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第5話

夢と現実
16
2025/12/31 15:04 更新
明けましておめでとうございまーーーす!!
新年早々見ていただきありがとうございます🙇🏻‍♀️‪‪

前回(2年前)に続きまして、また夢の話になります。
orangestarさんのボカロ曲「るひと夏の追憶ついおく」から
着想を得ましたので、是非聞いてみてください。



暗いどこかを歩いている。
微かな光さえ目に入らない暗闇で、虫の音が聞こえる。
聞こえるのはそれだけで、
自分の足音や呼吸する音は聞こえない。
それでも俺は終わりの見えない暗闇を歩き続けた───

そんな夢を見た、ような気がする。
今日も今日とていつものソファで昼寝をしていたが、
何かの気配を感じて夢から醒めてしまった。
重たい瞼をゆっくりと開ける。
まだぼやけている視界で見えたのは、
なんか、顔…みたいな…?
ズシシΔ研究員
ん…?
Tつぐ研究員
おーい
そう声をかけてきたTつぐ研究員の声がやけに近い。
この顔みたいなやつもつぐつぐ研究員の顔に見えてきたな。
てかそうじゃね…?
Tつぐ研究員
見えてる?
ズシシΔ研究員
なんか近
「なんか近くね?」と言ってる最中に
ようやく視界が晴れてきた。
そしてすぐ、気配など気にせずに
あのまま二度寝すればよかったと後悔することになる。
本当にすぐそこに、Tつぐ研究員の顔があったからだ。
ズシシΔ研究員
……ぅうわぁっ?!
と寝起きで多少掠れている叫び声を上げながら飛び起きる。
幸いにもTつぐ研究員はすぐに頭を引っ込めたので
ぶつかることはなかった。
ズシシΔ研究員
なっ…、なん……え…?
寝起きということもあってか、
驚きのあまり言葉らしい言葉が出ずにただ困惑していた。
そんな俺を見て、
上司はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべている。
ズシシΔ研究員
え、えぇ……キモ…
ようやく出てきたのは「キモ」という二文字だけ。
それは上司に向かって言っていい言葉では決してないが、
これは言ったっていい場面だろう。
Tつぐ研究員
ははっ、キモイだなんて酷いね〜?
Tつぐ研究員
いつまでも呑気に寝てる
君をせっかく起こしてあげたのに
ズシシΔ研究員
…何か用でも?
用があるにしても起こし方が悪すぎるだろと
言ってやりたいところだったが、
面倒くさいの方が勝ってしまった。
壁かけ時計を見てみると、
時計の針はちょうど午後2時を指していた。
その隙にTつぐ研究員は出かける準備を始めている。
今日はもうなんの案件もないはず……急用か?
Tつぐ研究員
ん〜、ちょっとね
それは、これから何か楽しいことが
待っているかのような言い方だった。
少し疑問に思いつつ、
早く早くと急かされながら外へ出る準備をした。
研究室を出る前に時計を確認すると、
長針は文字盤の1と2の間を指していた。
ズシシΔ研究員
あの、どこ行くんですか?
何も聞いてないんですけど
廊下で行き先を聞いた。
まっすぐ続く廊下はやけに静かで、声がよく響く。
まるで誰もいないみたいだ。
ズシシΔ研究員
この後なんか予定ありましたっけ?
Tつぐ研究員
ううん、ないんだけど
連れて行きたいとこがあって
ズシシΔ研究員
教えてくれない感じですか?
Tつぐ研究員
教えてあげてもいいけど?
ズシシΔ研究員
どっちだよ…
Tつぐ研究員はケラケラと笑った。
これだけ長く一緒にいても、
まだ俺を完全には信用していないのだろう、
詳細を教えてくれないことがたまにある。
研修時代から仲が良かったらしいMくんとは
こんな無駄な会話は生まれないのだろうと思うと、
少し羨ましく思えてくる。
Tつぐ研究員
でも、どこに連れてかれるか
分からないのに
君はついてきてくれるんだね
ズシシΔ研究員
そりゃあ、まぁ…信頼はしてるので
Tつぐ研究員
へえ〜〜〜?
さっきみたいに、いや、
より気持ちの悪い笑い方をするTつぐ研究員を遮るように、
再び行き先について聞いてみた。
ズシシΔ研究員
で?どこ行くんですか?
Tつぐ研究員
言う前にもう着いちゃったねぇ
そう言われて前を向くと、
突然大量の光が目に飛び込んでくる。
思わず立ち止まり、片手で目を覆ったが
それだけでは光を遮ることができず、目を瞑るしか無かった。
次第に慣れてきて目元を隠していた手を下ろすと、
目線の先には太陽光がめいっぱい降り注ぐ
ひまわり畑が広がった。
つぐつぐ研究員は俺の少し先で立ち止まり、
こちらを振り返る。
Tつぐ研究員
君はもう、忘れちゃったかな
Tつぐ研究員
別に覚えてくれてなくてもいいんだけど
太陽に照らされたその姿は何か不思議なオーラを
纏っていて、今にも消えてしまいそうだった。
そのオーラに圧倒されてしまったのか、
俺はなんの言葉も返せずにただその場に突っ立っていた。
Tつぐ研究員
さ、行こっか、█████
立っているのがギリギリなほどの激しい突風が
Tつぐ研究員の言葉を遮った。
そのせいで最後に何を言ったのかよく聞こえなかったが、
こういうときは大抵俺の名前を呼ぶ。
風が止むとTつぐ研究員はくるりと向きを変えて
ひまわり畑に向かって歩き出した。
ズシシΔ研究員
えっ、ちょっと!
いろいろ聞きたいことがあったのに、
Tつぐ研究員はひまわりたちの間を縫って
まるで溶け込むように消えていく。
その姿を追おうとしてひまわり畑の奥へ入ろうとするが、
人ひとりが入れるような隙間は見当たらない。
ズシシΔ研究員
Tつぐ!
まるで、俺が後を追えないように
ひまわりたちが遮っているようだった。
きっとこの声も届いていない。

自分の身長を大いに越すほど背の高いひまわりたちは、
俺を取り囲むように咲いている。
そもそも、ひまわりは太陽に向かって咲くはずなのに
どうしてこっちを、俺を見ている?
次第に目玉みたいなそれの中心が
こちらを睨みつけているように見えた。

あれは、視界に入れてはダメだ。
すぐにこの場所から離れればよかったのに、
その場に体を丸くしてしゃがみこんでしまった。
それだけじゃ落ち着かなくて、目を瞑って耳を塞いた。
なぜか急に恐怖を感じた。
霊も何も怖くなかったのに、なぜか今はすごく怖い。
手が震え、目は潤み、満足に呼吸ができない。
心臓の鼓動が脳内に響き渡ってうるさい。
うるさくて、何も、聞こえない…



次に目が覚めたときには、
俺は研究室のいつものソファで横になっていた。
彼のデスクがある方に目を向けると
いつもの丸まった背中が見えた。

どうやらさっきまでのは夢だったらしい。
ゾンビならまだしも、ひまわりに囲まれて
詰む夢なんて初めてだ。
不思議な夢を見るもんだなぁと思いながら
寝る時に使ったブランケットを畳んでいると、
物音で俺が起きたことに気づいたのか、
Tつぐ研究員は背中を向けたまま声をかけてきた。
Tつぐ研究員
お、ズシくん起きた?
ズシシΔ研究員
……おはようございます
Tつぐ研究員
よく眠れた?うなされていたようだけど
ズシシΔ研究員
うなされてたんですね、俺
Tつぐ研究員
怖い夢、見たんでしょ
声色がニヤニヤしている。
どうせさっきの夢で見たような
気持ちの悪い顔をしているのだろう。
ズシシΔ研究員
いや?忘れました
Tつぐ研究員
え〜珍しいね?
うなされるほどの夢を忘れるなんて
ズシシΔ研究員
覚えていても仕方ないでしょ
Tつぐ研究員
それはそうなんだけどね?
所詮ただの夢。
気にすることなんてない。
でもなぜか、胸がざわめくのを感じた。
Tつぐ研究員
あ、起きた直後で申し訳ないけど
コーヒー淹れてくれないかな?
いつものやつでね
ズシシΔ研究員
はいはい、いつものやつインスタント
立ち上がって窓際にあるシンクへ行き、
そこで一人分のコーヒーを作る量だけの水道水を
電気ポットに入れ、スイッチを押す。
少量だしすぐに沸いてくれるだろうと思って、
湯が沸くまでその場で待つことにした。

研究室内には、Tつぐ研究員のPCのキーボードを押す
タイピング音が響いていた。
それに耳を傾けながら、ふと変なことを考えた。
もし、これも夢だったらと。
PCに向けられたままの顔は、
俺が起きてからこちらに向けられただろうか。
その声は、姿は、形は、本物か?
さっき会話した、したはずなのに、
どうしてか不安で仕方ない。
Tつぐ研究員
ねぇ、
カラカラと椅子を引く音。
そして、こちらに向かってくる足音。
Tつぐ研究員
ズシシくん?
声をかけられた方には顔を向けられずに返事をした。

…つもりだったが、声が出ていない。
ズシシΔ研究員
ぁ…?

あぁ、まだ夢の中だ。
目覚められていなかったんだ、また置いてかれるんだ。
また、一人に───







Tつぐ研究員
ズシシ!
名前を呼ばれたのと同時に
痛みを感じるほどの強い力で肩を掴まれて、
無理やりTつぐ研究員の方を向かせられた。
その顔はいつもと変わらないけど、
少し焦っているように見える。
いつの間にか、俺は肩で息をしていた。
Tつぐ研究員
目ぇ見て
そう言われ、心配そうにこちらを見つめるTつぐ研究員と
視線を合わせる。
その瞳の色もいつもと変わらない。
なんだか今日初めてつぐつぐ研究員の顔を見たような、
そんな気がした。
ズシシΔ研究員
ゆめ、じゃ…?
Tつぐ研究員
夢じゃないよ。現実だ、ズシシくん
ズシシΔ研究員
あれ、俺…
Tつぐ研究員
混同してるみたいだね……。
ちょっとそこに座ろっか
丸椅子に座らされて水道水の入ったコップを渡された。
一口飲んでみると、少し緊張が解けたような気がする。
Tつぐ研究員
少しは落ち着いた?
それに頷くと、Tつぐ研究員はニッコリと笑って話を続けた。
Tつぐ研究員
君は本当に覚えていないの?
Tつぐ研究員
さっき見た夢、忘れたって言ってたけど
ズシシΔ研究員
……
Tつぐ研究員
ちょっと気になることがあってね。
君が見た夢と関係があるかもしれない
Tつぐ研究員
…教えてくれる?
あの夢を思い出す。
非常に不気味な夢だった。
その中でも特に───
ズシシΔ研究員
あなたが…
Tつぐ研究員
私?
そうだ、一番恐ろしかったのは、
つぐつぐ研究員の雰囲気だった。
夢で見た後ろ姿はつぐつぐ研究員そのものだった。
顔もしっかり見た、見たはず。
だがあれは彼ではなかった。
俺の直感がそう言っている。
ズシシΔ研究員
そう、つぐつぐ研究員が
あそこで寝てた俺を起こして───
覚えていたこと全てを話した。
ひまわり畑のこと、そこでTつぐ研究員が消えたこと、
そしてその雰囲気が違っていたこと。
その最中、彼は愛用している少し古びた手帳に
メモをとっていた。
Tつぐ研究員
なるほどねぇ…
ズシシΔ研究員
霊が、関係してるんですか?
Tつぐ研究員
まだ確証はないんだけど…
Tつぐ研究員
実はね、君がそこで寝ている間
保管室から大きな気配を感じたんだ
保管室とは、霊の魂などの貴重な研究材料を
厳重に保管しておくための部屋のことだ。
各研究室にそれなりの大きさの保管室が備え付けられており、
中へ入るには暗証番号と指紋認証が必要……
つまり、限られたごく一部の者しか入ることはできない。
俺たちの研究室では研究員がつぐつぐ研究員と
俺しかいないので、必然的に二人だけとなる。
Tつぐ研究員
急に大きい気配を感じたもんだから
気になって覗いてみたんだよ
Tつぐ研究員
そしたらね、あるひとつの魂が
激しく揺らいでいたんだ
Tつぐ研究員
一昨日捕らえた霊の魂、覚えてる?
ズシシΔ研究員
えぇ…空き家の前にいた…
それは一昨日のこと。
案件からの帰り道、とある空き家の前で人型の霊を発見した。
手をだらんとさせ、虚ろな目をして、
真っ黒で分厚い雲に覆われている空を見つめているだけの霊。
俺たちが近くによっても話しかけてみても
霊は微動だにせず、まるで空に取り憑かれているようだった。
ズシシΔ研究員
たしか全然動かなかったやつですよね
Tつぐ研究員
そう、その霊の魂が揺らいでいてね
ズシシΔ研究員
…なぜ?
Tつぐ研究員
それがまだよくわからなくてねぇ…
生きている我々にとって、幽霊というのは未だに未知の存在。
解明されていないことの方が遥かに多く、
そのどれもが理解し難いものばかりだ。
流石のつぐつぐ研究員も、
ああでもないこうでもないと言いながら頭を悩ませていた。
どうして自分が夢と現実を混同したのか。
その原因はまだはっきりとわかりそうにないが、
研究員としての血が騒ぐのは確かだ。
あとで関連しそうな論文を拝見してみよう。
Tつぐ研究員
まあ一応、君の夢にまた私が出てきたら
報告してくれ
ズシシΔ研究員
わかりました
と返したタイミングで、パチっという短い音が鳴った。
音がした方に目を向けてみると、注ぎ口から
湯気がもくもくと出てくる電気ポットが目に入る。
その隣にはマグカップが。
そういえばコーヒーを作ろうとしていたんだったな。
Tつぐ研究員
ズシシくん
ズシシΔ研究員
はい?
名前を呼ばれた方を振り返ると、Tつぐ研究員は
いつの間にか廊下へと出れる研究室の扉の前にいた。
Tつぐ研究員
私ちょっと、報告書提出してくるけど、
君はまだ休憩してなね
多数の書類を抱えているTつぐ研究員が
扉の取っ手に手をかけた。
そうして向けられた背中を見て、また心のどこかがざわめく。
どうしてか夢で見たあの背中と重ねてしまうのだ。
思い出す、一面に咲くひまわりと夏のぬるい風。
最後までこちらを振り返ってくれなかったあの姿は、
一体どこへ行くつもりだったのだろう。

Tつぐ研究員が開けたドアから雑音が入ってきた。
話し声や足音、外を走る車の音など、
それら全てが耳に入る。
Tつぐ研究員は、ドアノブから手を離す寸前で
なぜかこちらを振り返り、俺をまっすぐ見つめた。
Tつぐ研究員
大丈夫だよ、私は君を
置いていったりしないから
何を感じたのか、そんなことを言って研究室を出ていった。
扉が閉ざされ、一人残された研究室には再び静寂が訪れる。
昨日よりかは少なくなった書類の山に、
私物が置かれたTつぐ研究員のデスク、
机上に雑に並べられた実験器具。
決して綺麗とは言えないが、今ではこれがいちばん落ち着く。
俺の、大切な居場所だ。



最後までお読みくださりありがとうございました!
新年だというのに暗めの話+夏要素でしたね…

今後の更新頻度についてですが、
実は10月頃からまた別のものにハマりだしまして、
それによりmntd小説全般の更新が
今よりも遅くなると思われます…。
とはいえ、年に1回は更新したい気持ちでいるので
気長にお待ちいただけたらと思います。

改めまして、今年もよろしくお願いいたします🙌

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