血の匂いが、教室に満ちていた。
双子の片割れは動かない。
もう一方は嗚咽を漏らしながら、冷たい手を握りしめている。
探偵は倒れた身体を冷静に観察し、薬師は失われた薬瓶を握りしめて震えていた。
死神は壁にもたれたまま動かない。
ピエロは……相変わらず、にやにやと、ぼくを見ている。
探偵が言った。
ぼくに視線が集まる。
息が詰まるような感覚だった。
いつのまにか、この教室の空気は「他人を疑う」色に染まっていた。
黒板にはまた文字が浮かぶ。
「推理しろ」
ぼくは深く息を吸い、吐いた。
胸の奥がざわめく。
この状況……逃げられない。
ならば、考えるしかない。
盗まれた薬。
短い休憩時間。
倒れたのは双子の片割れ。
そして、毒を混ぜるには――飲み物か、食べ物が必要。
ぼくは視線を巡らせた。
思い出す。休憩時間、双子が持っていたペットボトル。
その蓋が、他の誰かの机の上に置かれていたこと。
声に出した瞬間、全員の視線が突き刺さる。
ぼくはゆっくりと指を伸ばした。
教室の空気が、爆発するように揺れた。
ピエロの口元の笑みは変わらない。
だが、その瞳だけが、ほんの少しだけ揺れた気がした。
探偵が割って入る。
薬師が震える声で呟く。
ピエロは何も答えない。
ただ、仮面の下で笑っている。
ぼくは拳を握りしめた。
これは、単なる“ゲーム”なんかじゃない。
疑えば、信じられなくなる。
でも――信じなければ、生き残れない。
黒板の文字が最後に一行、ゆっくりと浮かび上がる。
「投票まで、残り一時間」
カチリ。
教室の壁に埋め込まれた古い時計が、無機質な音を立てて動き出した。
こうして、ぼくたちの“最初の推理ゲーム”が幕を開けた。
──信じるか、疑うか。
そして、誰かが次に“死ぬ”までの、残酷なカウントダウンが始まる。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!