練習の合間、タオルで汗を拭いながら冬弥が小さく首を傾げた。
あいつの指摘は、いつだって冷徹なほどに正しい。
いつもなら「わりぃ、次合わせる」と素直に引き取れる言葉が、今の俺の鼓膜には、耳障りなノイズとしてこびりつく。
ピリついた声が、狭いスタジオに響く。
冬弥は驚いたように瞬きをし、それから申し訳なさそうに視線を落とした。
謝るな。頼むから、そんなに簡単に引くな。
お前が正しい。ズレているのは、喉の奥にドロドロとした熱を孕ませた俺の方だ。
それが分かっているからこそ、あいつの「無自覚な正しさ」が、俺のプライドを執拗に逆撫でする。
割って入ったのは、いつもの快活さを張り付かせた杏の声だった。
だけど、その瞳の奥は一切笑っていない。
杏の手は、無意識に自分のマイクスタンドを壊れそうなほど強く握りしめていた。
彼女もまた、隣でノートを広げて新しい歌詞を熱心に書き留めているこはねの姿に、静かな殺意を募らせているのだ。
嘘つき。
お前も俺も、世界で一番大好きなはずの相棒に、世界で一番醜い嘘を吐き続けている。
ステージの上で、あいつらの「正解」に完璧にハ
モるための仮面を被る。
だけど、その仮面の下で、俺たちの牙は確実に、あいつらの喉元を狙って伸び始めていた。













![# 攻略対象より悪役に惚れました . [ 冬司ver ]](https://novel-img-gcs.prepics-cdn.com/prcmnovel-tokyo-prod-converted-images/p/463Ienje96SMnaxqeg7tvIaFh9p1/cover/01K566339R5TNCGP01WCWNSK9G_resized_240x340.jpg)


編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!