カラオケ行きたい、明日朝早いだの、廉と岸くんが散々騒いで、結局解散することになると、ジンがすぐにお店のスタッフさんにタクシーを依頼してくれていた。
「海人、紫耀に送ってもらえば?」
ジンの一言に俺は酔いが一気に醒めそうになる。
「海人乗ってく?
嫌じゃなければ、だけど。」
紫耀が少し遠慮がちに俺に尋ねる。
よく俺は紫耀に送ってもらってたから、ジンにとっては以前と同じだと思ってるんだろうけど。
「なんだよ、また海人かよ。甘やかしすぎだろー。」
「そーだそーだ、俺らも乗っけろー。」
すっかり楽しくなっている廉と岸くんが、肩を組みながら、またケラケラ笑って言う。
廉、ホント楽しそう。
俺まで嬉しくなる。
でも、紫耀に送ってもらうなんて、俺今はそんな立場じゃないから。
「紫耀、ありがと。でも、大丈夫。俺もタクシーで帰るよ。」
「タクシー3台しか捕まらないみたいだからさ。」
ジンが更に言う。
なんか、ジン気づいてるのかな、と少し疑ってしまうくらいに。
「海人、俺が送っていくよ。」
紫耀が俺に手を差し出してきた。
「気持ち悪くない?立てる?」
いつも俺が酔っ払うとちょっと怒ることだってあったのに、優しすぎだよ。
俺は、一度甘えてしまったらダメになりそうで、紫耀の手は頼らずにひとりで立ち上がった。
「大丈夫だよ。ありがと。
俺、ホントにタクシーで帰れるよ。
廉とか岸くんのが酔ってそうだし。」
もう一度、大丈夫と伝えてみたけれど、もう紫耀は俺の話は聞いてなくて、車のキーをカバンから出した。
「ごめん、じゃあ、俺ら先帰るな。
廉、また会おう!」
紫耀はそう言うと俺の背中に手を回して歩き出す。
触れられると、どうしても甘えたくなってしまうから、やめて欲しいのに。
紫耀の車に乗ると、前と同じ匂いがして、俺は懐かしくなった。
「紫耀の車乗るの、いつぶりだろ。」
小さく呟くと、紫耀は俺の方を見て、少し悲しそうな顔をする。
気まずくなって、俺は寝たフリをした。
久しぶりの紫耀の運転、久しぶりの紫耀の助手席に、涙が出そうになる。
いつも紫耀が俺の頭をなでてくれてたな、とか、一緒に聞いた曲とか、頭の中をぐるぐると思い出が蘇ってきて。
また過去の自分に嫉妬する。
いつかここに乗る別の誰かが紫耀にできた時、俺は心から紫耀の幸せを願えるだろうか。
いつのまにか、少しウトウトとしてしまい、目が覚めると、紫耀の手のひらを頬に感じた。
そっと目を開くと、紫耀と目が合う。
「……海人、起きた……?」
ハスキーな声が車の中に響く。
もうそこは俺のマンションのすぐそばだった。
頬に触れる指は優しく俺の耳の中にも入ってきていて。
あぁ、と思う。
俺は、紫耀のこの目をこの声をこの指を知ってるから。
「……いいよ、紫耀。」
そう言葉にすると、紫耀はきれいな目を丸くする。
「海人……?」
俺は、そのまま紫耀の首に腕を回した。
「俺もそういう気分だから。」
ずっと張り詰めていた、でももう流されてしまっても、許されるんじゃないか。
今だけ、この頬に触れる手の平を離したくない。
今日だけひとりで眠りたくない。
たくさんの言い訳を自分に与えようとするけれど。
「違った……?」
耳元で囁くと、紫耀は俺の背中に腕を回してきた。
「海人、酔ってる?」
心配そうに聞いてくる。
優しくしないで欲しい、もっと甘えてしまいたくなるから。
酔いなんか、紫耀に送ってもらう時点で醒めてたけど。
酔っ払ってるフリをしなきゃ、自尊心が保てそうにない。
「そのつもりで送るって言ったんじゃないの…?」
わざと嫌な言い方をして、紫耀の目を見た。
紫耀は少し悲しそうな顔をしてから、俺の頭を軽く触る。
そのままハンドルの方に身体を戻すと、俺のマンションの近くのコインパーキングに向かった。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!