休みの日の夕方に近い時間、目黒は自身の航空機工場へ案内する。
扉を開けて見えるのは多種多様な航空機。
そして見たことがないほど目をキラキラと輝かせる阿部。
その中でも自分だけの航空機を見せる。
その言葉を聞いた瞬間、戸惑いの表情に変わった。
阿部はあの事故以来、航空機には見るだけで乗ってこなかった。
怖かったから。
でも心のなかではずっと乗りたいと思っていた。
もう一度あの大空を飛びたかった。あの空への憧れを抱きながら。
だから今はそんな恐怖さえ感じず、逆に乗りたいという性分なのだ。
早速助手席へと阿部をエスコートする。
それから安全のためにヘルメットを被させる。
久しぶりの航空機だからか緊張する阿部。
そして操縦する上に阿部が隣に座っていることに緊張する目黒。
目の前に並ぶハンドルやボタン。
それらをそっと手で撫でる。
この席に座ると自分がまだ空軍大佐の時のことを思い出す。
出発してからというもの、どこへ行くかなんて全く決めていなかったことに気づいた目黒。
なのでとりあえず地中海に出た。
この航空機は軍のものと違って、完全なるプライベートのもの。
だから他国が襲撃してきたと勘違いされることもない。
この時代、目黒のようにプライベートの航空機を持っている人は少なくない。
目黒は阿部の願望が聞けて良かったと思った。
阿部は目黒よりもたくさんの知識が入っているから、教えてもらいながら一緒に世界遺産巡りは楽しそうだなと感じていた。
降り立ったのはモンサンミッシェルという海の上に浮かぶようにして存在する巨大な修道院が綺麗に見える、少し離れたところ。
ライトが灯って神秘さが増す夕方から夜にかけての、今の時間の景色はとても美しい。
ただただその美しい景色を眺めるだけ。
それでも十分良かった。
阿部と一緒のものを見れるだけで。
「この4人で行こうな!絶対だからな!」って嬉しそうに言う姿が忘れられなかった。
これも阿部の本音だった。
志半ばで死んでいった仲間を見てきたから。
「絶対」とか言われるほど叶うと思って期待してしまう。
それで期待して落とされる側の気持ちも辛いから。
今まで静かに聞いていた目黒が言った。
本当にその通りだ。
口にするだけならとても簡単なのに、いざ実現させようとすると難しい。
だから阿部は驚いた。
ここまで理解してくれる人がいるとは思わなかったから。
阿部は「バーでも行かない?」と誘った。
なんだか今はお酒の力を借りて、考えることをやめたかったから。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!