髙地side
土曜の午後、大学の最寄り駅で北斗と待ち合わせをした。
「よっ、北斗くん。お待たせ」
俺は軽く手を上げて挨拶した。
北斗は少し緊張した様子で小さく頭を下げ、「よろしくお願いします」と返してくる。
相変わらず控えめで、目が合うとすぐ逸らされるのがなんとなく可愛らしく感じた。
二人は駅近くのホームセンター兼雑貨店へ向かった。傘コーナーは前回より種類が豊富で、俺は本気で選ぶつもりで一本一本手に取ってみた。
毎回北斗に選ばせるのは申し訳なく思うから、今日こそは買おう、と本気で傘を選びに来たのだ。
「これ、軽いけど丈夫そう?」「風が強い日とか心配だよな……」
北斗は真剣に考えて、「こっちの生地の方が厚めですね」「持ち手が握りやすいと思います」と、意外と的確な意見をくれる。
俺は頷きながら、時々北斗の横顔をチラチラ見ていた。
雨の日に見た濡れた肩を落とした姿とは違って、今日は少し生き生きしている気がする。
結局、気に入った傘を二本まで絞ったものの、「やっぱりもう少し迷いたい」と結論を出せずに店を出た。
「また次にしようか。今日はありがとう、北斗くん。一緒に見てくれて助かったよ」
北斗は「こちらこそ……」と小さく微笑んだ。
その笑顔が、なんだか胸に軽く残った。
別れ際、北斗がバス停の方へ歩き出すのを見送りながらふと思った。
(……意外と楽しいな、こういうの)
その日の夜、俺は田中樹と近所のファミレスで遅めの夕飯を食べていた。
樹がいつもの調子で聞いてくる。
「今日、北斗と傘選び行ったんだろ? どうだった?」
俺はフォークを回しながら、軽く肩をすくめた。
「うん。いい店だったけど、結局決めきれなくてまた次ってことになった。北斗くん、意外と傘に詳しくてさ。『この生地の方が丈夫そうです』とかちゃんと言ってくれて、参考になったよ」
樹がにやにやしながらジュースを飲む。
「へえ。お前、北斗と結構話すようになったじゃん。雨の日の傘貸したのがきっかけってマジ?」
「まあ、そうかな。最初はただ『可哀想だな』と思って貸しただけだったけど……」
俺はそこで少し言葉を止めた。
頭に、北斗の控えめな笑顔や、真剣に傘を選んでくれる横顔が浮かぶ。
相合傘のときの、肩が触れそうな距離。バス停で小さく「今日は楽しかったです」と言ってくれた声。
(……あれ?)
胸の奥が、ふっと温かくなったような気がした。
これまで北斗のことは「傘を貸した子」「反応が面白い子」くらいにしか思っていなかった。
でも今日は、ただ一緒に時間を過ごすのが心地よかった。
もっと話してみたい、と思った自分がいる。
樹が目を細めて俺の顔を覗き込む。
「おいおい、なんか顔が緩んでるぞ。まさか北斗に興味出てきた?」
俺は慌てて笑って誤魔化した。
「いやいや、そんな大げさな……ただ、いい奴だなって思っただけだよ。暗めっぽいけど、ちゃんと意見言うし」
でも、心の中では小さく認めた。
(……少し、気になり始めたかも)
今までは「いいことしたな」で終わっていた出来事が、
北斗と過ごす時間を通じて、静かに自分の中を動かし始めている。
俺はジュースを一口飲んで、窓の外の夜景に目をやった。
次に会うときが、なんだか少し楽しみになっていた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。