夜の街を、乾いた銃声が切り裂いた。
火花が散り、アスファルトに銃弾が弾ける。
街灯に照らされ、数人のプロヒーローが路地を封鎖していた。
その中心で立ち止まる一人の少年または少女。
腰に携えた黒光りする拳銃を、まるで身体の一部のように握りしめている。
目は鋭く細まり、周囲の景色を秒単位で分解し続けていた。
冷たい声が響く。
彼かも彼女かも不明な其奴の脳裏では、すでに数秒先の未来が映し出されていた。
ヒーローたちの動き、呼吸の乱れ、風の流れ。
その全てを数式として処理し、最適な答えがはじき出される。
BANG!!
ジーニアスが引き金を引くと、普通の弾丸に見えた銃弾が途中で軌道を変え、路地の壁を跳ね、背後から迫っていたヒーローの足元を撃ち抜いた。
崩れ落ちるヒーローを冷ややかに見下ろす。
だがジーニアスは決して笑わない。勝ち誇ることもない。
ただ淡々と、最短の手段を選び続けるだけ。
ヒーローの一人が無謀にも突っ込んだ。
次の瞬間、ジーニアスの足元に即席の防御シールドが生成され、拳を受け止める。
反動で崩れたヒーローの顎へ、銃口が冷たく突きつけられる。
その目には冷徹な光しか宿っていなかった。
理解されぬ知能。拒絶され続けた孤独。
其奴にとって、人間はもう“方程式の変数”でしかない。
やがて遠くからサイレンの音が迫る。
増援が来る前にジーニアスは一歩退き、銃をホルスターに収めた。
闇夜に身を溶かすように消えていくヴィランの背を、ヒーローたちはただ呆然と見送るしかなかった。
ビルの屋上。
夜風が吹き抜け、ネオンの光が遠くに瞬いている。
ジーニアスは腰の拳銃を外し、冷えた金属をじっと見つめていた。
先ほどまで追いすがってきたヒーローたちの姿を思い出し、吐き捨てる。
数秒先すら読めず、力任せに突っ込むだけの存在。
それを“正義”と称して人々が喝采を送る。
低い声が闇に溶ける。
筋肉を誇示し、仲間と笑い合い、力で全てを解決する。
知能を用いず、思考を放棄し、それでも人々から英雄視される。
其奴の瞳には、誰も到達できぬ孤独の輝きが宿っていた。
脳は止まらない。常に数式が流れ込み、未来が演算され続ける。
銃をホルスターに収め、ジーニアスは夜の闇に消えていった。
その背中には、誇りと孤独、そして確かな狂気が滲んでいた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。