瑛麻(えま)は玄関先で途方に暮れていた。目の前には一枚の紙が置かれており、何やら文字が書かれているのだが、まったく読むことができない。彼女にとって、それらの文字はただの記号にしか見えなかった。
「Emergency contact……」瑛麻は英語でつぶやいた。アメリカで育った彼女にとって、英語は母語同然だったが、生まれ故郷である日本の言葉は謎に満ちていた。
ドアの向こうから、低いうめき声が聞こえてくる。
「うう…えま…えま……」
瑛麻は恐る恐るドアノブを回した。部屋の中央には、大きな男性が床に座り込んでいた。フェタだった。筋骨隆々とした体格で、一見すると格闘家のような風貌をしているが、その大きな瞳には涙が溜まっている。
「Oh no… Are you okay?」瑛麻は英語で声をかけた。
フェタは瑛麻を見上げると、さらに大粒の涙を流した。
「えま…お腹…すいた……」
瑛麻にはその言葉の意味がわからなかった。ただ、フェタが何かを求めていることだけは理解できた。彼女は冷蔵庫を開けてみることにした。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!