レイノルドと違ってこの長髪紳士は軽い調子で話した。
タクミはちっと小さく舌打ちして、わたしや冬堂さんを手で差した。
わたしは驚いて叫んだ。
わたしはそう言うと冬堂さんが座っていた椅子の背もたれを掴み、二人の吸血鬼に向かって勢いよく滑らせた。ガラガラッと大きな音をたてて椅子が二人にぶつかって――。
アーノルドがそれを指先一本で止めてしまう。
そう言って、ぴん、と指先で椅子を弾いた。とたんに車並のスピードで椅子が吹っ飛んでくる。
タクミがわたしを突き飛ばさなければ椅子に弾き飛ばされていただろう。椅子は長くて先の見えない廊下のずっと向こうまで走ってゆく。
わたしは怒鳴り返した。
アーノルドがにこやかに言う。タクミはその彼を睨みつけた。
アーノルドが肩をすくめる。
アーノルドはそう言って悲しげな顔をする。
永遠の若さと美貌……確かにアーノルドもレイノルドも整った美しい顔をしている。もちろんタクミも言うに及ばす。
わたしはアーノルドに向かって言った。アーノルドは長い金髪をさらりとかきあげると、柔らかくほほえんだ。
言うなりアーノルドは一瞬でタクミと距離をつめた。タクミも応戦する。互いが両の手で相手の首に触れようとしていた。
タクミはアーノルドの腕を跳ね上げ、空いた胴に拳を入れようとするが、アーノルドはそれをかわして逆にタクミの顎に膝をいれようとした。
タクミはそれを手で押さえ、ぐんっと背を伸ばしてアーノルドの首を狙った。
だがそれもあっという間に距離を取られる。
わたしにもわかった。この二人はほぼ同じだけの力を持っているのだ。
タクミはそう叫ぶと床を蹴った。アーノルドの首を狙って飛びかかる。触れられまいとアーノルドがその腕を跳ねのける。さっきとまったく同じような、違いと言えばさっきはアーノルドが攻めていたが、今はタクミが攻手になっているところか。
タクミの腕が目にも止まらぬ速さで攻撃を繰り出す。最初は余裕で受けているように見えたアーノルドだったが、徐々にその表情から薄笑いが消えていった。
わたしは黙っていられず叫んだ。
次の瞬間、強く体を引かれた。いつの間にか背後に来ていたレイノルドが、わたしの首に腕を回し、抱え込んだのだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。