何を言えばいいのか、わからなくて、俺はただ、手首に触れている紫耀の指を見ている。
水が飲みたかったはずの喉は、カラカラだけれど、動けない。
「諦めようと思ったよ…。」
下を向いたままの紫耀が続ける。
「紫耀………。」
紫耀の指に水滴が落ちるのが見えて、自分の涙だと理解するのに、少し時間がかかった。
涙が出すぎて、喉乾くのかな。
「ごめん、俺、海人のこと泣かせてばかりだね。」
「水、飲んでくるから…。」
これ以上、紫耀の前で泣きたくなくて、俺は床に落ちた服を手に取って、ベッドから逃げ出した。
俺も紫耀も、すれ違ってばかりだ。
一緒にいた間、俺は紫耀の側にいられて、すごく幸せで、でも、紫耀はホントに幸せだったんだろうか。
俺が弱いから、無理させてたのかな。
俺が甘えてばかりで、紫耀はずっとホントの気持ちを言えなかった…?
それとも、俺が紫耀を不安にさせてしまったのかな。
廉に嫉妬してる、なんて、想像もしてなかった。
俺は、ジンに嫉妬するどころじゃなかった、ただ会いたくて。それだけで。
俺が頼りないから、紫耀を不安にさせてしまったの?
自分が情けなくて、涙は止まらなかった。
キッチンの床に座り込んでいたら、いつのまにか紫耀が前に立っていた。
「紫耀も水、飲む?」
「海人……。」
俺の質問には答えずに、紫耀が俺の前にしゃがみ込んだ。
二人して、キッチンで何をしてるんだろう。
「………。」
沈黙が怖くて、俺は、飲んでた水を紫耀に渡した。
「いらない?」
「海人……、ダサくてもなんでも、ちゃんと海人といたいんだ。
海人じゃなきゃ、ダメなんだ。」
ひと口、水を飲むと、紫耀がまっすぐに俺の目を見て、伝えてくれる。
その途端、唐突にはっきりと自分で理解した。
俺が信じられないのは紫耀の言葉じゃないんだって。
紫耀を支えられない、頼りない自分が信じられないんだ。
今の俺じゃ、ダメなんだ。
また、会えなくなったら、不安で紫耀を追い詰めてしまうかもしれない。
会えなくても、不安にならない自分でいられないと、紫耀の側にいるなんて、できない。
「なんで、廉に嫉妬したの…?
俺、紫耀のこと、好きって、伝わってなかった……?」
「ごめん…。」
責めたつもりはなかったんだけれど、紫耀が謝った。
「紫耀、謝らないで?
俺、そういうつもりじゃないよ。
俺が、頼りないから、紫耀を不安にさせたんだと思うから。」
「違う!
違う、んだ。
俺が、海人の全部を見れないのが、こんなに怖くなるなんて、思ってなかったんだよ。
ごめん、俺、海人を傷つけるヤツから守りたいって、ずっと思ってたのに、俺が海人を傷つけてた。
嫌われても仕方ないって、分かってるけど。
でも、もし俺のことまだ少しでも好きでいてくれるなら、今度こそ、海人を大事にするから。
ちゃんとダサい俺も見せるから。
俺の側にいて欲しい。」
俺の足の指に、そっと紫耀の手の指が触れる。
その指が小さく震えている。
俺は、紫耀の震えている指の上に自分の手を重ねた。
そんな風に震えさせてしまうのが申し訳なくて。
「紫耀、ありがと。
でも、今のままだと、俺、また同じこと紫耀にしちゃうと思う。
紫耀が悪いんじゃなくて、俺の問題なんだと思う。
会えなくても、紫耀のこと応援したいし、紫耀に責任感じさせたくない。
今の俺は、まだそうなれてないから…。」
そっと紫耀の指を、俺の足から離した。
そのまま、紫耀の手を握る。
「少し待って……。」
また会えなくなる選択を自らしようとしてる、また苦しくなるかもしれない、と思う。
それでも、今、このまま紫耀と一緒にはいられないと思った。
「自分の事ばっかりで、ごめん。
でも、もし大丈夫だと思ったら、また紫耀と一緒にいられる、って思ったら、必ず連絡する…。
それで、もし紫耀がその時、まだ俺といたいって思ってくれてたら、会いに来て欲しい……。」
紫耀の目を久しぶりにちゃんと見た。
俺の真意をはかろうとして、紫耀の視線が揺れるのが分かる。
今度会える時は、自分だけでちゃんと立っていられる自分でいたいから。
いつになるか分からないけれど。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!