あれからるぅとの考えた作詞作曲が、みんなの元にも公開されるようになって本格的なライブ練習が始まった。
持ち前の運動神経とリズム感があるジェルは、ドラムの担当を。
みんなの音を支える屋台骨で安定感をもたらしてくれるななもりは、ベースの担当を。
意外にも手先が器用でなんでもこなすさとみと感情表現が素晴らしいころんは、ギターの担当を。
音楽センスがピカイチなるぅとはピアノの担当を。
そしてー。
ボーカルの担当は莉犬だ。
みんな各々自分の担当楽器で譜面を見ながら練習をこなしていく。
「すごくいい曲だな」
さとみは感心するようにゆっくりと頷いて、ギターの弦に手を掛けながらまた心地よい音楽を奏で始める。
「実はね、莉犬も手伝ってくれて…」
るぅとは目を細めてにんまりと笑っている。
まるで悪巧みを考えているかのような顔だ。
「る、るぅちゃん!」
莉犬は恥ずかしくなって目の前で手と真っ赤なしっぽをブンブンと横に振った。
「莉犬くんもいい歌詞を作るからねえ」
ななもりもうんうんと感心しながら頷き、莉犬に歓喜の目を向けてくる。
莉犬は戸惑ったが、褒められるのが嬉しくてまた真っ赤なしっぽがゆらゆら揺れた。
「そんなに褒めても何も出てこないよ〜!」
莉犬は次第に顔に熱が集まるのを感じてパタパタと自分の顔を仰いだ。
正直、嫌ではなかった。
褒められることは莉犬にとって歌唱への自信に繋がるからだ。
「莉犬〜俺を輝かせることも忘れるんじゃねーぞ?」
さとみのイタズラっぽい笑いに莉犬は適当に「はいはい」と受け流す。
「さとみくんは今のままでも十分かっこいいじゃん!」
「お、おう……なんか照れるな」
褒められる対象が今度はさとみに変わってころんは負けじと月並みな褒め方をする。
いつもの女子たちにチヤホヤされている時とは違って、さとみは照れくさそうにして頬をかいていた。
「ころちゃん?俺はどう?」
ななもりもアホ毛を揺らしながらころんに話を振る。
ころんはしばらくななもりを見た後、探偵のように手を顎に着けて「そうだねえ」と声を漏らす。
「なーくんは凄い!地味だけど」
(一言余計なような……)
またもや石化して灰になってしまったななもり。
悪気のない顔でニコニコするころん。
その様子を見て笑うるぅと。
やれやれと呆れた様子のさとみとジェル。
「きっと伸びしろがあるってことだよ!!」
莉犬は必死に励ますが、ななもりはベースを抱き抱えながら何やらブツブツと独り言を漏らしている。
(ダメだこりゃ……)
莉犬はガックリ肩を落とす。
メンバーから視線を外して賑やかな軽音部室の窓を見ると、しんしんと雪が降り積っていて真っ白な世界に綺麗なイルミネーションやそれを見つめる人がいっぱいだった。
ふつふつと喜びが込み上げてきて莉犬は胸がいっぱいになった。
(もうクリスマスなんだなあ……)
「さて!気を取り直してもうちょっとだけ練習しようか」
ななもりは手に拳を作って力強く意気込む。
メンバー一人一人が真剣に頷いて「おー!」と声を上げる。
莉犬もマイクを握る手に力を入れてまたライブ練習に取り組んだのだった。
「すとぷり、ね……」
洒落てるダイニングチェアに腰掛けた女性は机に頬杖をついて、一枚の写真を見ながらにこやかになる。
「どんな歌声を聞かせてくれるのかしら……」
その見つめる瞳にはほんの少しの敵対心と期待や興味で溢れていた。
しばらく写真を見ていると、スマホのブザーが鳴り始める。
女性は手に取って「もしもし?」と話し出す。
「分かったわ、今準備するわ」
電話が終わった後、その女性はゆっくりダイニングチェアから腰を上げる。
インイヤーモニターに手を添えて、専用のマイクを持ち上げて僅かな微笑をさせて。
「楽しみね……」
そうぽつりと呟いて、女性は部屋から出ていった。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!