第18話

奪還 
85
2025/12/14 03:58 更新
時は少し遡り、ゾムはシャオロン、そしてチーノと共に、別の入り口から施設内へ侵入した。
ゾム
ええか?俺らはオスマンとエミさんを助ける為にこの施設に潜り込んだんや!それが終わったらすぐ帰るぞ⁉︎
チーノ
は、はい!
シャオロン!“奴ら”の居場所分かったら絶対教えろよ?!こんな不気味な場所いたくないねん!
シャオロン
...。
チーノに腕を引っ張られるシャオロン。今は無口なシャオロンで、大人しく着いてきてくれている。声を出さないと言う事は、“奴ら”は近くにいないはず。だとすれば、警戒すべきものは...。
ゾム
エミさん達を捉えた人間を、今は一番警戒せなアカンな..。
息を殺して内部に入ると、数人の科学者達が何やらぶつぶつと立ち話をしている。
ゾム
チッ..!流石に多すぎやろ。
こんなん1人ずつ気絶させてたら、時間いくらあっても足りん..。
眉間にシワを寄せながらゾムが考えていると、チーノがこっそり彼の肩をたたいた。
チーノ
ゾムさん..!俺にいい方法があります!
















廊下の向こうからカツカツと、足音が聞こえてくる。
???
おや?見ない顔だな。新人か?
???
はい!この部所で働くのは今日は初めてで..。
???
そうだったか。今から下に降りるのか?
???
はい!
???
それなら、この資料を地下室の個人表バインダーに追加しておいてくれないか?
???
分かりました!
科学者達はそんな話を交わし、頼まれた人間らは、そのまま地下へと進んでいく。










ゾム
...おい。
チーノ?
???
はい?何ですか?
ゾム
こんな科学者モドキみたいな変装で、どうにかなるもんか⁉︎
???
現に今、何の疑いもなく地下まで案内されたでしょう?変装は任せてくださいっ!
ゾムが仕留めた3人の科学者の衣服を借り、変装したチーノはふふんと得意げに鼻をならした。
ゾム
お前、服装も声色も相待って完璧な変装やけど、せめて吹き出しの色だけ普段通りの色でもええか?
チーノ
ほい。
色元に戻したけどなんで?
ゾム
俺らが混乱する。
チーノの変装は、誰から見ても完璧なもので、よほどのヘマをしない限りでは大丈夫であろう。同じくゾムやシャオロンも服装だけ科学者と同じ格好をし、顔にはメガネやマスクを着用している。
流石に2人の声だけは、どうにかなるものではなかったので、ゾムはしばらく黙り、チーノに任せる事にした。
チーノ
こう言う時は堂々としてればいいんすよ!話しかけたら俺が何とかするから、2人とも付いてこいよ!
ゾム
まぁ、今回はお前に任せるわ。とりあえず地下向かうか..。
シャオロン
...。
3人が向かった地下室は、アリの巣の如く廊下が張り巡らされた、薄気味の悪い所だった。

1つひとつの部屋には、どれも重要そうな資料がずらりと並べられてあり、異質な空気が立ち込める。
チーノ
うわ..。めっちゃ気味悪いんやけど..。
ゾム
そういえばチーノ。さっき科学者から貰った資料は何やったん?
チーノ
これの事?中身も見たんですけど、実験の記録(?)とかそんなものばっかり。エミさん達の情報も載ってなさそうでした。
ゾム
そうか...。荷物になるし、適当な所に置いとくか。
科学者から頼まれた資料は、ゾムが目の前の本棚に入れ込み、他に何かないか辺りを探し回った。
シャオロン
..ウ゛ー。
すると、シャオロンが急に声を上げた。
ゾム
...。シャオロン?
シャオロン
..ウ゛ー。
ゾム
“奴ら”がおるんやな?
シャオロン
ウ゛ーー..。
チーノ
?!!?え!? マジ?!!
“奴ら”ってあの怖いやつ?!?
突然の状況の変化に混乱するチーノ。慌てる彼をゾムは落ち着かせて、周囲を警戒する。今の所、特に“奴ら”がいる雰囲気は感じない。だが、シャオロンを見ると、彼が廊下の向こうに目を向けたまま動かない。
ゾムは、“奴”が必ずいると確信した。
ゾム
警戒しろよ、チーノ。
俺が先に行く。
チーノ
は、はぃ..!
薄暗い地下を、ゆっくりと進んでいく。辺りはだんだん暗くなり、目の前には頑丈そうな鉄の扉が待ち構えていた。
シャオロン
ウ゛ー..。
ゾム
この扉、セキュリティがかかってあるな。シャオロン、この先に“奴ら”がおるんか?
シャオロン
ウ゛ーー..。
ゾム
俺じゃ開けられそうにもないし、“奴ら”が向こうにおって出られんなら、別にほっといてもいいか..。
チーノ
な〜んだ!じゃあ一安心っすね!
2人は扉を無視して先へ進もうとする。だが、シャオロンは、固く閉ざされた向こう側を見つめたまま、動こうとはしなかった。


それだけではなく、彼は自身の頭を強く鉄の扉に打ち付けながらも、その部屋に向かって声を出す事をやめなかった。
ゾム
おい、シャオロン⁉︎そんなに頭ぶつけたら血が出るぞ⁈
シャオロン
ウ゛ーーー!
ゴン ゴン ゴン!
チーノ
わああああ!シャオロンが壊れた〜‼︎もしかしてゾンビ化が進んでるとかじゃあないだろうな⁈怖いから辞めてくれ〜‼︎
チーノの不安がる声に焦りを感じたゾムは、すぐにシャオロンを扉から引き剥がした。額は赤くはなっているが、出血まではしていないようだ。扉の方に唸るシャオロンの目線を、ゾム自身の方へ無理やり向ける。
ゾム
シャオロン‼︎
落ち着け...
ゾム
...って..。
ゾムの目とシャオロンの目が合う。
まだ生前の色味を残した、ライトブラウンの瞳。
その片方の目で、ゾムを見るシャオロン。






確信したような、そしてそれを語りかけるような、真っ直ぐな瞳だった。
シャオロン
ウ゛ー..。
ゾム
...。
ゾム
チーノ、どうにかこの扉、開けられんかな?
チーノ
え⁉︎俺は嫌ですよ..!
扉の向こう側に“あいつら”がいるのは間違いないじゃないですか⁉︎何でわざわざあけなアカンの⁉︎
ゾム
扉の向こうに“奴ら”がおったら俺が全員相手してやる。だから頼む。少し、シャオロンの事信じてみたいんや。
チーノ
...。
ゾム
チーノ。お願いや。
お前の知恵を貸してくれんか?
チーノ
...。
しばらくチーノが考え込んだ後、変装していた衣服の中からカードを取り出した。そして、鉄扉横のスキャナーに当てると、ガチャリと内側の鍵が解除された音が聞こえた。
ゾム
...⁈なんやそのカード⁈
チーノ!いつのまにそんなの持ってたん⁈
チーノ
この服のポケットにカードがたまたま入ってただけや。まぁ、仮にカードがなくても、何とかしてやろうとは思いましたよ。勘違いしないでくださいね..!!
チーノはメガネを掛け直し、そっぽを向く。憎たらしい口調で言ってはいるが、内心は頼られて嬉しい様子が小っ恥ずかしくて、それを誤魔化しているようにも見えた。
ゾム
チーノ。ありがとうな。
チーム一番の後輩であり

チーム一番の頑張り屋。


それがこの男だった。
先輩の期待に応えるならば、苦手なゲームも、慣れない企画も、怖い事も

何でも全力でやってのける人物だったと


改めて実感した。
シャオロン
ウ゛ー..
そして、重たい鉄扉がゆっくりと開かれる。

その部屋は体育館程もある広さでありながら、真っ白で何もない空間だった。
チーノ
..ん?あそこにいるのは誰?
ただ、広い部屋の中心に、椅子に座った誰かがいる。
ゾム
..あれは!
椅子に座ってるその人物は、片方が空色の目をしている。ゾム達がよく知る人物だった。
ゾム
コネシマ!!
コネシマ
あぁー..!
ゾムとチーノはすぐにコネシマの元に駆け寄った。
チーノ
わああぁぁぁん!コネシマ生きとったんかーー!
コネシマ
えぅー゛..!
ゾム
とりあえず無事でよかった!シャオロンが教えてくれんかったら素通りする所やったぞ‼︎
シャオロン
ウ゛〜!
見たところ、コネシマに目立った外傷はなく、数日前に見たコネシマの肌状態と比べても大きな変化はなかった。
だがここで、コネシマを連れて行くのに苦戦しそうな問題が見つかる。
ゾム
シッマ。お前その、頭に付いてる管ってとってもええんかな?
コネシマの頭には、無数の管が刺されており、明らかに医療的技術が組み込まれていた。おまけに手錠と足枷も付いているので、まずこれをどうにかしない事には救出は難しそうだ。
チーノ
うわっ‼︎この管頭深くまで結構刺さってるわ..。でも..今ゾンビのコネシマなら、抜いても大丈夫そうやと思うけど?
ゾム
ゾンビ状態ならまだ大丈夫かもしれん。けど、あの訳分からん科学者共が手をかけてるんや。俺ら素人が勝手にやったら、シッマがどうなるか分からん。
チーノ
う..。確かに。でもじゃあどうやってコネシマを連れて行くん?
2人がコネシマの前で話し合いをしていると、頭上からアナウンスが入る。


『緊急事態発生!緊急事態発生!』

『館内に侵入者を発見。職員達は直ちに避難して下さい!』




ゾム
まずいな。もうバレたん..!
コネシマ
ぉあ〜..。
ゾム
シッマの状態がどうとか言ってられんな。無理やりやけど、連れて行くしかない。
ゾムがコネシマの頭に手を触れようとしたその時、ふとチーノがポツリと言葉をこぼす。
チーノ
...何で“避難”なん?
ゾム
おいチーノ!ぼーっとするな!
早よコネシマ連れて帰るぞ!
チーノ
...いや。アナウンスがちょっとおかしくないかなって。
ゾム
俺らが向こう側に見つかったって事やろ?まぁ見つかったのが大先生側の可能性もあるけど..。
とにかく今は早よ逃げな!
チーノ
そうじゃないですよ!
俺が言いたいのは、何で“避難”になるんかって話!
ゾム
...?
チーノ
普通、俺ら侵入者が入ったら、“直ちに捕えよ!”とか言うじゃないですか?それなのに向こう側が何で“避難”せなあかんの?
ゾム
...ホンマや。
ゾム
何で科学者共が逃げるん?
「違和感」がゆっくりと近づいてくる。









しばらくすると、ゾムとチーノ、シャオロンがいる広い部屋。その奥の壁が開き、異様な呻き声が聞こえてきた。










ーーー..。

『これに従い、被験体001を解放します。』
ゾム
...001?って?
ゾムはゆっくりと声のする方へ顔を向ける。








<被験体001>
それは“奴”と同じく、ゾンビの人間。




ただ異なるのは、今まで見てきた“奴ら”に比べてはるかに堅いがよく、右腕が異様なまでに膨張している事。
ゾム
...<001>ってお前の事やったんか..‼︎
ゾムの前に現れたその姿は、忘れもしない。


初めはエーミールを

次にオスマンを

大切な仲間を攫った、あの化物だった。

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