学園祭の次の日、私は風邪をひいたふりをして学校を休んだ。
仲良くしているあのふたりを見たくない。
本当にちょっと具合が悪かったし。
私は、スマホの電源を落とした。
もう一条くんから連絡が来ることもないだろうけど、もしも「大沢さんと付き合うことになったよ」なんていう報告が来たら最悪だもの。
どれくらい、ベッドに転がっていただろう。
ドアがちょっと乱暴にノックされた。
返事をする前にドアが開く。
尚美は、枕元にコーラのペットボトルを置いた。
彼女なりの、お見舞いの品らしい。
早いうちに……。
そっか。
そうすればいいんだ!
尚美が部屋を出て行くと、私はくまのぬいぐるみを抱き寄せた。
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もう何度目かすっかり忘れた、学園祭3日前。
一条くんとはいつも通りの距離感を保って、委員会の仕事をしている。
例のアーチは倒れなかった。
……というより、作業が遅れていてまだ完成していなかった。
こんなこと、今までになかったから少し戸惑ったけど、アーチが倒れなかった時と大差ないのだろう。
私は、深く気にしないことにした。
美術部なら一緒に行くよ……と言おうと思って、私は思いとどまった。
ちょっとだけ、ひとりになって“心の準備”をしたいと思った。
一条くんと別れて教室に戻る。
別行動になったけど、一条くんは荷物を教室に置いているから、必ず戻ってくることは分かっていた。
その時に……告白しよう。
いつも、学園祭当日まで待ってしまっていたから、失敗していたのかもしれない。
尚美の言う通り、早く行動するべきだったんだ。
一条くんが、小走りで教室に戻ってきた。
荷物を持った一条くんが、教室を出ようとする。
……今しかない!
恥ずかしくて、私は目を強く閉じた。
しばらくの沈黙の後、一条くんの声が聞こえてきた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!