第7話

買い物
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2023/04/09 03:40
マスターに名前を教えてもらったあの日、買い物についても行こうと言われた。咄嗟に思いついた嘘だった買い物についてどう説明しようか考えている時、本当に買わなければならない物があることを思い出した。その後はトントン拍子で日時や場所が決まっていった。
そして当日。早めに着くように家を出たつもりだったが、待ち合わせ場所には既にいつもとは違う私服を着ているマスターが立っていた。
鷹志
マス...じゃなかった。犬塚さん!
慣れている呼び方をしかけ、急いで言い直す。僕に気付いたマスターがこちらに歩いてきた。
犬塚
おはよう。源くん
鷹志
おはようございます
お互い挨拶をし、理由はないがしばらくの沈黙が流れる。
犬塚
...行こう、か?
鷹志
そうですね
なんとなく人一人分の距離を取りながら、ショッピングモールに向かった。
犬塚
それで、買うのは友達の結婚祝いだよね?
鷹志
はい。お世話になっているので
犬塚
そっか。でも本当に俺で大丈夫?
鷹志
犬塚さんだから頼めるんです
犬塚
そう、ですか...?
納得出来ていない顔をしている。もう少しマスターのその表情を見ていたいが、候補の物が売っている店に着いてしまった。
犬塚
候補があるって言ってたけど、どれ?
店に入りマスターにそう尋ねられた。僕の中で候補は3つ。
鷹志
候補は3つあって、ペアのマグカップ。2人共猫が好きらしいので猫の置き物。最後の候補は辞めた方がいいのかなって思ってるんですけど花束です
候補を全て伝えるとマスターは少し考え込んでいた。
犬塚
花束はなんで候補から外そうと思ったの?
鷹志
他の2つに比べて早めに枯れちゃうので
犬塚
確かにそうだね...。なら、どっちにする?
鷹志
そうですね...。招き猫の形をしたものがあったらそれにします
犬塚
なかったらマグカップ?
鷹志
はい!
僕の言葉を聞きマスターは歩き出した。よくわかっていないままマスターについて行く。
犬塚
ここだよ
マスターに案内されたのは様々な置き物が置かれている棚。猫や犬の動物だけでなくアルファベットや風景が描かれた箱などもある。
犬塚
これとかどうかな?
マスターが持っているのは黒猫の招き猫。黒猫は不吉なイメージが多いが、実際は幸運を引き寄せると言われている。
鷹志
いいですね
犬塚
っ!?
僕が後ろに立てば分かりやすくビクッと肩を震わせ驚いているマスター。
犬塚
みな、もとくん...ちょっと離れて...
僕の顔がある方の耳を抑えながらそう言う。マスターの頬は微かに赤くなっていた。
鷹志
マスターって、耳弱いんですか?
耳元でそう囁く。マスターは体を震わせながら、キッと僕を睨んでいる。だが、僕にとってはその行動も可愛く見えるだけだった。
犬塚
源くんっ...流石に怒るよ?
鷹志
あっ...すいません...
嫌われたくはないので、マスターから離れる。僕が離れると、黒猫を棚に戻して頬を手で抑える。
鷹志
じゃあ...僕、この猫買ってきます!
犬塚
あ...
逃げるように黒猫を取り、レジに向かった。

マスターの元に戻るとSと書かれたマグカップを手に持って眺めている。
鷹志
犬塚さん?
犬塚
ん?あぁ。買えた?
鷹志
あっ、はい
プレゼント用にラッピングされた猫の置き物が入った袋を見せる。マスターは安心したような顔をして、マグカップを棚に戻した。
鷹志
そのカップ、気になるんですか?
犬塚
...元奥さんの頭文字なんだ
マスター結婚してたんだ...
犬塚
お互いの利害が一致してすぐに離婚したけどね
鷹志
そうなんですね
マスターの「帰ろうか」という一言でショッピングモールの外に出る。外ではルール違反者を探す警察が多く居た。
犬塚
っ!!
鷹志
何かあったんでしょうか?
そう言いながら、隣を見ると座り込むマスター。疑問に思って、僕もしゃがむと
犬塚
はあ...はあ...っ
鷹志
犬塚さん!?
マスターは過呼吸になっている。

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