第9話

第9話 9回目の学園祭3日前
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2019/06/12 09:09
学園祭の次の日、私は風邪をひいたふりをして学校を休んだ。
仲良くしているあのふたりを見たくない。
本当にちょっと具合が悪かったし。
私は、スマホの電源を落とした。
もう一条くんから連絡が来ることもないだろうけど、もしも「大沢さんと付き合うことになったよ」なんていう報告が来たら最悪だもの。

どれくらい、ベッドに転がっていただろう。
ドアがちょっと乱暴にノックされた。
返事をする前にドアが開く。
柊尚美
柊尚美
ちょっと瑞穂!大丈夫?
倉野瑞穂
倉野瑞穂
あ、尚美……
尚美は、枕元にコーラのペットボトルを置いた。
彼女なりの、お見舞いの品らしい。
柊尚美
柊尚美
何があったのか、察しが付いちゃったわ
倉野瑞穂
倉野瑞穂
まだ何も言ってないのに……すごいね
柊尚美
柊尚美
付き合い長いからねぇ。
取られたんでしょ、あの子……一条だっけ
倉野瑞穂
倉野瑞穂
……うん
柊尚美
柊尚美
まあアレよ。失恋の経験は次に活かそう。ね?
倉野瑞穂
倉野瑞穂
次……ね
柊尚美
柊尚美
だいたいあんたはのんびりしすぎなの。
いい男の子は、早いうちに抑えなくちゃ
早いうちに……。
そっか。
そうすればいいんだ!
倉野瑞穂
倉野瑞穂
ごめん、尚美……ちょっと熱が上がってきたかもしれない
柊尚美
柊尚美
マジで?おばさん呼んでこようか?
倉野瑞穂
倉野瑞穂
そっ、それは大げさだよ。ちょっと寝るね
柊尚美
柊尚美
そっか、わかった。じゃ、今日はこれで帰るわ
尚美が部屋を出て行くと、私はくまのぬいぐるみを抱き寄せた。
倉野瑞穂
倉野瑞穂
……もうひと頑張り。お願い、連れて行って!



もう何度目かすっかり忘れた、学園祭3日前。
一条くんとはいつも通りの距離感を保って、委員会の仕事をしている。
例のアーチは倒れなかった。
……というより、作業が遅れていてまだ完成していなかった。
こんなこと、今までになかったから少し戸惑ったけど、アーチが倒れなかった時と大差ないのだろう。
私は、深く気にしないことにした。
一条朔也
一条朔也
だいたい見回りが終わったけど……美術部が心配だね
倉野瑞穂
倉野瑞穂
うん……間に合うといいんだけど
一条朔也
一条朔也
俺、美術部に行ってくるよ。倉野は先に戻ってて
美術部なら一緒に行くよ……と言おうと思って、私は思いとどまった。
ちょっとだけ、ひとりになって“心の準備”をしたいと思った。
倉野瑞穂
倉野瑞穂
それじゃあ、私は教室に戻って日報まとめてるね
一条くんと別れて教室に戻る。
別行動になったけど、一条くんは荷物を教室に置いているから、必ず戻ってくることは分かっていた。
その時に……告白しよう。
いつも、学園祭当日まで待ってしまっていたから、失敗していたのかもしれない。
尚美の言う通り、早く行動するべきだったんだ。
一条朔也
一条朔也
ごめん、お待たせ!
先に帰っていてくれてもよかったのに
一条くんが、小走りで教室に戻ってきた。
一条朔也
一条朔也
遅くなっちゃったね。帰ろう
荷物を持った一条くんが、教室を出ようとする。
……今しかない!
倉野瑞穂
倉野瑞穂
い、一条くん……!
一条朔也
一条朔也
ん?どうしたの?
倉野瑞穂
倉野瑞穂
あのね……伝えたいことがあるの
倉野瑞穂
倉野瑞穂
私、一条くんのことが……好きです!
倉野瑞穂
倉野瑞穂
私と、付き合ってください……!
恥ずかしくて、私は目を強く閉じた。
しばらくの沈黙の後、一条くんの声が聞こえてきた。
一条朔也
一条朔也
……ごめん
一条朔也
一条朔也
付き合っているわけじゃないんだけど、気になる子がいるんだ……

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