第15話

15話
1,445
2023/12/08 21:59 更新
カラオケ行きたい、明日朝早いだの、廉と岸くんが散々騒いで、結局解散することになると、ジンがすぐにお店のスタッフさんにタクシーを依頼してくれていた。

「海人、紫耀に送ってもらえば?」


ジンの一言に俺は酔いが一気に醒めそうになる。


「海人乗ってく?
嫌じゃなければ、だけど。」


紫耀が少し遠慮がちに俺に尋ねる。

よく俺は紫耀に送ってもらってたから、ジンにとっては以前と同じだと思ってるんだろうけど。

「なんだよ、また海人かよ。甘やかしすぎだろー。」

「そーだそーだ、俺らも乗っけろー。」

すっかり楽しくなっている廉と岸くんが、肩を組みながら、またケラケラ笑って言う。

廉、ホント楽しそう。
俺まで嬉しくなる。

でも、紫耀に送ってもらうなんて、俺今はそんな立場じゃないから。

「紫耀、ありがと。でも、大丈夫。俺もタクシーで帰るよ。」

「タクシー3台しか捕まらないみたいだからさ。」

ジンが更に言う。

なんか、ジン気づいてるのかな、と少し疑ってしまうくらいに。


「海人、俺が送っていくよ。」

紫耀が俺に手を差し出してきた。


「気持ち悪くない?立てる?」


いつも俺が酔っ払うとちょっと怒ることだってあったのに、優しすぎだよ。

俺は、一度甘えてしまったらダメになりそうで、紫耀の手は頼らずにひとりで立ち上がった。


「大丈夫だよ。ありがと。

俺、ホントにタクシーで帰れるよ。
廉とか岸くんのが酔ってそうだし。」

もう一度、大丈夫と伝えてみたけれど、もう紫耀は俺の話は聞いてなくて、車のキーをカバンから出した。

「ごめん、じゃあ、俺ら先帰るな。
廉、また会おう!」

紫耀はそう言うと俺の背中に手を回して歩き出す。




触れられると、どうしても甘えたくなってしまうから、やめて欲しいのに。





紫耀の車に乗ると、前と同じ匂いがして、俺は懐かしくなった。


「紫耀の車乗るの、いつぶりだろ。」


小さく呟くと、紫耀は俺の方を見て、少し悲しそうな顔をする。


気まずくなって、俺は寝たフリをした。


久しぶりの紫耀の運転、久しぶりの紫耀の助手席に、涙が出そうになる。

いつも紫耀が俺の頭をなでてくれてたな、とか、一緒に聞いた曲とか、頭の中をぐるぐると思い出が蘇ってきて。


また過去の自分に嫉妬する。


いつかここに乗る別の誰かが紫耀にできた時、俺は心から紫耀の幸せを願えるだろうか。




いつのまにか、少しウトウトとしてしまい、目が覚めると、紫耀の手のひらを頬に感じた。

そっと目を開くと、紫耀と目が合う。


「……海人、起きた……?」

ハスキーな声が車の中に響く。

もうそこは俺のマンションのすぐそばだった。

頬に触れる指は優しく俺の耳の中にも入ってきていて。





あぁ、と思う。

俺は、紫耀のこの目をこの声をこの指を知ってるから。


「……いいよ、紫耀。」



そう言葉にすると、紫耀はきれいな目を丸くする。


「海人……?」


俺は、そのまま紫耀の首に腕を回した。

「俺もそういう気分だから。」


ずっと張り詰めていた、でももう流されてしまっても、許されるんじゃないか。


今だけ、この頬に触れる手の平を離したくない。

今日だけひとりで眠りたくない。


たくさんの言い訳を自分に与えようとするけれど。



「違った……?」


耳元で囁くと、紫耀は俺の背中に腕を回してきた。


「海人、酔ってる?」


心配そうに聞いてくる。


優しくしないで欲しい、もっと甘えてしまいたくなるから。

酔いなんか、紫耀に送ってもらう時点で醒めてたけど。


酔っ払ってるフリをしなきゃ、自尊心が保てそうにない。


「そのつもりで送るって言ったんじゃないの…?」


わざと嫌な言い方をして、紫耀の目を見た。


紫耀は少し悲しそうな顔をしてから、俺の頭を軽く触る。

そのままハンドルの方に身体を戻すと、俺のマンションの近くのコインパーキングに向かった。

プリ小説オーディオドラマ