〜あなたside〜
『ほんなら、そろそろ戻るか。信ちゃんも心配しとるやろうから』
5分程の会話を終えた後、声を張った。
岩泉「そうだな、遅くなっても良くないしな」
侑「そうですね、俺たちは明日帰りますし」
及川「それじゃ、また今度ね」
そう言って徹がコタローのリードを引いた。
が、しかし。
コタローが私の前に座って一歩も動こうとしない。
及川「ちょっとッ、コタロー!もう帰るよ!」
リードをはじめに託して引くも、びくともしない。
コタロー「くぅぅん...」
寂しそうに弱々しく鳴いた。
『コタロー、もう帰らなあかんから。な?』
コタローの頬を撫でるとその手にさらに顔を擦りつけた。
そんなあざといコタローを見て眉をひそめた。
『徹、ちょお時間ある?』
及川「え、まぁ、あるけど...」
いきなり問いかけられて言葉が詰まったように言った。
『ほんなら少しだけ遊ぼっか、コタロー』
そう言って笑いかけると、
コタロー「わんッ!」
と、元気よく返事をした。
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返信がきたのを確認してスマホの画面を閉じ、ポケットにしまった。
〜及川side〜
あなたがスマホをしまったのと同時に服の裾をコタローが甘噛みして引いた。
当然、リードを持っていた岩ちゃんも連れて行かれた。
ぽつんと宮侑と2人きりで取り残された。
え、これ...
需要ある???
暫く沈黙が続いた。
及川「お前ってさ、あなたのこと、好きなの?」
沈黙を途切れさせたのは俺。
先日の練習試合の時に気になっていたことだ。
隣に立つ宮侑を見ると目を見開いていた。
及川「なんだよ、その顔」
ふんっと鼻を鳴らした。
侑「いや、話しかけられると思おとらんくて...あと......」
2、3度瞬きをして星空を見上げた。
侑「及川くんもあなたさんのこと好きなんやと思おとるから、そんなこと聞かれると想像つかんかったです」
及川「あなたのことは昔は好きだったけど、今は良き友達と思ってるよ」
侑「正直、俺...ちゃんとした恋愛初めてで...しかも追いかける側...分からないことだらけなんですよ」
初めてという言葉に今度は俺が目を見開いた。
及川「マジで言ってんの?」
侑「こんな嘘つかないですよ、笑」
多分あなたも宮侑が好きなんだろうなって思う。
3年っていう短い間だったけど、1番近くであなたを見てきた自信はあるから。
及川「あなたがバレー辞めた時のこと、聞いた?」
もしこれから2人が付き合ったりするんだったら知っていた方がいいだろう。
あなたの過去。
侑「いや...怪我で辞めたとしか...」
及川「じゃあ話しとくよ。知ってて損は無いと思うから」
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。