マスターに名前を教えてもらったあの日、買い物についても行こうと言われた。咄嗟に思いついた嘘だった買い物についてどう説明しようか考えている時、本当に買わなければならない物があることを思い出した。その後はトントン拍子で日時や場所が決まっていった。
そして当日。早めに着くように家を出たつもりだったが、待ち合わせ場所には既にいつもとは違う私服を着ているマスターが立っていた。
慣れている呼び方をしかけ、急いで言い直す。僕に気付いたマスターがこちらに歩いてきた。
お互い挨拶をし、理由はないがしばらくの沈黙が流れる。
なんとなく人一人分の距離を取りながら、ショッピングモールに向かった。
納得出来ていない顔をしている。もう少しマスターのその表情を見ていたいが、候補の物が売っている店に着いてしまった。
店に入りマスターにそう尋ねられた。僕の中で候補は3つ。
候補を全て伝えるとマスターは少し考え込んでいた。
僕の言葉を聞きマスターは歩き出した。よくわかっていないままマスターについて行く。
マスターに案内されたのは様々な置き物が置かれている棚。猫や犬の動物だけでなくアルファベットや風景が描かれた箱などもある。
マスターが持っているのは黒猫の招き猫。黒猫は不吉なイメージが多いが、実際は幸運を引き寄せると言われている。
僕が後ろに立てば分かりやすくビクッと肩を震わせ驚いているマスター。
僕の顔がある方の耳を抑えながらそう言う。マスターの頬は微かに赤くなっていた。
耳元でそう囁く。マスターは体を震わせながら、キッと僕を睨んでいる。だが、僕にとってはその行動も可愛く見えるだけだった。
嫌われたくはないので、マスターから離れる。僕が離れると、黒猫を棚に戻して頬を手で抑える。
逃げるように黒猫を取り、レジに向かった。
マスターの元に戻るとSと書かれたマグカップを手に持って眺めている。
プレゼント用にラッピングされた猫の置き物が入った袋を見せる。マスターは安心したような顔をして、マグカップを棚に戻した。
マスター結婚してたんだ...
マスターの「帰ろうか」という一言でショッピングモールの外に出る。外ではルール違反者を探す警察が多く居た。
そう言いながら、隣を見ると座り込むマスター。疑問に思って、僕もしゃがむと
マスターは過呼吸になっている。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!