夜の店は、噂が回るのが早い。
グラスが空く速度と一緒に、情報も流れていく。
あなたの名字あなたは、いつも通りカウンターの内側に立っていた。
常連の男が、顎で奥の席を示す。
あなたはは笑って、氷を足す。
即座に悲鳴が上がり、周囲が笑った。
その瞬間だった。
カウンターの奥から、店長の声が飛ぶ。
あなたは振り返り、即座に言い返した。
店内がまた一段、賑やかになる。
――そのやり取りを、例の男は黙って見ていた。
サングラスを外した。
それだけで、空気が少し変わった。
誰かが、小さく声を漏らす。
別の客が、スマホを伏せる。
ひそひそとした声が、波紋みたいに広がっていく。
あなた は気づいていた。
気づいていて、知らないふりをした。
何事もなかったように、男の前に立つ。
それだけ。
名前も、肩書きも、出てこない。
でも、周りの視線はもう誤魔化せなかった。
一瞬だけ、空気が止まる。
あなたは手を止めずに、言った。
逃がす気はないけど、確かめる気もない。
距離感の天才。それが、彼女だった。
グラスを差し出すと、男が小さく笑う。
あなた はそう言って、次の注文に向かった。
カウンターのこちら側と、向こう側。
ヒーローだと分かっても、距離は変えない。
ホークスはその背中を見ながら思う。
その感情に、まだ名前はつけなかった。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。