第11話

#. 苛立ちの─‬─‬
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2026/06/09 14:54 更新
冬弥
冬弥
……彰人、さっきのパス、少し遅れていなかったか?
練習の合間、タオルで汗を拭いながら冬弥が小さく首を傾げた。


あいつの指摘は、いつだって冷徹なほどに正しい。


いつもなら「わりぃ、次合わせる」と素直に引き取れる言葉が、今の俺の鼓膜には、耳障りなノイズとしてこびりつく。
彰人
彰人
遅れてねえよ。お前のテンポが走り気味なんだろ。
ピリついた声が、狭いスタジオに響く。

冬弥は驚いたように瞬きをし、それから申し訳なさそうに視線を落とした。
冬弥
冬弥
そうか……すまない。俺の感覚がズレていたのかもしれない。
謝るな。頼むから、そんなに簡単に引くな。

お前が正しい。ズレているのは、喉の奥にドロドロとした熱を孕ませた俺の方だ。


それが分かっているからこそ、あいつの「無自覚な正しさ」が、俺のプライドを執拗に逆撫でする。
杏
杏
……ちょっと、二人とも。そこまでにしときなよ。
割って入ったのは、いつもの快活さを張り付かせた杏の声だった。

だけど、その瞳の奥は一切笑っていない。

杏の手は、無意識に自分のマイクスタンドを壊れそうなほど強く握りしめていた。


彼女もまた、隣でノートを広げて新しい歌詞を熱心に書き留めているこはねの姿に、静かな殺意を募らせているのだ。
杏
杏
こはね、ちょっと休憩にしよ。お腹空いちゃった。
こはね
こはね
あ、うん!杏ちゃん、私、新しいフレーズ思いついたから、あとで聴いてほしいな!
杏
杏
……うん。楽しみにしてるっ!
嘘つき。
お前も俺も、世界で一番大好きなはずの相棒に、世界で一番醜い嘘を吐き続けている。


ステージの上で、あいつらの「正解」に完璧にハ
モるための仮面を被る。

だけど、その仮面の下で、俺たちの牙は確実に、あいつらの喉元を狙って伸び始めていた。

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