暖かい日差しと緩やかな風が吹く森の中で一匹のスライムがいた。名前などなく[スライム]という種族名だけしかない。
(体が乾いてきた…水場に行かないと)
ぽよんぽよんと跳ねて水場に向かった。
* *
「お母さーん!薬草取りに行ってくるね」
「外には気を付けなさいよ。魔物がいっぱい居るんだから魔除けの鈴を持って行きなさい。」
「はーい」
私はサユリ。小さな村に住む一人娘。私はいつも薬草を取りに行って回復薬を作っては時々来る商人さんに売ってお金を稼いでなんとか暮らしている。最近お母さんから回復薬や色々な薬の作り方を教えてもらったから自分でも作れるようになったおかげでこうして時々一人で薬草取りに行ってる。
いつもの川の近くに生えている薬草のところに来た。
「今日もいつもと同じ五本作ったら帰ろ」
しっかり育ちきっている薬草だけをちぎって集めていると近くの草むらからおかしな揺れを感じた…
* *
水場に来て必要な水を吸っていると近くに人影が見え、慌てて隠れた。
襲い掛かるか?それとも隠れ続けるか?
悩んでいると近くの草むらが変に揺れた。じっと見ていると人族より少し小さい大きさのシルエットが見えた。[ゴブリン]だ。ゴブリンは三匹連れて人影の方に向かって襲い掛かった。襲われた人影からとても強い風によってゴブリンを吹っ飛ばした。
ゴブリン達は人影に警戒して距離を取り始めたが、ゆっくりと森の中に戻っていった。
スライムは人影に見つからぬように森の中に戻って行った。
* *
危なかった…。
護身用の魔法陣が刻まれていたネックレスを持ってなかったら襲われていたところだった。
今までゴブリンが森の外側まで出てくることはなかったのに…それにゴブリン三体の内二体は棍棒だったのに一体は刃がボロボロだったけど、しっかりとした剣だった。
「早めに作って帰らないと…!」
そして五本作り終えた頃。
「よいしょっ…ん?」
さっきまで普通に生えてた雑草が何かに潰された跡が道となって森に続いている。それに少し湿っていたという事はさっきまで居たみたいだ。
好奇心に負け魔除けの薬を身体中にかかるように霧状にして自分にかけて魔除け鈴を手に握って慎重にゆっくりと進んでいく。
すると少し進んだ時低い唸り声が聞こえた。
* *
今とっても危険な状態になっている。ゴブリン達が森の中に戻っていったが素直に喰らってばっかは嫌だったらしく森の奥で監視をしていたみたいだ。すっかり戻っていったと思っていたからゴブリン達の警戒をし忘れてしまい、今対面している状態だ。
「GUUUUUGLUU…」
とても低い唸り声を響かせながらジリジリと近づいてくる。ついさっきは手も足も出せずに反撃されたからさぞ苛ついているのだろう。スライムの攻撃手段は窒息技と、属性魔法、物理攻撃の体当たりしかない。三体を相手にどこまで渡り合えるかわからないが生きるためには殺さねばならない。
すると、ゴブリン一体が棍棒を振り上げた。
* *
バチンという音を鳴らしてスライムに一番近くにいたゴブリンが棍棒をスライムにぶつけた。スライムは勢いよく弾け飛んだが一切ダメージが無いかのように揺れている。私は慌てて持ってきていた魔物図鑑を取り出した。
あのスライムはウォータースライムと言って打撃には柔らかすぎる弾力によって包み込み威力を殺すのでゴブリンの力じゃスライムの弾力には勝てない。だが水スライムの弱点は本体から体の一部が分離すると小さいほうが消えてしまうというデメリットがある。
つまりスライムを縦に切られた時大きい方にスライムの意識が移り小さい方は消えてしまうのだという。
(このままじゃスライムが負けちゃう…!)
声に出さずにそう思った。なぜなら水スライムは乾燥し始めてくると弾力性が失われていく。つまり、時間が経てば経つほど崩れやすくなるため棍棒との相性が悪くなっていく。
「…助けたい…」
後ろから刺せば一番後ろにいる剣持ちのゴブリンに不意打ちができるが、殺せるとは限らない。もし殺せなければ…。
身体中に悪寒が走った。
でも私は私と同じ立場のスライムを放って置けない…助けたい‼︎私みたいにいじめられているのは見てられない!
私は震えを振り払って護身用の小型ナイフをゴブリンの背中の中心、心臓部分に向けて走り出した。
* *
ゴブリン達の背後から人影が出てきたあの野原にいた人影だ。
そう気づいた瞬間奥にいたゴブリンも気づいたのか声を上げながら振り返って人影に向かって振り上げた。
そしてゴブリン二体がその人影に意識が向いた隙を狙って一番近くに居るゴブリンに飛びかかった。ゴブリンが驚いている隙に頭を包み込んでじわじわと縮んでいった。内部に圧をかけていく事により空気の通り道がなくなり、首は絞められ、頭蓋骨はミキミキと鳴りながら追っていくことで五秒した頃には頭は無く血を噴き出して殺せるのだ。
背後で倒れる音が聞こえたのか棍棒を持っているもう一体のゴブリンが後ろを振り向いたがもう遅い。その時には顔の間近まで飛んでいた。そして包み込み先程と同じ工程をした。そして最後のゴブリンを見た時、ゴブリンは人影の小型ナイフを吹き飛ばし。ニタァとした顔で笑いながら剣を振り下ろす寸前だった。スライムは二体から棍棒を奪い取り一本を背中に向かって投げ飛ばし、スライム自身も飛び棍棒を振り上げた。
* *
ゴブリンに気づかれて小型ナイフの突きを防がれて避けつつ攻撃しようとしたがどうしても届かず、小型ナイフを吹き飛ばされてしまった。その状況をゴブリンは激しく喜び、顔をニタァと歪ませて声を大きく笑い始めた。その声に再び全身を恐怖が包み込み、力が抜けてその場に尻餅をついてしまった。
(お願い!動いて……動いてよ‼︎)
震えながらゴブリンを見ると剣を振り下ろす時だったが何かに押されたのかゴブリンの体が一瞬揺れた。ゴブリンが後ろを振り向くと、その頭上をスライムが棍棒を振り上げて落下して来ていた。そして棍棒を振り下ろし、ゴブリンの頭は潰れた。そして血が周りに大量に飛び散った。
私の運命は一見不運かもしれないけど、私にとっては幸せな、そして世界の人々を敵に回す出来事なのかもしれない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。