_____つくづく、"調子の良い男"だ。
_____何故、僕も。
六辻は心の底からそう思ったが、口にするのも面倒なので、そっと言葉を飲み込んだ。
再び煙草を吹かし始める芥と、鬱陶しい程名残惜しそうな戸波に見送られながら、六辻と十六沢は院の"愛情中枢バグ者の診療録の保管室"へと向かった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。