第16話

16話
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2023/10/01 01:00
アーノルド
アーノルド
さて、どうする? タクミ。2人相手だよ
 レイノルドと違ってこの長髪紳士は軽い調子で話した。
タクミ
タクミ
……こないだは3人いたが逃げられたぜ
アーノルド
アーノルド
イブの連中はザコだよ。僕は君と同じプラチナ・ブラッド。こないだよりは歯ごたえがあると思うな
 タクミはちっと小さく舌打ちして、わたしや冬堂さんを手で差した。
タクミ
タクミ
俺が来たんだからこいつらに用はないだろう、外へ出せ
ミコト
ミコト
なに言ってんの、タクミ!
 わたしは驚いて叫んだ。
ミコト
ミコト
タクミだけ置いていけないよ! わたしだってやるよ!
 わたしはそう言うと冬堂さんが座っていた椅子の背もたれを掴み、二人の吸血鬼に向かって勢いよく滑らせた。ガラガラッと大きな音をたてて椅子が二人にぶつかって――。
アーノルド
アーノルド
おっと
 アーノルドがそれを指先一本で止めてしまう。
アーノルド
アーノルド
君は女の子? なのかな。元気のいい子は嫌いじゃないよ
 そう言って、ぴん、と指先で椅子を弾いた。とたんに車並のスピードで椅子が吹っ飛んでくる。
タクミ
タクミ
あぶねえ!
 タクミがわたしを突き飛ばさなければ椅子に弾き飛ばされていただろう。椅子は長くて先の見えない廊下のずっと向こうまで走ってゆく。
タクミ
タクミ
おまえはおとなしくしてろ、ばか!
ミコト
ミコト
ばかってなによ!
 わたしは怒鳴り返した。
ミコト
ミコト
でもごめん!
アーノルド
アーノルド
元気で素直、ますます気に入った
 アーノルドがにこやかに言う。タクミはその彼を睨みつけた。
タクミ
タクミ
どうしてたかだか10年が待てない! 10年たてば俺は芸能界を去る。日本にだっていない
アーノルド
アーノルド
上がうるさくてね
 アーノルドが肩をすくめる。
アーノルド
アーノルド
レイノルドのように上の意向を死守するのが生き甲斐って頭の固いやつも多いし
レイノルド
レイノルド
アーノルド、頭が固いとはなんであるか! 掟を守ることは吾輩らが生きていくうえでの最優先事項である
アーノルド
アーノルド
それを頭が固いって言うんだろ。結果僕たちはただ食って眠るだけを繰り返している。時の流れの中から完全に切り離されて
レイノルド
レイノルド
そんなことばかりではない。吾輩らの助言が人の世を変えたことは何度もある。文明を底上げし、科学を進め、戦争を止めたことも。しかしそれらはあくまで陰の中で行われるべきなのだ
アーノルド
アーノルド
それは都合のいい御託だ。本音は光の中で生きているタクミがうらやましいんだよ
 アーノルドはそう言って悲しげな顔をする。
アーノルド
アーノルド
不老不死、永遠の若さと美貌と言っても、結局薄暗い場所で息をひそめているだけさ、僕らは
 永遠の若さと美貌……確かにアーノルドもレイノルドも整った美しい顔をしている。もちろんタクミも言うに及ばす。
ミコト
ミコト
だったら――あなたはタクミの気持ちをわかってくれているんじゃないの?
 わたしはアーノルドに向かって言った。アーノルドは長い金髪をさらりとかきあげると、柔らかくほほえんだ。
アーノルド
アーノルド
ああ、確かにタクミの気持ちはわかる。わかるが……それはそれ、これはこれ、だ!
 言うなりアーノルドは一瞬でタクミと距離をつめた。タクミも応戦する。互いが両の手で相手の首に触れようとしていた。
タクミはアーノルドの腕を跳ね上げ、空いた胴に拳を入れようとするが、アーノルドはそれをかわして逆にタクミの顎に膝をいれようとした。
 タクミはそれを手で押さえ、ぐんっと背を伸ばしてアーノルドの首を狙った。
 だがそれもあっという間に距離を取られる。
 わたしにもわかった。この二人はほぼ同じだけの力を持っているのだ。
アーノルド
アーノルド
プラチナ・ブラッド同士が戦えば決着はつかない……。タクミ、今回はあきらめろ! アイドルをやめて郷に戻れ
タクミ
タクミ
いやだ!
 タクミはそう叫ぶと床を蹴った。アーノルドの首を狙って飛びかかる。触れられまいとアーノルドがその腕を跳ねのける。さっきとまったく同じような、違いと言えばさっきはアーノルドが攻めていたが、今はタクミが攻手になっているところか。
タクミの腕が目にも止まらぬ速さで攻撃を繰り出す。最初は余裕で受けているように見えたアーノルドだったが、徐々にその表情から薄笑いが消えていった。
ミコト
ミコト
タ、タクミ……
 わたしは黙っていられず叫んだ。
ミコト
ミコト
タクミ! がんばれ!
 次の瞬間、強く体を引かれた。いつの間にか背後に来ていたレイノルドが、わたしの首に腕を回し、抱え込んだのだ。
ミコト
ミコト
きゃ……あっ?
レイノルド
レイノルド
タクミ、もうやめるのである!

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